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跡継ぎ選別
34話
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「第二回戦、トリスタン対クレア! 両者、前に出ぃ!!」
クレアは席から立ちあがり、準備運動を始めた。
「では、行ってくる」
「おう! 軽くひねってこい!」
「頑張ってください!!」
「期待はしています」
クレアは詩音たちの激励を背に、試合場へ向かった。
「では、第二回戦、始め!!!」
試合開始の合図がなされる。
「グハハハハハ!!! 最初がクレアとはラッキーだったぜ! まずは一勝もらったな!」
クレアは黙ったまま刀を抜く。前回の戦いでボロボロになっていた刀身が、クレアの魔力を吸い取り完全に元の美しい姿をとり戻していた。
「行くぞ」
「うおおおおおおおあおああああ!!!」
トリスタンがダッシュする。大男であるが、その身長よりも大きな大剣を振り上げた。
クレアは重心を前に、心神の呼吸を一呼吸挟んで、前に踏み出した。
トリスタンが大剣をふりおろす。しかしクレアは流れる様にそれを躱し背後に周る。だが流石はバンガード家の剣士である。トリスタンは常人では不可能な反射速度を見せ、前に飛び距離を取る。
「背後を取られた……だと……」
「流石の反応速度だ、獣の剣士といわれるだけはある。だが!」
クレアは走り出しながら一振り刀を空振る。
刀身に気がまとい、心神の呼吸を入れ、二歩目以降の動きが加速する。
「島原流、奔流の型……」
蛇行しながらトリスタンとの距離を詰める。その動きに、トリスタン含む周りの観客は川の激流を錯覚した。
危険を察知し、トリスタンは大剣を立て身構える。
「鉄砲水!」
間合いで踏み込み、最後の加速をする。そしてまばたきするよりも速く刀を振り抜く。
トリスタンはあまりの威力に後方に飛ばされ、のけぞってしまう。
すかさず第二撃に入ろうとするクレア。気、呼吸、足さばき、剣さばき、このいずれもが一つの剣技の為に最高のコンビネーションをみせる。
トリスタンはすぐさま足を接地させ、態勢を直す。
「ワイルドクロウ!!」
トリスタンは剣に魔力を流し、刀身が紫に発光する。発動が完了すると、トリスタンの方からクレアに攻撃を仕掛けた。
対するクレアは、走っていた足を一歩遅らせ、スピードを下げる。そして、トリスタンの一撃に備える。
トリスタンが剣を振りかざす。大剣の重さからは考えられないスピードである。そして、魔法の効果で剣の斬撃が3本に増える。
クレアは剣の来る方向、つまり左方向へ突進し、刀で剣を受け、下方向の力のベクトルに逆らわず、刀を滑らせて受流す。
トリスタンはすかさず後方めがけて切り上げる。だがそれも避けられてしまう。その後も連続してワイルドクロウを放つ。大剣は三本の斬撃による残像を描く。
「島原流奔流の型、渓流の舞」
クレアはことごとくを躱し、受流す。それだけではない。少しずつトリスタンに浅くはあるが切り傷ができている。
どうにもならないと判断したトリスタンは、攻撃を中断して距離を取った。
「驚いたぞ。前よりはやるようだな。だが、それでも俺の敵じゃねえ」
トリスタンは剣に毎度魔力を込める。
「獣の沸血!!」
剣が発行し、それと同時にトリスタンの体にも変化が生じた。筋肉が張り、血管が浮き出る。よだれを垂らし、クレアだけを見据えるその姿は、まるで血に飢えた獣の様だ。
トリスタンが動いた。試合場内を縦横無尽に駆け回る。そしてクレアの側面方向から攻撃を仕掛けた。自身と剣の重さと速さで威力が上がり、轢かれるとただでは済まない。
「島原流奔流の型、鳴門流」
突っ込んでくるトリスタンに突っ込み、その方向に回転する。トリスタンの背中を転がり躱していく。その際、トリスタンに対し、斜めに刃を通していた。
突進をやめたトリスタンの背から出血する。そこまで深くはないが確実にダメージになっていた。
すかさずクレアは反撃を開始する。高速でトリスタンとの距離を詰めた。
島原流奔流の型。起源はまだ島原流に徒手術しかなかったころ、島原流門下生であった一人の侍がいた。剣を使わない戦い方を習っていた侍は、山での修行中、川の近くで久方ぶりに刀を握ってみた。するとどうだろう。拳に乗せていた気を刀身に、心神の呼吸を乗せ、島原流の足さばきを応用するとなんとも形になった剣技ができたのだ。その発見から、その侍は独自で技を編み出し、奔流の型を完成させた。始まりの型であるため、島原流剣術においての基本の動きが多いのが特徴で、今後生み出される数々の派生型の基盤となっている。
そんな奔流の型であるが、例外がある。というのも、ほかの派生型のどの型の基盤となっていない、まさにイレギュラーな技が存在する。
「島原流奔流の型、大海の波」
クレアが放った大海の波。これは横の薙ぎ払いを同時方向に何度も繰り返す技である。だが発案者とされる侍、そして今後の歴史の中でごくわずかな者にしか使用ができなかった。一度薙ぎ払ったらもう一度同じ方向から斬る。これは普通にやれば2撃目に移る間が空くが、これは即座に連続して放つ。呼吸、気、そして奔流の型を完全に熟知していないとまず不可能な高難度技であった為、だれも参考にすることができなかったのだ。
クレアが初撃を放つ。トリスタンは剣で受け止める。だが2撃、3撃と同じ攻撃が繰り返されていくうちにトリスタンのガードが甘くなっていった。そして一瞬の隙が生まれ、これをクレアは逃さなかった。
クレアの放った一撃がトリスタンの腹を通り抜ける。今度はしっかりと刃が通り、トリスタンに深手を負わせた。
クレアは距離を取る。トリスタンは大量出血していながらなんのリアクションも見せず立っていることに違和感を感じたからだ。
トリスタンは穏やかな表情をしていた。
「クレア、強くなったんだな。なら、俺、いや、僕も本気で行かないと失礼になるな」
突然、観客席から男が叫んだ。
「まずい、トリスタンが冷静になった! 冷静になったトリスタンはマジで危険だぜ!! あのクレアとか言うやつ死んじまうぞ!!!!」
トリスタンは剣を地面に刺し、詠唱を始める。
「我は自然の奏者、獣の弓兵。我に無駄はいらずあるのは必中のみ。顕現し、我が矢、我が牙を必殺とせよ。フェイルノート!!!」
トリスタンの大剣が形を変え、弓となった。
「クレア、ここからが本気だ。頼むから死ぬなよ?」
クレアは席から立ちあがり、準備運動を始めた。
「では、行ってくる」
「おう! 軽くひねってこい!」
「頑張ってください!!」
「期待はしています」
クレアは詩音たちの激励を背に、試合場へ向かった。
「では、第二回戦、始め!!!」
試合開始の合図がなされる。
「グハハハハハ!!! 最初がクレアとはラッキーだったぜ! まずは一勝もらったな!」
クレアは黙ったまま刀を抜く。前回の戦いでボロボロになっていた刀身が、クレアの魔力を吸い取り完全に元の美しい姿をとり戻していた。
「行くぞ」
「うおおおおおおおあおああああ!!!」
トリスタンがダッシュする。大男であるが、その身長よりも大きな大剣を振り上げた。
クレアは重心を前に、心神の呼吸を一呼吸挟んで、前に踏み出した。
トリスタンが大剣をふりおろす。しかしクレアは流れる様にそれを躱し背後に周る。だが流石はバンガード家の剣士である。トリスタンは常人では不可能な反射速度を見せ、前に飛び距離を取る。
「背後を取られた……だと……」
「流石の反応速度だ、獣の剣士といわれるだけはある。だが!」
クレアは走り出しながら一振り刀を空振る。
刀身に気がまとい、心神の呼吸を入れ、二歩目以降の動きが加速する。
「島原流、奔流の型……」
蛇行しながらトリスタンとの距離を詰める。その動きに、トリスタン含む周りの観客は川の激流を錯覚した。
危険を察知し、トリスタンは大剣を立て身構える。
「鉄砲水!」
間合いで踏み込み、最後の加速をする。そしてまばたきするよりも速く刀を振り抜く。
トリスタンはあまりの威力に後方に飛ばされ、のけぞってしまう。
すかさず第二撃に入ろうとするクレア。気、呼吸、足さばき、剣さばき、このいずれもが一つの剣技の為に最高のコンビネーションをみせる。
トリスタンはすぐさま足を接地させ、態勢を直す。
「ワイルドクロウ!!」
トリスタンは剣に魔力を流し、刀身が紫に発光する。発動が完了すると、トリスタンの方からクレアに攻撃を仕掛けた。
対するクレアは、走っていた足を一歩遅らせ、スピードを下げる。そして、トリスタンの一撃に備える。
トリスタンが剣を振りかざす。大剣の重さからは考えられないスピードである。そして、魔法の効果で剣の斬撃が3本に増える。
クレアは剣の来る方向、つまり左方向へ突進し、刀で剣を受け、下方向の力のベクトルに逆らわず、刀を滑らせて受流す。
トリスタンはすかさず後方めがけて切り上げる。だがそれも避けられてしまう。その後も連続してワイルドクロウを放つ。大剣は三本の斬撃による残像を描く。
「島原流奔流の型、渓流の舞」
クレアはことごとくを躱し、受流す。それだけではない。少しずつトリスタンに浅くはあるが切り傷ができている。
どうにもならないと判断したトリスタンは、攻撃を中断して距離を取った。
「驚いたぞ。前よりはやるようだな。だが、それでも俺の敵じゃねえ」
トリスタンは剣に毎度魔力を込める。
「獣の沸血!!」
剣が発行し、それと同時にトリスタンの体にも変化が生じた。筋肉が張り、血管が浮き出る。よだれを垂らし、クレアだけを見据えるその姿は、まるで血に飢えた獣の様だ。
トリスタンが動いた。試合場内を縦横無尽に駆け回る。そしてクレアの側面方向から攻撃を仕掛けた。自身と剣の重さと速さで威力が上がり、轢かれるとただでは済まない。
「島原流奔流の型、鳴門流」
突っ込んでくるトリスタンに突っ込み、その方向に回転する。トリスタンの背中を転がり躱していく。その際、トリスタンに対し、斜めに刃を通していた。
突進をやめたトリスタンの背から出血する。そこまで深くはないが確実にダメージになっていた。
すかさずクレアは反撃を開始する。高速でトリスタンとの距離を詰めた。
島原流奔流の型。起源はまだ島原流に徒手術しかなかったころ、島原流門下生であった一人の侍がいた。剣を使わない戦い方を習っていた侍は、山での修行中、川の近くで久方ぶりに刀を握ってみた。するとどうだろう。拳に乗せていた気を刀身に、心神の呼吸を乗せ、島原流の足さばきを応用するとなんとも形になった剣技ができたのだ。その発見から、その侍は独自で技を編み出し、奔流の型を完成させた。始まりの型であるため、島原流剣術においての基本の動きが多いのが特徴で、今後生み出される数々の派生型の基盤となっている。
そんな奔流の型であるが、例外がある。というのも、ほかの派生型のどの型の基盤となっていない、まさにイレギュラーな技が存在する。
「島原流奔流の型、大海の波」
クレアが放った大海の波。これは横の薙ぎ払いを同時方向に何度も繰り返す技である。だが発案者とされる侍、そして今後の歴史の中でごくわずかな者にしか使用ができなかった。一度薙ぎ払ったらもう一度同じ方向から斬る。これは普通にやれば2撃目に移る間が空くが、これは即座に連続して放つ。呼吸、気、そして奔流の型を完全に熟知していないとまず不可能な高難度技であった為、だれも参考にすることができなかったのだ。
クレアが初撃を放つ。トリスタンは剣で受け止める。だが2撃、3撃と同じ攻撃が繰り返されていくうちにトリスタンのガードが甘くなっていった。そして一瞬の隙が生まれ、これをクレアは逃さなかった。
クレアの放った一撃がトリスタンの腹を通り抜ける。今度はしっかりと刃が通り、トリスタンに深手を負わせた。
クレアは距離を取る。トリスタンは大量出血していながらなんのリアクションも見せず立っていることに違和感を感じたからだ。
トリスタンは穏やかな表情をしていた。
「クレア、強くなったんだな。なら、俺、いや、僕も本気で行かないと失礼になるな」
突然、観客席から男が叫んだ。
「まずい、トリスタンが冷静になった! 冷静になったトリスタンはマジで危険だぜ!! あのクレアとか言うやつ死んじまうぞ!!!!」
トリスタンは剣を地面に刺し、詠唱を始める。
「我は自然の奏者、獣の弓兵。我に無駄はいらずあるのは必中のみ。顕現し、我が矢、我が牙を必殺とせよ。フェイルノート!!!」
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