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第ニ章
14.
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「ちっ」
カルは小さく舌打ちした。目の前の巨躯が棍棒を振り回す。何も考えてないのか軌道は出鱈目だった。だが棍棒は重く、掠っただけでもただでは済まなさそうで、うかうかと近づけない。
それを証拠に、躊躇して動きが悪くなったカルを狙って敵兵の一人が剣を振るってきたが、運悪く振り回した棍棒に当たりそのまま頭部を横殴りされて吹っ飛んだ。頭部は潰れ、そのまま見せしめのように血溜まりの中に倒れている。実際、その有り様に臆したのか他の兵は周りを取り囲むばかりで近付いてこない。
カルはそれでも二度、剣を突き刺したが厚い肉塊は血を流しこそすれ、動きは変わらない。元々動き自体は緩慢とはいえ、どろっとした眼は痛みを感じているのかさえ解りかねた。
「マジで人間かよ……」
呟いた時、ここにいない奴の面影浮かんだ。
「あいつ、何で来ないんだよ」
呟かれた自分の声を即座に脳裏で否定する。
何考えてんだ。よりによってこんな状況下でヤツを頼りにするなんて。まるで窮地のようじゃないか。終わってるぞ。
一瞬のその思考が隙を生んだのか、棍棒がカルを捉えて真上から振り下ろされた。
カルは剣を両手で持ってそれを頭上で止めた。
剣は折れることなく受け止めた。カルは重心を下げて全身で耐える。ギリギリと音がする。
その時、雨を切り裂くような叫びがした。
「伏せろ!!!!」
今そんな事をしたら、そのまま棍棒が振り下ろされるのはわかっていたが、ヴィルマのその声にカルは瞬時に反応した。それだけの必死の叫びだった。剣から投げ棄てるように手を離すと、その勢いのまま地面に倒れ伏した。
次の瞬間、キーンという耳鳴りのような音がして、そして、無音が来た。雨音さえ、しなかった。
……………。
やがて、音が戻った。雨音がする。そして木々が雨を弾く音が。鳥の鳴き声もする。だが、人の出す音がない。
カルは自分の上に載っている生暖かくて重いモノをどけて、下から這いずり出た。先程まで戦っていた相手だったそれは、肩から首にかけてざっくりと斬られ、今度こそただの肉塊と化していた。
「……何が起きた?」
片膝をついたまま辺りを見回す。まるで血の雨が降ったように地面は赤く染まっている。その上にやけに多くの葉や枝が散り、そして人間たちが倒れていた。今の今まで動いて争っていた相手だ。見回した限り、その場で動いている敵兵はいなかった。
カルは視線をある場所に向ける。そして顔が少し緩んだ。
「ヴィルマ……」
視線の先では、女騎士が立ちあがろうと四つん這いになっていた。だが、力を使い果たしたのかふらふらして上手くいっていない。
だが、生きていることは確かだ。
「ヴィルマ、無事……」
カルは声をかけようとして言葉を切った。ヴィルマの奥に、戦場には相応しくない華奢な手足を見つけた。その人は動く気配を全く見せる事なく、水の溜まる地面の上に仰向けに倒れている。そして、彼女自身も取り巻く水溜まりも赤く染まっていた。
「……! リリアス!!」
カルは叫ぶと同時に彼女の元へ駆け出した。
カルは小さく舌打ちした。目の前の巨躯が棍棒を振り回す。何も考えてないのか軌道は出鱈目だった。だが棍棒は重く、掠っただけでもただでは済まなさそうで、うかうかと近づけない。
それを証拠に、躊躇して動きが悪くなったカルを狙って敵兵の一人が剣を振るってきたが、運悪く振り回した棍棒に当たりそのまま頭部を横殴りされて吹っ飛んだ。頭部は潰れ、そのまま見せしめのように血溜まりの中に倒れている。実際、その有り様に臆したのか他の兵は周りを取り囲むばかりで近付いてこない。
カルはそれでも二度、剣を突き刺したが厚い肉塊は血を流しこそすれ、動きは変わらない。元々動き自体は緩慢とはいえ、どろっとした眼は痛みを感じているのかさえ解りかねた。
「マジで人間かよ……」
呟いた時、ここにいない奴の面影浮かんだ。
「あいつ、何で来ないんだよ」
呟かれた自分の声を即座に脳裏で否定する。
何考えてんだ。よりによってこんな状況下でヤツを頼りにするなんて。まるで窮地のようじゃないか。終わってるぞ。
一瞬のその思考が隙を生んだのか、棍棒がカルを捉えて真上から振り下ろされた。
カルは剣を両手で持ってそれを頭上で止めた。
剣は折れることなく受け止めた。カルは重心を下げて全身で耐える。ギリギリと音がする。
その時、雨を切り裂くような叫びがした。
「伏せろ!!!!」
今そんな事をしたら、そのまま棍棒が振り下ろされるのはわかっていたが、ヴィルマのその声にカルは瞬時に反応した。それだけの必死の叫びだった。剣から投げ棄てるように手を離すと、その勢いのまま地面に倒れ伏した。
次の瞬間、キーンという耳鳴りのような音がして、そして、無音が来た。雨音さえ、しなかった。
……………。
やがて、音が戻った。雨音がする。そして木々が雨を弾く音が。鳥の鳴き声もする。だが、人の出す音がない。
カルは自分の上に載っている生暖かくて重いモノをどけて、下から這いずり出た。先程まで戦っていた相手だったそれは、肩から首にかけてざっくりと斬られ、今度こそただの肉塊と化していた。
「……何が起きた?」
片膝をついたまま辺りを見回す。まるで血の雨が降ったように地面は赤く染まっている。その上にやけに多くの葉や枝が散り、そして人間たちが倒れていた。今の今まで動いて争っていた相手だ。見回した限り、その場で動いている敵兵はいなかった。
カルは視線をある場所に向ける。そして顔が少し緩んだ。
「ヴィルマ……」
視線の先では、女騎士が立ちあがろうと四つん這いになっていた。だが、力を使い果たしたのかふらふらして上手くいっていない。
だが、生きていることは確かだ。
「ヴィルマ、無事……」
カルは声をかけようとして言葉を切った。ヴィルマの奥に、戦場には相応しくない華奢な手足を見つけた。その人は動く気配を全く見せる事なく、水の溜まる地面の上に仰向けに倒れている。そして、彼女自身も取り巻く水溜まりも赤く染まっていた。
「……! リリアス!!」
カルは叫ぶと同時に彼女の元へ駆け出した。
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