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第ニ章
11.
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と、ふいに抱きしめられた。びっくりして涙も止まりそうになる。え? 何? と聞く前にカルの声がした。
「ごめん、あんたは巻き込まれただけなのにな。そもそもあんたを護るのも俺の役目だってのに、自分の力の無さを棚に上げて何を言ってるんだろう、俺。悪かった。ごめん」
そう言ってますますぎゅっと抱きしめられた。抱え込まれるように力強く抱きしめられ過ぎて、身動きもとれない。
凄く混乱した。そして同じくらい安心した。彼は力強かった。包まれて温かかった。また涙が溢れてきた。そのまま縋りたくなって自ら彼に触れようとした瞬間、両肩を持ってゆっくり引き離される。
ちょっと待って。今、私、何しようとした?
頬が火照る。カルの顔を見ることができない。そのまま体を離そうとして、でも出来なかった。肩からどかされた彼の手は今度は私の両頬を包んでいて、これ以上離れることができない。そのまま顔を上に向かせようとしてくる。意のままになるのに抵抗感を覚えて、顔を上げないようにしながら視線だけ上げて彼を見る。
間深く被ったフードと暗い空が彼の顔に深い影を作り表情が見えなかった。ただ、強い眼差しを感じた。私を射抜くように見つめる眼差しを。ゾクっとして体が小さく震えた。顔が徐々に上を向く。黒い影のようにカルが近づいてくる。息が止まりそうだった。ああ、このまま影にのまれて……。
私は目をぎゅっと瞑ると、首を下に向けようと彼の力に全力で抵抗した。自然と両手を握って腕を上げて顔の前に持ってくる。カルの手を離させたかった。
やめて、触らないで。これ以上私に触れないで。お願いだから。もう、これ以上触れられたら私は……。
「あ、あ、の、で、私はここにいればいいのね?」
抵抗しながら無理やり声を出した。声が震えるのを止めることはできなかった。不意に抵抗がなくなり、頬に触れていた手がどかされた。ほっとして体から力が抜けて息をついた。
「ああ、雨になるべく濡れないようにしてじっとしててくれ。連れて行きたいところだけど馬にあんまり二人乗りさせるわけにもいかないし、敵に出くわした時戦えないし。今度はすぐ戻ってくるよ」
明るい、いつものカルの声だった。私は顔をあげる。フードを外して笑いかける彼がいた。
「ごめん、あんたは巻き込まれただけなのにな。そもそもあんたを護るのも俺の役目だってのに、自分の力の無さを棚に上げて何を言ってるんだろう、俺。悪かった。ごめん」
そう言ってますますぎゅっと抱きしめられた。抱え込まれるように力強く抱きしめられ過ぎて、身動きもとれない。
凄く混乱した。そして同じくらい安心した。彼は力強かった。包まれて温かかった。また涙が溢れてきた。そのまま縋りたくなって自ら彼に触れようとした瞬間、両肩を持ってゆっくり引き離される。
ちょっと待って。今、私、何しようとした?
頬が火照る。カルの顔を見ることができない。そのまま体を離そうとして、でも出来なかった。肩からどかされた彼の手は今度は私の両頬を包んでいて、これ以上離れることができない。そのまま顔を上に向かせようとしてくる。意のままになるのに抵抗感を覚えて、顔を上げないようにしながら視線だけ上げて彼を見る。
間深く被ったフードと暗い空が彼の顔に深い影を作り表情が見えなかった。ただ、強い眼差しを感じた。私を射抜くように見つめる眼差しを。ゾクっとして体が小さく震えた。顔が徐々に上を向く。黒い影のようにカルが近づいてくる。息が止まりそうだった。ああ、このまま影にのまれて……。
私は目をぎゅっと瞑ると、首を下に向けようと彼の力に全力で抵抗した。自然と両手を握って腕を上げて顔の前に持ってくる。カルの手を離させたかった。
やめて、触らないで。これ以上私に触れないで。お願いだから。もう、これ以上触れられたら私は……。
「あ、あ、の、で、私はここにいればいいのね?」
抵抗しながら無理やり声を出した。声が震えるのを止めることはできなかった。不意に抵抗がなくなり、頬に触れていた手がどかされた。ほっとして体から力が抜けて息をついた。
「ああ、雨になるべく濡れないようにしてじっとしててくれ。連れて行きたいところだけど馬にあんまり二人乗りさせるわけにもいかないし、敵に出くわした時戦えないし。今度はすぐ戻ってくるよ」
明るい、いつものカルの声だった。私は顔をあげる。フードを外して笑いかける彼がいた。
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