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第ニ章

10.

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「変わり者だったんだ。だからウーヴェルの一族の、それも気が強いことで有名な女に手を出して孕ませたりするんだ。あー、マジでいい迷惑」

 カルは強い口調で言うと馬の足を早めた。私はしっかりと捕まえていてくれる左腕にすっかり慣れて安心して考えを巡らす。

 迷惑と思ってもそこまで言ったらヴィデル王は生まれなかったわけで。とはいえ、確かにいくら変わり者でも流石に無責任だわね。

 ……でも、おかしい。私の先王の印象と違いすぎる。私が国で学んだ際に感じたのは、難しい問題が起きた時にうまくやり過ごしたバランス感覚に優れた戦略家の王、というものだった。もちろん机上での話なんて実際と違うと言ってしまえばそれまでなんだけど。

 ……でも、本当に計算されていたのだとしたら?初めから第二子に王位を譲りたくて機会を狙っていたのだとしたら。ヴィデル王はまだ庶子の扱いの時に、東方民族と帝国との間に起きた先の戦に自国の兵を率いて参戦している。その時に総崩れを起こしそうだった帝国軍を立て直しギリギリ勝たせた立役者だ。帝国から勲章ももらったと聞いている。そしてその頃、この国の先王は病床についていたはず。だから王太子は代理として……。

「王太子殿は無能?」

 思わず声に出して言ってしまった。流石に人の国の王族なのに。だが、カルはぼそっと答えた。

「さあな……周り次第だ」

 それはダメって事では。私は自分の想像におかしくなって笑ってしまった。裏付けはないけれど、あり得る話だもの。

「なんだよ」
「いえ、間に合ってよかったなって」

 何が本当に起こったかは知るべくもないが、おかげであの美しい人が王になり私の夫になるわけで。

「なーんか知らんけど。とにかく話戻すがそんなわけで抵抗するなよ」
「でも、なーんかやだな。元王太子殿がどんな方か知らないけど」

 カルの言い方を真似て言い返す。

「あ、面食いだぞ。だからってのもあるかのなあ。というかあの一族は全員面食いか」
「あら、だったら、私に会ったら気が変わっちゃうかも。殺されるのは困るわ。あ、でも一族なら陛下もそうってこと?やだ、どうしよう」

 なんだか申し訳ないわ。

「……お前さ、本当にもしかして馬鹿?」
「失礼ね!それにお前って言うのも……!」

 私は思わず首を上に向ける。と、体がぶれた。わっと一瞬思ったがカルが腕に力を込めて体勢が崩れずに済んだ。

「ご、ごめん」
「ったく、だいたいさあ、顔も直接知らんくせにさあ、何を期待してるか知らないけど、めでたいよな」
「いいじゃない別に。あなたの顔だって今朝まで知らなかったわよ」
「確かに」

 カルの笑い声が上から降ってくる。

「それに、そもそもこの国に来ることになるなんて数日前まで知らなかったのよ。旅の間くらい夢見てたっていいじゃない」
「それ聞くとちょっとは同情したくなるな。恨む先は兄貴にしといてくれ」

 明るく彼は言った。なぜか顔が見たいな、と思った。視線だけ上げるも見えない。
 その代わり、彼の温かな体温と支える腕の痛いくらいの力強さと、手綱捌きに合わせた筋肉の動きが伝わってくる。私は胸の奥が重く動いて思わず目を瞑って息を深く吸った。

「さてと、では、お待ちかね」
「え?」
「愛しい王様の居城だぞ」

 そうカルが可笑しそうに言うのと、森を抜けるのは同時だった。目の前が、開けた。
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