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15. 終章・光の庭 ④
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「ほんとに馬鹿だな、あんたは」
「な、なによ、人にそんなことばっかり言って。どこがよ」
「強いて言えば、いつまでたっても俺を自分の所有物くらいに思っているところかな」
「そんなこと思ってないもん」
だよね? 私。
「じゃあ、聞きますが、なんで私が出て行く時引き止めたんですか」
「え、だって行って欲しくなくって……」
私は当時のことを思い出す。ワガママな子供だったかもしれない、でも。
「身勝手だったかもしれないけど、そばにいて欲しかったんだもの。だから……、だから頼んだの」
でも榛瑠は見向きもしなくて。そしてだいぶ後になって私はやっと彼が戻らないことを悟ったのだ。
ふーん、と彼は言った。「どうせなら命令すればよかったのに」
どう違うのかわからなかった。命令、なら彼はそばにいたのだろうか。
「そしたら行かなかった?」
「立場の自覚があるだけマシって話です」
面白くもなさそうに彼は答える。そう、榛瑠はたまにこんな風にひどく私に冷たくなる。
なんで?喉のあたりが詰まったように感じる。
「私、本当に指輪もらっていいの?返そうか?」
「返品不可」
榛瑠は冷たく言い切る。だったらもうちょっと優しくしてくれてもいいじゃない。
右手で指輪をさわる。涙がでそうだった。
「……そんなんだから疑っちゃうんじゃない。本当は嫌われてるんじゃないかとか、ただお嬢様だから相手してくれてるとか、会社のために戻って来たとか、思うんじゃない」
そうよ、「私のせいじゃない!榛瑠がいつだって悪いのよ!」
涙が滲んだ。いまさっき、最高に幸福だったのに。なんで?
榛瑠が私を抱き寄せた。広くて温かくていい匂いがする。
「あなたは私にとってはずっとお嬢様ですよ。ワガママで勝手で可愛い、ね。どこかの条件だけはいい男と適当に幸せになるはずの人だったのに、いつまでたってもフラフラしてるし。お陰でこんなことになる」
散々したお見合いの話?それとも破談になった婚約者の話?私は彼から体を離した。
「かわいそうに思ってもらわなくてもいいよ。そんなのなら要らない」
「かわいそう?あなたのどこが?むしろかわいそうなのは私ですよ」
「それこそどこが?いつだって俺様顔で好き勝手やってたくせに!」
そんなあなたをいつだって追いかけていた。そしていつだって届かなかった。
「お嬢様じゃなかったら相手にもしなかったんでしょうよ。いつだって上から目線で。大っ嫌い!」
次の瞬間、地面に押し倒されていた。両手首が彼の両手で押さえ込まれていて全然動けない。
「いいかげんにしろ」
榛瑠の低いつぶやきが聞こえた。
榛瑠がワンピースの胸元の白いリボンを噛んで引っ張る。リボンがほどけて首回りのギャザーが緩む。
「ちょっ、ちょっと!」
私の慌てた声は全く無視される。彼と視線が合わない。というか、押さえ込まれていて目に入らない。
はだけたであろう胸元にひやっとしたものを感じた。舌の感触だった。
「ーー!」
思わず目をつぶった。逃れようと手首を動かそうとするが全く動かせない。
「やだっ」
自分の意思と反して息が荒くなる。榛瑠の舌が慌てることなくゆっくりと胸の下着の線に沿って肌をなぞっていく。
体がおかしくなる。声が漏れないように唇をかむ。そして代わりに涙がにじむ。
お願い、やめて。そんなふうに冷たく触らないで。
舌が止まった。息がつける。と思ったら、下着の上から、胸の一番高くなったところを噛まれた。
いやっ。
そう言う代わりに、我慢できず喉の奥から恥ずかしくなるような声が漏れたとき、ふっと、彼が頭をあげた。
ほっとした、と思ったら今度は首の横を舐められた。全身がぞくっとする。
「おねが……い……どいて」
半分、泣き声だった。
「で、そばに置いてどうするつもりだった?」
榛瑠が耳元で囁いた。冷静な声だった。
言ってる意味がすぐには理解できなかった。なんのこと?体は火照り続けている。
「引き止めてそばに置いて何をさせるつもりだったの?お嬢様」
声がわずかに嘲笑うような含みを帯びる。言っている意味がやっと理解できる。
「なにって……」
なにも。それまで通りそばにいて欲しかっただけ。
「お忘れかもしれないので申し上げますが、あなたその時点で婚約者がいたんですよ?破談になる気配もなく順調におつきあいされていましたよね?」
榛瑠が私を見た。思ったより優しい顔をしていてびっくりする。
なに?なんで?
「あなたの父親は私を手元で育てて会社を一時的に継がせたがったようです。いつか生まれるだろうあなたの子に譲るまでの間、資産を守る人間としてね。あなたは?」
「わ、わたしは……」
「新婚の屋敷で嶋さんの後でも継がせる気でした?あなたが夫と愛し合う家を守るために?部屋の前にでも立たせておく気だった?」
わたしは呆然と彼を見あげた。
「な、なによ、人にそんなことばっかり言って。どこがよ」
「強いて言えば、いつまでたっても俺を自分の所有物くらいに思っているところかな」
「そんなこと思ってないもん」
だよね? 私。
「じゃあ、聞きますが、なんで私が出て行く時引き止めたんですか」
「え、だって行って欲しくなくって……」
私は当時のことを思い出す。ワガママな子供だったかもしれない、でも。
「身勝手だったかもしれないけど、そばにいて欲しかったんだもの。だから……、だから頼んだの」
でも榛瑠は見向きもしなくて。そしてだいぶ後になって私はやっと彼が戻らないことを悟ったのだ。
ふーん、と彼は言った。「どうせなら命令すればよかったのに」
どう違うのかわからなかった。命令、なら彼はそばにいたのだろうか。
「そしたら行かなかった?」
「立場の自覚があるだけマシって話です」
面白くもなさそうに彼は答える。そう、榛瑠はたまにこんな風にひどく私に冷たくなる。
なんで?喉のあたりが詰まったように感じる。
「私、本当に指輪もらっていいの?返そうか?」
「返品不可」
榛瑠は冷たく言い切る。だったらもうちょっと優しくしてくれてもいいじゃない。
右手で指輪をさわる。涙がでそうだった。
「……そんなんだから疑っちゃうんじゃない。本当は嫌われてるんじゃないかとか、ただお嬢様だから相手してくれてるとか、会社のために戻って来たとか、思うんじゃない」
そうよ、「私のせいじゃない!榛瑠がいつだって悪いのよ!」
涙が滲んだ。いまさっき、最高に幸福だったのに。なんで?
榛瑠が私を抱き寄せた。広くて温かくていい匂いがする。
「あなたは私にとってはずっとお嬢様ですよ。ワガママで勝手で可愛い、ね。どこかの条件だけはいい男と適当に幸せになるはずの人だったのに、いつまでたってもフラフラしてるし。お陰でこんなことになる」
散々したお見合いの話?それとも破談になった婚約者の話?私は彼から体を離した。
「かわいそうに思ってもらわなくてもいいよ。そんなのなら要らない」
「かわいそう?あなたのどこが?むしろかわいそうなのは私ですよ」
「それこそどこが?いつだって俺様顔で好き勝手やってたくせに!」
そんなあなたをいつだって追いかけていた。そしていつだって届かなかった。
「お嬢様じゃなかったら相手にもしなかったんでしょうよ。いつだって上から目線で。大っ嫌い!」
次の瞬間、地面に押し倒されていた。両手首が彼の両手で押さえ込まれていて全然動けない。
「いいかげんにしろ」
榛瑠の低いつぶやきが聞こえた。
榛瑠がワンピースの胸元の白いリボンを噛んで引っ張る。リボンがほどけて首回りのギャザーが緩む。
「ちょっ、ちょっと!」
私の慌てた声は全く無視される。彼と視線が合わない。というか、押さえ込まれていて目に入らない。
はだけたであろう胸元にひやっとしたものを感じた。舌の感触だった。
「ーー!」
思わず目をつぶった。逃れようと手首を動かそうとするが全く動かせない。
「やだっ」
自分の意思と反して息が荒くなる。榛瑠の舌が慌てることなくゆっくりと胸の下着の線に沿って肌をなぞっていく。
体がおかしくなる。声が漏れないように唇をかむ。そして代わりに涙がにじむ。
お願い、やめて。そんなふうに冷たく触らないで。
舌が止まった。息がつける。と思ったら、下着の上から、胸の一番高くなったところを噛まれた。
いやっ。
そう言う代わりに、我慢できず喉の奥から恥ずかしくなるような声が漏れたとき、ふっと、彼が頭をあげた。
ほっとした、と思ったら今度は首の横を舐められた。全身がぞくっとする。
「おねが……い……どいて」
半分、泣き声だった。
「で、そばに置いてどうするつもりだった?」
榛瑠が耳元で囁いた。冷静な声だった。
言ってる意味がすぐには理解できなかった。なんのこと?体は火照り続けている。
「引き止めてそばに置いて何をさせるつもりだったの?お嬢様」
声がわずかに嘲笑うような含みを帯びる。言っている意味がやっと理解できる。
「なにって……」
なにも。それまで通りそばにいて欲しかっただけ。
「お忘れかもしれないので申し上げますが、あなたその時点で婚約者がいたんですよ?破談になる気配もなく順調におつきあいされていましたよね?」
榛瑠が私を見た。思ったより優しい顔をしていてびっくりする。
なに?なんで?
「あなたの父親は私を手元で育てて会社を一時的に継がせたがったようです。いつか生まれるだろうあなたの子に譲るまでの間、資産を守る人間としてね。あなたは?」
「わ、わたしは……」
「新婚の屋敷で嶋さんの後でも継がせる気でした?あなたが夫と愛し合う家を守るために?部屋の前にでも立たせておく気だった?」
わたしは呆然と彼を見あげた。
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