天使は金の瞳で毒を盛る

藤野ひま

文字の大きさ
上 下
33 / 50

11. 続・令嬢の憂鬱 ②

しおりを挟む
「勅使川原さん、あなた今日結構ひどい顔してますよ?」

始業前、私は面白そうに自販機の前で声をかけてきた男を見上げた。

「すみません、大丈夫です、課長」

私はコーヒーのボタンを押しながら不機嫌に答える。ほんのちょっと頭いたくて重いだけです。ええ、大したことはないですとも。

「二日酔いになるほど、なんの話したんです?社長と」

榛瑠が私にこっそり囁く。

「……別に」

話にもならないような、話でしたわよ。

「そうですか。来月のパーティーの話聞きました?」

「あ、聞いた。行くの?」

「出ろと言われてますから」

あー、そうなんだあ。本当に榛瑠を連れまわしてるなあ。

「正直、面倒ですが、仕方がありません」

「先輩達とは直接面識あるんだっけ?」

「あります。あんまり好かれてもいなさそうでしたけど」

人も増えてきたし、そこまで話したところで私は出てきたコーヒーを手にデスクに向かった。

まだ、始業までには一応時間もある。一息つくと、熱いコーヒーを口にする。

コーヒーの香りに包まれながら、重い頭を抱えてぼんやりする。

それにしても、群城先輩達も大変だ。若くして責任ある地位につくという、華やかさとは別の側面をつい考えてしまう。

ま、優秀だったらしいし、なんとかするんだろうけどね。あの学園の人はよくも悪くもそういう人たちが多かった。みんな自信に満ちてて優秀で。

……なんだか、思い出したら落ち込みそう。

流石に群城家の例は特別だけど、それでもそれなりの仕事をして世間で名を聞く人達が多い。

きっと今回、学園の卒業生で出席する人も多いだろう。そんな中に入って話をするのは考えただけで気が重い。私なんて在学中から取り柄なかったし、今更いいけど。

榛瑠がちょうどデスクに着こうとしているのが目に入った。

パーティー、嫌そうだったな。彼も災難だなあ、お父様も大概にすればいいのに。

私は飲み終わった紙コップを捨てるために席を立って廊下に出た。

でも、群城家の双子は中等部でも有名だったけど、榛瑠のほうが噂の頻度では高かった気がする。

外見が目をひくということもあるけれど、いくら我が家の庇護を受けているとはいえ名家の出でもなく、おまけに内部進学じゃない転入生が生徒会長になるということが、考えられない学校だったから。

でも彼は易々とにこやかに、と言われていたけど私に言わせてみれば薄ら笑いを浮かべて、その座に座った。

他の生徒会のメンバーも目立つ人が多く、その回の生徒会は最強だのなんだの、尾ひれもつきながら話題が絶えなかった。

なんだか今となってはちょっと笑っちゃう。狭い世界でみんな本気で競ってたなあ。

あれからもう、何年?10年?
今は本物の社会を相手に戦っているわけで。

それにしても、あれだけ目立っていた榛瑠は 今は一企業の課長だ。

それを考えるとモヤモヤしてしまう。彼がパーティーに行くのを嫌だと思っても当たり前というか。

榛瑠は本当に面倒なだけで、気にしてない気がするけど。もちろんみんなが皆、成功してるわけではないし。

でもね。

世の中は理不尽にできている。

紙コップを自販機の横に置いてある専用のゴミ箱に捨てる。カコッっと乾いた音がした。

まあね、私なんてもっと冴えないけど……。

そんな私でもお嬢様ってだけで大きな顔できちゃうんだから、考えてみたらひどい話。

そこで、気づいた。

彼は私と結婚できればそこらへん全部解決なんじゃい?

いや、わかってたけど、わかっていたはずだけど。

彼にとって、私はチャンスを体現しているのではないの?

私は立ち尽くした。どうして気づかなかった?いや、わかっていたはずなのに、どうしてそこに私は愛だの恋だの介在させようとした?

私は、あらゆる贈り物をもって生まれ出たとしか思えない人が、唯一持っていないものを持っている。

そして、私はそれを与えることができる。

今初めて、私は自分の持つものの意味を知った気がした。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

処理中です...