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11. 続・令嬢の憂鬱 ②
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「勅使川原さん、あなた今日結構ひどい顔してますよ?」
始業前、私は面白そうに自販機の前で声をかけてきた男を見上げた。
「すみません、大丈夫です、課長」
私はコーヒーのボタンを押しながら不機嫌に答える。ほんのちょっと頭いたくて重いだけです。ええ、大したことはないですとも。
「二日酔いになるほど、なんの話したんです?社長と」
榛瑠が私にこっそり囁く。
「……別に」
話にもならないような、話でしたわよ。
「そうですか。来月のパーティーの話聞きました?」
「あ、聞いた。行くの?」
「出ろと言われてますから」
あー、そうなんだあ。本当に榛瑠を連れまわしてるなあ。
「正直、面倒ですが、仕方がありません」
「先輩達とは直接面識あるんだっけ?」
「あります。あんまり好かれてもいなさそうでしたけど」
人も増えてきたし、そこまで話したところで私は出てきたコーヒーを手にデスクに向かった。
まだ、始業までには一応時間もある。一息つくと、熱いコーヒーを口にする。
コーヒーの香りに包まれながら、重い頭を抱えてぼんやりする。
それにしても、群城先輩達も大変だ。若くして責任ある地位につくという、華やかさとは別の側面をつい考えてしまう。
ま、優秀だったらしいし、なんとかするんだろうけどね。あの学園の人はよくも悪くもそういう人たちが多かった。みんな自信に満ちてて優秀で。
……なんだか、思い出したら落ち込みそう。
流石に群城家の例は特別だけど、それでもそれなりの仕事をして世間で名を聞く人達が多い。
きっと今回、学園の卒業生で出席する人も多いだろう。そんな中に入って話をするのは考えただけで気が重い。私なんて在学中から取り柄なかったし、今更いいけど。
榛瑠がちょうどデスクに着こうとしているのが目に入った。
パーティー、嫌そうだったな。彼も災難だなあ、お父様も大概にすればいいのに。
私は飲み終わった紙コップを捨てるために席を立って廊下に出た。
でも、群城家の双子は中等部でも有名だったけど、榛瑠のほうが噂の頻度では高かった気がする。
外見が目をひくということもあるけれど、いくら我が家の庇護を受けているとはいえ名家の出でもなく、おまけに内部進学じゃない転入生が生徒会長になるということが、考えられない学校だったから。
でも彼は易々とにこやかに、と言われていたけど私に言わせてみれば薄ら笑いを浮かべて、その座に座った。
他の生徒会のメンバーも目立つ人が多く、その回の生徒会は最強だのなんだの、尾ひれもつきながら話題が絶えなかった。
なんだか今となってはちょっと笑っちゃう。狭い世界でみんな本気で競ってたなあ。
あれからもう、何年?10年?
今は本物の社会を相手に戦っているわけで。
それにしても、あれだけ目立っていた榛瑠は 今は一企業の課長だ。
それを考えるとモヤモヤしてしまう。彼がパーティーに行くのを嫌だと思っても当たり前というか。
榛瑠は本当に面倒なだけで、気にしてない気がするけど。もちろんみんなが皆、成功してるわけではないし。
でもね。
世の中は理不尽にできている。
紙コップを自販機の横に置いてある専用のゴミ箱に捨てる。カコッっと乾いた音がした。
まあね、私なんてもっと冴えないけど……。
そんな私でもお嬢様ってだけで大きな顔できちゃうんだから、考えてみたらひどい話。
そこで、気づいた。
彼は私と結婚できればそこらへん全部解決なんじゃい?
いや、わかってたけど、わかっていたはずだけど。
彼にとって、私はチャンスを体現しているのではないの?
私は立ち尽くした。どうして気づかなかった?いや、わかっていたはずなのに、どうしてそこに私は愛だの恋だの介在させようとした?
私は、あらゆる贈り物をもって生まれ出たとしか思えない人が、唯一持っていないものを持っている。
そして、私はそれを与えることができる。
今初めて、私は自分の持つものの意味を知った気がした。
始業前、私は面白そうに自販機の前で声をかけてきた男を見上げた。
「すみません、大丈夫です、課長」
私はコーヒーのボタンを押しながら不機嫌に答える。ほんのちょっと頭いたくて重いだけです。ええ、大したことはないですとも。
「二日酔いになるほど、なんの話したんです?社長と」
榛瑠が私にこっそり囁く。
「……別に」
話にもならないような、話でしたわよ。
「そうですか。来月のパーティーの話聞きました?」
「あ、聞いた。行くの?」
「出ろと言われてますから」
あー、そうなんだあ。本当に榛瑠を連れまわしてるなあ。
「正直、面倒ですが、仕方がありません」
「先輩達とは直接面識あるんだっけ?」
「あります。あんまり好かれてもいなさそうでしたけど」
人も増えてきたし、そこまで話したところで私は出てきたコーヒーを手にデスクに向かった。
まだ、始業までには一応時間もある。一息つくと、熱いコーヒーを口にする。
コーヒーの香りに包まれながら、重い頭を抱えてぼんやりする。
それにしても、群城先輩達も大変だ。若くして責任ある地位につくという、華やかさとは別の側面をつい考えてしまう。
ま、優秀だったらしいし、なんとかするんだろうけどね。あの学園の人はよくも悪くもそういう人たちが多かった。みんな自信に満ちてて優秀で。
……なんだか、思い出したら落ち込みそう。
流石に群城家の例は特別だけど、それでもそれなりの仕事をして世間で名を聞く人達が多い。
きっと今回、学園の卒業生で出席する人も多いだろう。そんな中に入って話をするのは考えただけで気が重い。私なんて在学中から取り柄なかったし、今更いいけど。
榛瑠がちょうどデスクに着こうとしているのが目に入った。
パーティー、嫌そうだったな。彼も災難だなあ、お父様も大概にすればいいのに。
私は飲み終わった紙コップを捨てるために席を立って廊下に出た。
でも、群城家の双子は中等部でも有名だったけど、榛瑠のほうが噂の頻度では高かった気がする。
外見が目をひくということもあるけれど、いくら我が家の庇護を受けているとはいえ名家の出でもなく、おまけに内部進学じゃない転入生が生徒会長になるということが、考えられない学校だったから。
でも彼は易々とにこやかに、と言われていたけど私に言わせてみれば薄ら笑いを浮かべて、その座に座った。
他の生徒会のメンバーも目立つ人が多く、その回の生徒会は最強だのなんだの、尾ひれもつきながら話題が絶えなかった。
なんだか今となってはちょっと笑っちゃう。狭い世界でみんな本気で競ってたなあ。
あれからもう、何年?10年?
今は本物の社会を相手に戦っているわけで。
それにしても、あれだけ目立っていた榛瑠は 今は一企業の課長だ。
それを考えるとモヤモヤしてしまう。彼がパーティーに行くのを嫌だと思っても当たり前というか。
榛瑠は本当に面倒なだけで、気にしてない気がするけど。もちろんみんなが皆、成功してるわけではないし。
でもね。
世の中は理不尽にできている。
紙コップを自販機の横に置いてある専用のゴミ箱に捨てる。カコッっと乾いた音がした。
まあね、私なんてもっと冴えないけど……。
そんな私でもお嬢様ってだけで大きな顔できちゃうんだから、考えてみたらひどい話。
そこで、気づいた。
彼は私と結婚できればそこらへん全部解決なんじゃい?
いや、わかってたけど、わかっていたはずだけど。
彼にとって、私はチャンスを体現しているのではないの?
私は立ち尽くした。どうして気づかなかった?いや、わかっていたはずなのに、どうしてそこに私は愛だの恋だの介在させようとした?
私は、あらゆる贈り物をもって生まれ出たとしか思えない人が、唯一持っていないものを持っている。
そして、私はそれを与えることができる。
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