天使は金の瞳で毒を盛る

藤野ひま

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8. 傷心の誘惑者 ③

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「今ね、彼女と課長の関係探っていたところ」

葛城さんがふふっと笑いながら言う。

ちょっ、葛城さん、なんで? どうしてそこ?よりによって彼に!

「ああ、そうだよね、仲良いみたいだね。住んでるマンションも一緒みたいだしね?」

尾崎さんの言葉に飲んでいたカクテルでむせそうになった。

待ってよ、なんで榛瑠のマンションを。どこまで知って言ってるの?

なんだろう、たまたま見かけた?そんなことある?もしかして、またマンションに来て、榛瑠を見かけたとか?

わあ、ありそうだし!でも、私のことは流石にそう簡単にはバレてないはず……。

私は居たたまれなくなって、その場を立ち上がった。

「ごめんなさい、ちょっと、お手洗い」

一人になって、思いっきり息を吐き出した。

まずいなあ、って、思ってもいいよね。悪気はないんだろうけど、申し訳ないけど探ってほしくはない。

彼を嫌いになりたいわけでもない。佐藤さんの言葉がふっと頭をよぎった。

その時、電話の呼び出し音が鳴った。榛瑠だった。

「お嬢様?お屋敷のほうから私に電話が来ましたよ。今になっても連絡ないけど、一緒にいるかって。今どこです?」

しまった、こんなに遅くなるつもりはなかったから、ちゃんと連絡してなかった。

「ごめん、もうすぐ帰るから、大丈夫。私の方から連絡しておくから。心配しないで」

「私が送ると言っておきました。迎えに行きます」

今ここに、榛瑠に登場されるのはメチャクチャまずいよ。いやいや、ダメ。

「本当に平気。タクシー使うよ。じゃ、切るね」

まだ何か言いたそうなのを無視して回線を切る。怒ってるだろうなあ、ま、しょうがない、とにかく本当に帰ろう。

これ以上いたら、いらないことを喋る羽目になりそうだ。

席に戻ると、私の席に新しく飲み物が置かれていた。

「あ、戻って来た」

葛城さんが明るく言う。

「ごめんなさい、あの、私そろそろ」

「あ、私は先に失礼するわね」

「え、私も、もう」

「彼が少し話したいんですって。これ、よければ飲んで付き合ってあげてよ」

どうしよう、オロオロしているうちに葛城さんが席を立つ。

「今日はごめんなさいね。ちょっと、あなたのことが羨ましかったの。でも、それも今日で終わり。じゃあね」

そう言って、店から出て行った。なんだろう、展開についていけない。

私はしょうがなく席に座る。これだけ飲んだら、さっさと帰ろう。

「ごめんね、迷惑だった?」

「え、大丈夫、ですけど、えっと……」

尾崎さんをまっすぐ見れない。ブラッドオレンジ色のドリンクをごくごく飲む。苦甘い。

「ごめんね、俺、実は諦め悪いんだ。君が付き合っている男がいるなら諦めようって思ってたんだけど、葛城さんの話だと違うみたいだし」

「たしかにいないですけど……」

「うん」

いや、でも、そういうことではなく。

「あの、ごめんなさい。本当にお付き合いしている人はいないんですけど、尾崎さんともお付き合いは出来ません」

「そんなに難しく考えなくてもいいのに」

「えっと、私、こういうこと慣れてないし、軽くは考えられないし、その、好きな人もいるので」

「……そう、でも、今夜くらい付き合って。それならいい?」

いや、もう帰りたいです、そう言いたい。ううん、言わなきゃ。断るの苦手なんて言ってられないよ、一花。

「あの……」

言おうとして、頭がくらっときた。酔いが回ってきたのかな。なんかグラグラする。

「どうしたの?」

「あ、なんでもないです。ちょっとしつれいします」

席を立つ。少し風にでもあたろう。そう思っていったん店の外の通路に出る。足元がフラフラする。なんだろう、そんな無茶な飲み方したつもりもないのに。

その時また呼び出し音がなった。出ると、榛瑠の声が聞こえた。

「お嬢様?やはり迎えに行きますのでそこを動かないでください」

「榛瑠……場所……」

「失礼ながらあなたの居場所は追えるようにしてあるんです。聞こえてますか?」

榛瑠の声が遠く聞こえる。電波状態が悪いのかな。

「お嬢様?大丈夫ですか?一花?……一花!」

そこから彼がなんと言ったか、もうわからなかった。



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