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7. 不測の求愛者 ②
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その週末、結局私は合コンだか飲み会だかわからないけどとにかくその場にいた。なんだか結局うやむやに参加になっちゃってて。
こういう時、つい断れない。よくないってわかってはいるのだけれど。
女性側には葛城さんと篠山さんと、あと、元営業補佐だった人とか、関係なく誘われた人とか。
男性側には、尾崎さんがいてちょっと驚いた。あとは、顔は知っているけど話したことない人たちばかりだった。
それでも、年齢は近いし、同じ会社の人だし、思ったより盛り上がって楽しかった。
会計をして店を出た時、小雨が降り出していた。
もう割と遅い時間だったが二次会が組まれたり、二次会に行かず帰る人達の中で、傘を持ってる人がない人を途中まで送ったり、と決まっていく。
私も持ってなかったしどうしようかなあ、と思っていると、横から傘を差し出された。
「送っていくよ?」
尾崎さんだった。わ、一度ならず二度までもお世話になるのは、と思ったけど、篠山さんは二次会組だったし、他に頼める人も思い当たらず好意に甘える事にした。
駅に向かう人達の後ろを歩きながら、尾崎さんが話しかけてくれた。
「今日、勅使川原さん来ていてちょっと驚いたよ」
「あ、なんか、誘われて……」私は笑ってごまかす。「でも、楽しかったですね」
尾崎さんがそうだね、と言う。
気づいたら、前を歩いていた同僚はどこかに行ってしまっていた。
「ちゃんと送るから安心してね。時間結構遅いし。家、どの辺?」
「あ、それなら駅までお願いできますか?すみません」
「その後は?大丈夫なの?」
「最寄り駅まで家の者が迎えにきてくれますし、大丈夫です」
「じゃあ、そこまできちんと送るよ」
言われて私は内心慌てた。え、だって、車、までってこと?じゃないよね?来るの、うちの運転手だし。そういう格好しているし、まずいでしょ。
「いえ、本当に大丈夫です。えっと、うん」
「心配だし、送りたいから」
どういう事?逆に困るんですけど。どうしよう。
「それに、酔いもちょっと醒ましたいんだ。送ってる間、話も出来るし。迷惑?」
ど、どうしよう。迷惑、とは言えないし。このまま送ってもらって駅で別れられれば問題ないけど、車まで、と言われると困る。
家の場所とか突っ込まれても……。
思っているうちから質問された。
「家はどこなの?」
言えません。遠いんです。地名まずいです。うーん、どうしたら……。
「なんか、俺、警戒されてる?」
尾崎さんが笑いながら言った。
「いえ、そんな事ないです」
私は被りを振った。尾崎さんが、というより問題は私の方であって。
すごく急いで考えて、あることを思いついた。
「あの、じゃあ、実はここからなら直接歩いてでも行ける距離で、あの、近くまでいいですか?」
「もちろん、そこまで行くよ」
お願いします、と言って、私は行く道を変えた。
榛瑠のマンションを思いついたのだ。ここから近いし、あそこなら、行ったことあるし。エントランスまで入ればいいし。
榛瑠の家を知っているわけはないし、なんとか誤魔化せないかなって思って。
これが良い思いつきかは正直自信ないけど……。
私のモヤモヤとは別に二人で何気ない話をしながら歩く。雨は冷たかったけれど、小雨のままで二人で傘に入っていても大丈夫だった。
そのうち私も落ち着いて、楽しい気持ちになった。
マンションの下についた時には、素直にお礼が言えた。
「こんなところまで送っていただいて、ありがとうございました」
「ここなんだ?いいマンションだね」
「あ、私の所有じゃないですけどね」
間違ってはいないよね?ちょっと、ていうか、だいぶ、後ろめたいなあ。
「はは、彼氏とか?」
思いがけない言葉に思いっきり否定した。
「冗談だよ。面白いなあ、勅使川原さん」
「からかわないでください」
全く外れているわけではない分、心臓に悪いです。
「じゃあ、ありがとうございました」
そう言って私は頭を下げると、彼に背を向けた。と、後ろから呼び止められる。
「勅使川原さん」
「?」
私は振り返った。尾崎さんは同じ場所で傘をさしたまま立っている。
「一花さん、……俺と付き合ってくれませんか?」
……え?なに?なんて?
「ごめん、いきなりに聞こえるかも知れないけど、ずっと考えていた事で、急なノリで言っているわけではないんだ。かっこ悪いし、ひくかもしれないけど本気です」
言われた言葉の内容がやっと飲み込めて、逆に思考が停止する。
え、え、……、だって、考えたことも想像したこともない。え⁈
次の瞬間、じわじわとしたうれしさと、ものすごい罪悪感が襲ってきた。
こんなふうに、誰かに面と向かって好きって言ってもらえたことない。すごく嬉しいし有難いことなんだ。それなのに、この人に嘘をついてる。
ここは私の家じゃないし、私の本名も違うし、それを伝える事も、ない。
黙っている私に、彼は言った。
「急で困るよね。ゆっくり考えてくれればいいから」
そう言って去ろうとする尾崎さんに私は「待って」と声をかけた。
せめて、逃げないでちゃんと言おう。時間は解決にならない。
「ごめんなさい」
私は頭を下げた。
「……今?」
「すみません。ごめんなさい」
尾崎さんはしばらく黙っていた。それから、「そうか」と小さく呟くと言った。
「うん、わかった。気にしないでいいから。……中に入りなよ、風邪引く前に」
私は一度頭をあげて、もう一度軽く頭を下げると、踵を返した。
エントランスに入って振り返ると、尾崎さんはそこにずっと立っている。
私は入り口で部屋番号を押す。程なく声がした。
「はい」
榛瑠の声だ。泣きそうになる。
「私です。ここだけでいいので、開けてくれますか」
「……上がってきてください」
エントランスから中に入るドアが開く。まだ、尾崎さんはいた。私はそれ以上見ずに、榛瑠の部屋の階までエレベーターで上がると、とりあえず部屋の前まで行く。
こういう時、つい断れない。よくないってわかってはいるのだけれど。
女性側には葛城さんと篠山さんと、あと、元営業補佐だった人とか、関係なく誘われた人とか。
男性側には、尾崎さんがいてちょっと驚いた。あとは、顔は知っているけど話したことない人たちばかりだった。
それでも、年齢は近いし、同じ会社の人だし、思ったより盛り上がって楽しかった。
会計をして店を出た時、小雨が降り出していた。
もう割と遅い時間だったが二次会が組まれたり、二次会に行かず帰る人達の中で、傘を持ってる人がない人を途中まで送ったり、と決まっていく。
私も持ってなかったしどうしようかなあ、と思っていると、横から傘を差し出された。
「送っていくよ?」
尾崎さんだった。わ、一度ならず二度までもお世話になるのは、と思ったけど、篠山さんは二次会組だったし、他に頼める人も思い当たらず好意に甘える事にした。
駅に向かう人達の後ろを歩きながら、尾崎さんが話しかけてくれた。
「今日、勅使川原さん来ていてちょっと驚いたよ」
「あ、なんか、誘われて……」私は笑ってごまかす。「でも、楽しかったですね」
尾崎さんがそうだね、と言う。
気づいたら、前を歩いていた同僚はどこかに行ってしまっていた。
「ちゃんと送るから安心してね。時間結構遅いし。家、どの辺?」
「あ、それなら駅までお願いできますか?すみません」
「その後は?大丈夫なの?」
「最寄り駅まで家の者が迎えにきてくれますし、大丈夫です」
「じゃあ、そこまできちんと送るよ」
言われて私は内心慌てた。え、だって、車、までってこと?じゃないよね?来るの、うちの運転手だし。そういう格好しているし、まずいでしょ。
「いえ、本当に大丈夫です。えっと、うん」
「心配だし、送りたいから」
どういう事?逆に困るんですけど。どうしよう。
「それに、酔いもちょっと醒ましたいんだ。送ってる間、話も出来るし。迷惑?」
ど、どうしよう。迷惑、とは言えないし。このまま送ってもらって駅で別れられれば問題ないけど、車まで、と言われると困る。
家の場所とか突っ込まれても……。
思っているうちから質問された。
「家はどこなの?」
言えません。遠いんです。地名まずいです。うーん、どうしたら……。
「なんか、俺、警戒されてる?」
尾崎さんが笑いながら言った。
「いえ、そんな事ないです」
私は被りを振った。尾崎さんが、というより問題は私の方であって。
すごく急いで考えて、あることを思いついた。
「あの、じゃあ、実はここからなら直接歩いてでも行ける距離で、あの、近くまでいいですか?」
「もちろん、そこまで行くよ」
お願いします、と言って、私は行く道を変えた。
榛瑠のマンションを思いついたのだ。ここから近いし、あそこなら、行ったことあるし。エントランスまで入ればいいし。
榛瑠の家を知っているわけはないし、なんとか誤魔化せないかなって思って。
これが良い思いつきかは正直自信ないけど……。
私のモヤモヤとは別に二人で何気ない話をしながら歩く。雨は冷たかったけれど、小雨のままで二人で傘に入っていても大丈夫だった。
そのうち私も落ち着いて、楽しい気持ちになった。
マンションの下についた時には、素直にお礼が言えた。
「こんなところまで送っていただいて、ありがとうございました」
「ここなんだ?いいマンションだね」
「あ、私の所有じゃないですけどね」
間違ってはいないよね?ちょっと、ていうか、だいぶ、後ろめたいなあ。
「はは、彼氏とか?」
思いがけない言葉に思いっきり否定した。
「冗談だよ。面白いなあ、勅使川原さん」
「からかわないでください」
全く外れているわけではない分、心臓に悪いです。
「じゃあ、ありがとうございました」
そう言って私は頭を下げると、彼に背を向けた。と、後ろから呼び止められる。
「勅使川原さん」
「?」
私は振り返った。尾崎さんは同じ場所で傘をさしたまま立っている。
「一花さん、……俺と付き合ってくれませんか?」
……え?なに?なんて?
「ごめん、いきなりに聞こえるかも知れないけど、ずっと考えていた事で、急なノリで言っているわけではないんだ。かっこ悪いし、ひくかもしれないけど本気です」
言われた言葉の内容がやっと飲み込めて、逆に思考が停止する。
え、え、……、だって、考えたことも想像したこともない。え⁈
次の瞬間、じわじわとしたうれしさと、ものすごい罪悪感が襲ってきた。
こんなふうに、誰かに面と向かって好きって言ってもらえたことない。すごく嬉しいし有難いことなんだ。それなのに、この人に嘘をついてる。
ここは私の家じゃないし、私の本名も違うし、それを伝える事も、ない。
黙っている私に、彼は言った。
「急で困るよね。ゆっくり考えてくれればいいから」
そう言って去ろうとする尾崎さんに私は「待って」と声をかけた。
せめて、逃げないでちゃんと言おう。時間は解決にならない。
「ごめんなさい」
私は頭を下げた。
「……今?」
「すみません。ごめんなさい」
尾崎さんはしばらく黙っていた。それから、「そうか」と小さく呟くと言った。
「うん、わかった。気にしないでいいから。……中に入りなよ、風邪引く前に」
私は一度頭をあげて、もう一度軽く頭を下げると、踵を返した。
エントランスに入って振り返ると、尾崎さんはそこにずっと立っている。
私は入り口で部屋番号を押す。程なく声がした。
「はい」
榛瑠の声だ。泣きそうになる。
「私です。ここだけでいいので、開けてくれますか」
「……上がってきてください」
エントランスから中に入るドアが開く。まだ、尾崎さんはいた。私はそれ以上見ずに、榛瑠の部屋の階までエレベーターで上がると、とりあえず部屋の前まで行く。
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