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4. 困惑の懇親会 ②
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「で、先輩。金曜日、いいですよね」
「え?」
篠山さんの明るい声でハッとする。
「やだなあ、聞いてませんでした?懇親会。課長との。金曜日ですからね。先輩も来られますよね?」
「懇親会?今頃?」
「いいんですよ、なんでも。とにかく課長を酔わせて聞き出さなくっちゃ」
「聞き出すって何を?」
「え?知らないんですか?四条課長、婚約者がいるって話」
え?
思わず眉が寄ってしまう。
「それも、噂によるとうちの会社のお嬢様って話ですよ。どうです?それって?」
ちょっ、ちょっとまってよ、何それ。
「いや、それ、出どころどこなの?」
「よくわかんないんですけどね。ここだけの話、」篠山さんの声が小さくなる。「妖怪女って話もあって」
美園さん?なんで?
「でも、それ、きっとデマだよ、うん」
そういうことにして欲しい。
「だから、聞き出すんです。それに、課長とお酒飲んでみたいじゃないですか、任してください。こういうセッティング得意なんです」
篠山さんは楽しそうに言う。私はますます頭が回らずグルグルした。
なんか、もう、あーよくわかんない!知らない!
そんなわけで、どんなわけだか、金曜日の夜、私は網の上の肉をひっくり返している。
篠山さんが頑張ったせいか、榛瑠が参加したせいか、急な割には結構人が集まった。
国際事業部の人だけでなく、営業も参加している。組んで仕事をすることが多いので、ということになってはいるが、四条課長目当ての営業部の女子たちと一緒に、ついでに男性もということらしい。
あ、あと、意外に人気のこの人も参加者増に貢献しているらしいのだけど。
私は横にいるその人を見上げた。背広の上着を脱いで、腕をまくって楽しそうにビールを飲んでいる。
「鬼塚さん、焼けましたけど」
「お、食う食う」
私は鬼塚さんのお皿に焼けたお肉を置いた。まったく、なんで営業の係長の横にいなきゃならないのよ、と思ったが、口に出す前に営業のほうの幹事の男性社員が黙って顔の前に手を立てて謝ってきた。
つまるところ、押し付けられたわけで。
鬼塚さんへの女子評価は、近づかなければ目の保養、だもんなあ。男性も似たり寄ったりだし、きっと、誰もそばに来たがる人いなかったんだ……。
肝心の榛瑠はというと違うテーブルで女子社員に囲まれてお酌されていた。さっきからひっきりなしだ。そのすぐ近くに美園さんが陣取っている。
「何見てるんだ?」
鬼塚さんが聞いて来た。
「いや、なんで、美園さん…」
「ああ、俺が誘った。この前の時頑張ってくれたし。資料室二人だから飲み会もないだろうしさ」
こういうところ、この人のいいところではあるんだけど、今回は正直、余計なことをして、と思う。
榛瑠は例の件、聞かれたらなんて答えるつもりなんだろう。バレるようなことは言わないと思うけど……。
その時、わっと女子の弾んだ声がした。私はビクッとする。
「えーそうなんだ、まさかあ。ほんとうです?」
女の子の声に周りの人も反応する。
「どうしたんだよ」
「四条課長、お嬢様に振られたらしいよ」
「え、まさかあ。本当ですか?」
「本当ですよ。」
榛瑠が 平然と答えている。
「え、じゃあ、今、彼女とかは?」
「いません」
近くに座っていた営業補佐の女の子たちの言葉が耳に入る。
「やった、課長フリーなんだ」
「でもさあ、そのお嬢様って何様?四条さんフルなんてありえないし」
……何様と言われれば、お嬢様なんです。心の中で私はつぶやいた。
「すごいブスとか」
反論はあえていたしません。
「四条すごい人気だな、相変わらず」頭の上から野太い声がした。「女に困らなそうだよな」
「鬼塚さんだって、そうですよ」
「困ってる、困ってる」
そう、全然困ってない顔をして言うと、また私の頭をクシャっと撫でた。
「そのクセと、選り好みやめればすぐですよ」
私は手を払いのけて言った。
「選り好みしたかあ?」
結構してます、そして付き合っても続きませんね、と思ったが黙った。そう、例えばこの中だと誰だろう。鬼塚係長の好きそうなタイプ、ってやっぱり……。
「よっぽど気になるのな、それともなんかあるのか?」
私の視線の先には美園さんがいた。
「いやあ、鬼塚さんのタイプかなあって」
「よくわかるな」
わかります。わかりやすいですから。
「いや、でも、あの子得体のしれないところがあるからなあ。四条の女なのかって気もするし。あいつが日本に連れて来たんだろう?」
「らしいですけど……」
なんだか胸がギュッとした。その辺りの経緯を私もまったく知らない。
「それになあ、あの髪の色はなあ。まだ、一花の方が好感持てるぞ」
私は急な好意的な言葉にあたふたしてしまう。
「ま、お前のいいところを大事にしてだな」
ん?
「強く生きろ、あんまり力にはなれんが」
なんか、もしかして、褒められて……ない?
「あの、鬼塚さん……」
「悪い、俺、自分の理想なかなか捨てきれないんだよな」
これってこれって、暗に言ってますよね⁈
「どうせ私は貧乳ですよ!ほっといてください!」
この、巨乳好き!
その時、喉の奥で止めるような、クッという笑い声が聞こえた。見上げると、榛瑠がグラスを持って立っていた。
「お、すごいぞ一花。お前のネタがなかなか笑わないという四条課長を笑わせたぞ。よかったな」
「いっぺん死にましょうか、鬼塚係長」
鬼塚さんが声を出して笑った。ほんっとに失礼!榛瑠も笑うんじゃないわよ!あなたが笑うと……リアルすぎて笑えないのよ!
私の脳裏にあの朝の自分の姿が蘇る。うわぁって叫びたい。
「え?」
篠山さんの明るい声でハッとする。
「やだなあ、聞いてませんでした?懇親会。課長との。金曜日ですからね。先輩も来られますよね?」
「懇親会?今頃?」
「いいんですよ、なんでも。とにかく課長を酔わせて聞き出さなくっちゃ」
「聞き出すって何を?」
「え?知らないんですか?四条課長、婚約者がいるって話」
え?
思わず眉が寄ってしまう。
「それも、噂によるとうちの会社のお嬢様って話ですよ。どうです?それって?」
ちょっ、ちょっとまってよ、何それ。
「いや、それ、出どころどこなの?」
「よくわかんないんですけどね。ここだけの話、」篠山さんの声が小さくなる。「妖怪女って話もあって」
美園さん?なんで?
「でも、それ、きっとデマだよ、うん」
そういうことにして欲しい。
「だから、聞き出すんです。それに、課長とお酒飲んでみたいじゃないですか、任してください。こういうセッティング得意なんです」
篠山さんは楽しそうに言う。私はますます頭が回らずグルグルした。
なんか、もう、あーよくわかんない!知らない!
そんなわけで、どんなわけだか、金曜日の夜、私は網の上の肉をひっくり返している。
篠山さんが頑張ったせいか、榛瑠が参加したせいか、急な割には結構人が集まった。
国際事業部の人だけでなく、営業も参加している。組んで仕事をすることが多いので、ということになってはいるが、四条課長目当ての営業部の女子たちと一緒に、ついでに男性もということらしい。
あ、あと、意外に人気のこの人も参加者増に貢献しているらしいのだけど。
私は横にいるその人を見上げた。背広の上着を脱いで、腕をまくって楽しそうにビールを飲んでいる。
「鬼塚さん、焼けましたけど」
「お、食う食う」
私は鬼塚さんのお皿に焼けたお肉を置いた。まったく、なんで営業の係長の横にいなきゃならないのよ、と思ったが、口に出す前に営業のほうの幹事の男性社員が黙って顔の前に手を立てて謝ってきた。
つまるところ、押し付けられたわけで。
鬼塚さんへの女子評価は、近づかなければ目の保養、だもんなあ。男性も似たり寄ったりだし、きっと、誰もそばに来たがる人いなかったんだ……。
肝心の榛瑠はというと違うテーブルで女子社員に囲まれてお酌されていた。さっきからひっきりなしだ。そのすぐ近くに美園さんが陣取っている。
「何見てるんだ?」
鬼塚さんが聞いて来た。
「いや、なんで、美園さん…」
「ああ、俺が誘った。この前の時頑張ってくれたし。資料室二人だから飲み会もないだろうしさ」
こういうところ、この人のいいところではあるんだけど、今回は正直、余計なことをして、と思う。
榛瑠は例の件、聞かれたらなんて答えるつもりなんだろう。バレるようなことは言わないと思うけど……。
その時、わっと女子の弾んだ声がした。私はビクッとする。
「えーそうなんだ、まさかあ。ほんとうです?」
女の子の声に周りの人も反応する。
「どうしたんだよ」
「四条課長、お嬢様に振られたらしいよ」
「え、まさかあ。本当ですか?」
「本当ですよ。」
榛瑠が 平然と答えている。
「え、じゃあ、今、彼女とかは?」
「いません」
近くに座っていた営業補佐の女の子たちの言葉が耳に入る。
「やった、課長フリーなんだ」
「でもさあ、そのお嬢様って何様?四条さんフルなんてありえないし」
……何様と言われれば、お嬢様なんです。心の中で私はつぶやいた。
「すごいブスとか」
反論はあえていたしません。
「四条すごい人気だな、相変わらず」頭の上から野太い声がした。「女に困らなそうだよな」
「鬼塚さんだって、そうですよ」
「困ってる、困ってる」
そう、全然困ってない顔をして言うと、また私の頭をクシャっと撫でた。
「そのクセと、選り好みやめればすぐですよ」
私は手を払いのけて言った。
「選り好みしたかあ?」
結構してます、そして付き合っても続きませんね、と思ったが黙った。そう、例えばこの中だと誰だろう。鬼塚係長の好きそうなタイプ、ってやっぱり……。
「よっぽど気になるのな、それともなんかあるのか?」
私の視線の先には美園さんがいた。
「いやあ、鬼塚さんのタイプかなあって」
「よくわかるな」
わかります。わかりやすいですから。
「いや、でも、あの子得体のしれないところがあるからなあ。四条の女なのかって気もするし。あいつが日本に連れて来たんだろう?」
「らしいですけど……」
なんだか胸がギュッとした。その辺りの経緯を私もまったく知らない。
「それになあ、あの髪の色はなあ。まだ、一花の方が好感持てるぞ」
私は急な好意的な言葉にあたふたしてしまう。
「ま、お前のいいところを大事にしてだな」
ん?
「強く生きろ、あんまり力にはなれんが」
なんか、もしかして、褒められて……ない?
「あの、鬼塚さん……」
「悪い、俺、自分の理想なかなか捨てきれないんだよな」
これってこれって、暗に言ってますよね⁈
「どうせ私は貧乳ですよ!ほっといてください!」
この、巨乳好き!
その時、喉の奥で止めるような、クッという笑い声が聞こえた。見上げると、榛瑠がグラスを持って立っていた。
「お、すごいぞ一花。お前のネタがなかなか笑わないという四条課長を笑わせたぞ。よかったな」
「いっぺん死にましょうか、鬼塚係長」
鬼塚さんが声を出して笑った。ほんっとに失礼!榛瑠も笑うんじゃないわよ!あなたが笑うと……リアルすぎて笑えないのよ!
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