フラれたので、記憶喪失になってみました。この事は一生誰にも内緒です。

三毛猫

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もしもの話-裏-

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走り去る咲ちゃんを俺は
姿が見えなくなるまで、
見送った。


そして姿が見えなくなると
俺は握られたままの手を引く。


「帰ろっか」


その言葉に葵は小さく頷いた。


俺は思う。この場に葵が居てくれたからこそ、
俺と咲ちゃんは先に進む事ができたのかもしれないと。


「さっきの、、、」
「えっ?」
「咲ちゃんが、助けてくれてありがとうって、何?」

俺は気になっていた事を聞く。

「あー、、、」

葵はいかにも困ったような顔をする。

「葵?」
「咲さんが、、、殴られそうだったので、、」

殴る?
それを葵は止めに入ったのか。
俺は足を止め、葵を見る。

小さくて華奢な体、
力だって強くない、
なのに人一倍におせっかいやきで、
時々後先考えてるのか?と思うような
行動に出る。


「俺を呼べよ!」
「だって、急だったし」


俺は葵の額にこつんと小さく
拳をつける。
俺はすごく怒っている、
だけどいざ葵を前にすると本気では怒れない。


「もう無茶しないこと、葵だって女の子なんだから、なにかあってからじゃ遅いんだからな」
「ごめんなさい」


そして俺は額にあった拳を開き、
葵の頭を撫でる。


ずっと近くに居たら葵を
ずっと守ってあげられるのに。








それからというもの
帰り道は終始無言だった。

俺から何か話せばいいのだけれど、
咲ちゃんの事もありなんとなく言葉が出なかった。

葵のマンションの前に着くと、
俺はそっと手を離した。


「じゃあ、夜また連絡するから」
「うん」


俺は葵に背を向け歩きだす。



「い、、、伊織」



すると背後から葵が呼ぶ声が聞こえ
俺は振り返る。



「家、、、寄ってかない?」



少し遠慮気味に葵はいう。
俺に気を使っているのだろうか。


「あー、、、今日は辞めとく」



手を振り帰ろうとする俺を葵は再び呼び止める。




「ねぇ!!もし、、、もし私と出会わなかったら、、、」


「ないよ!」




俺は葵が言おうとしたその言葉に
怒りを覚える。




「絶対ない!、、、そんな事、葵は考えなくていい!」

「、、、」

俺の声に葵は少し肩が
ビクッと動く。

「ごめん大きな声出して」

なにやってんだろ俺。
葵は何も悪くない。
葵はただ俺と咲ちゃんの問題に
入れられてしまっただけなのに。


「私こそごめんなさい」


今日葵と一緒に居たら
また怒って葵を傷付けてしまうかもしれない。
だから今日は一緒に居ない方がいい。
俺は話を切り替えようと、鞄からある物を取り出す。


「、、、そうだ、今度のデートあそこ行こう」

「あそこ?」

「プラネタリウム、チケット母さんからもらったんだ」



俺はチケットをひらひらと
葵に見せると、背を向け帰った。







そして一人になった俺は
再び咲ちゃんの事が頭によぎる。

想った所で、咲ちゃんの
気持ちには答えてあげられないのに。





失恋、、、
俺は失恋なんてした事は無い。

だから失恋した側の本当の
気持ちなんてわからない。


今まで何十回の告白を
断って来たけど、
俺は今さら気付いた。
いや、咲ちゃんに気付かされた。



告白を断ると言うことは、
断られる側も、断る側も辛いと言うことを。

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