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三年生・二学期

3本…

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 真っ暗な部屋の中にいたわ。いいえ、アタシ自身の視界が真っ暗であったと言うだけ…?次第に視界が明るくなって、中の様子を見渡せるようになった。

 部屋の中あるのは、大きな棺…ではなくてベッドね。ここまでの情景は、こないだ意識が遠のいた時も見たような気がする。ここは、病室かしら?それも、個室ないしは特別治療室…。いずれにしても、中にいる人間はたった一人のようだ。
 そして、そのベッドに横たわっている人物とは…。他ならぬ、現実世界のアタシ自身であった!?

 「あっ、まひろ!気がついたぞ。お前、舞台が終わった後に意識を失って倒れちまって…。大丈夫か?指の本数、分かる?」
 「3本…」



 気がつけば、あまねが心配そうにアタシの事を見下ろしていた。ここは、舞台袖かしら?何とか自力で辿り着いたのか、あまねに支えられ動かされたのかは覚えていない。また、あまねの格好も未だお姫様衣装のままだわ。ヅラすら、外していない。舞台中央からは、次のクラスのものと思われる演目の台詞が聞こえてきた。以上の事から、アタシが気を失っていた時間はそこまで長いものでもなかったようだ。
 「そういや、目眩が多いって体育祭の時に言ってたよな。本当に、大丈夫なのか?続くようなら、一度お医者に見てもらった方が…」
 「大丈夫…心配ないよ。本当に、ちょっと疲れているだけだから。舞台の練習で、気を張っていた部分もあるかな…。そろそろ受験だし、バイトも控えるようにするよ」
 受験かぁ。アタシ、未だに大学進学か就職かすら決めていない。受験当日に、どちらの進路にするか決める仕様だからね…。ゲーム内の事とは言え、なかなかに行き当たりばったりだわ。
 「そう…なのか?まぁ、お前がそう言うなら。舞台、楽しかったよな。お客さんから、いっぱい拍手もらって。俺、代役で出ただけだけど本当に良かった…」
 本当にね。アタシも、いい舞台だったと思う。マスク越しとは言え、成り行きであまねとキスもさせて頂いたしね。本当に、楽しかった…。だけど、今は手放しであまねにその感想を伝える気分になれない。

 完全に思い出したわ。アタシ、現実世界でコ○ナウィルスに罹患し意識を失った。日頃の不摂生もあり、年齢の割に症状が重篤となっての隔離であろう。幾日も、生死の境を彷徨って…。ある日アタシは、重力の束縛を逃れ自分の身体が浮き上がる感覚に陥った。竜巻がどうのこうのは、高熱が見せた夢ないし幻覚であったと思われる。群馬の片隅で、掘っ立て小屋みたいな自宅に住んでたのは事実だけどね。
 夢…。それでは、今いるこの世界も夢なの?いいえ、そうは思いたくはない。アタシ、異世界転生する一歩手前の状態まで行って…。半死で辿り着いた世界が、ここなのだと信じたい。だけど、どちらにしても…。終わりは、訪れると言う事ね。確信があるもの。
 現実世界のアタシ、小康を保ちつつある。眼を覚ますのも、時間の問題…。
 「まひろ…?もしかして、泣いてる?本当に、どうしたんだよ?」
 あまねが、心配して聞いてきた。アタシ、また放心して生返事になっていたんだ。アタシが現実世界に戻ったら、あまねはどうなるの?主人公が不在のまま、何だかんだで幸せな人生を過ごす?それとも…世界ごと崩壊して、存在が無かった事になってしまう?

 「大丈夫、泣いてないよ。本当に、何でもない。何でもないから…」
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