恋愛ゲームの世界に転生して、親友♂を全力で落としてみました

一年生・三学期

めっさ重いねん、むしろ引くわ

　2月14日　自宅　雨

　みなさんこんにちは、進藤まひろです。今日は、言わずと知れたハッピーバレンタインよ！乙女（男子高校生）として、この機会を逃してたまるものですか。
　そうでなくても、最近あまねから気を使ってもらいっ放しだわ。アタシの方が色々としてあげるべき立場と言うのに、これでは逆ね。作中では、妹からしかチョコを貰えないとかって嘆いていた気がするし。そこで、気合いを入れて手作りチョコを渡す事にしたわ…。

　と言いたかったのだけれど、すでに自宅の台所は惨憺たる様を呈している。知らなかったわ。チョコって直火で溶かすと、脂肪分が分離するのね！あと、固める際にも液体窒素で急速冷凍せしめるべきではなかったかしら。うん。これ味見するまでもなく、失敗と分かるやつや！
　元々の女子力が、あまりにも低すぎるのと…。ゲーム内では、鍛えようがないのよ！女子力とか、家事力のパラメータなんてさ！本来、男子高校生である主人公がチョコを貰う立場のゲームだからね…。時代をもうちょい進めれば、男性の方が渡す側となるゲームもあるかも知れないわ。
　さて、現実から目を逸らすのはやめよう。
あまりに上手く行かないので、LIMEにて水無月さんの知恵を拝借する事とした。
　『痛チョコはどうかしら？あまね君の顔を模したチョコを作って、彼に渡すの』
　『いっその事、三次元は？チョコを彫刻して、彼の姿にするのよ』
　さっすが、このゲームにおいて文系トップの水無月さん。これ以上ない、ナイスアイデアだわ…な訳あるかい！どこの世界に、自分を模したチョコもらって喜ぶ男がいるのよ！めっさ重いねん、むしろ引くわ！ネタで渡そうにも、そう言うの大嫌いそうだしね。彼…。
　仕方ない。ここは、大人しくお財布の力に頼りましょう。幸いバイト漬けの日々であったので、高校生としては十分すぎるほどの財力もついている。あまりに気合いを入れすぎると逆に引かれるので、デパートに行ってそこそこの金額のチョコを買いましょうか。これでヨシ！
　バレンタイン当日。校内の男子たちは、みな揃って色めき立っていたわ。アタシはと言うと、水無月さんを始め数人の女子から義理チョコを頂いた。好感度は最低に下げておいた筈だけれど、人生何とかなるものね…。世の男性方は、何があっても悲観するものではないと言って差し上げたい所かしら。
　さて、それよりもあまねよ！言った通り一緒に下校出来る保証はないので、校内でチョコを渡すしかない。だけど流石に男同士でとか、ちょっと引かれやしないかしら…。この時代、ホモ…。もとい、友チョコに対する理解も今ほど進んでいなかったと思うしね。いいわ。ここまで来たら、女は度胸！強く当たって、後は流れで…の精神で行きましょう。
　そう意気込んで、教室の扉を開けると…。あまねが、複数の女子に囲まれていたわ。全員から、チョコを貰っているみたい。これらが、いくつ義理で本命であるかは知りようがないけど…。
　そうよね。あまね、優しいし格好いいもの。本来の彼の魅力を考えれば、これが正当な評価と言えるでしょう。ゲーム内では、主人公を立てるため道化役に徹していたようだけど…。
　あまねも、嬉しそう。アタシだって、彼が沢山の人から愛されて嬉しくない訳がなかったけれど…。何だか、少し寂しいわ。もう、アタシ一人のあまねじゃないのね。いやまぁ、今までだって自分一人のものではなかったけれど。推しの地下アイドルが急にブレークした時って、こう言う気持ちなのかしら…。
　「おっす！おはよう、まひろ。何だか、急に女子から囲まれちゃって…。へへへ。でも、悪い気分はしないかな。って、お前も高そうなチョコ持ってるじゃん？それって、本命チョコだろ？隅に置けねぇなぁ、オイ」
　「いや…これは、違くて…」
　これは、他ならぬアンタにあげる本命チョコであって…。いえ、やめておこう。このタイミングでアタシからのチョコだなんて言ったら、彼にどんな噂が立つか分からない。それに、せっかく沢山のチョコを貰って嬉しそうなのだから…。その笑顔を、曇らせたくはないわ。
　「…これも、あまね充てのチョコだよ。登校してたら、見知らぬ女子から呼び止められて。お前に、ぜひ渡してほしいってさ。えと。突然の事だったから、顔とかはよく覚えてない…」
　「…ふぅん？そうなのか？」

　そう言ってチョコを受け取ってはくれたが、まだ怪訝そうな顔をしていた。
　…まだ二年。まだ二年、チャンスはあるのだから。きっと、何とかなるわ…。