上 下
9 / 16
七月・花火の湯

今ぜってぇ笑っただろ

しおりを挟む
 銭湯が閉まって、二人きりで後片付けを手伝っていました。うぅ。お婆ちゃんは、未だに帰ってこないし…。さっきあんな事言われたばっかだから、なんか意識して仕方ないなぁ。どうも、それは潤くんも同じであったようで。

 「…さっき、おばちゃんから何か言われてた?ってか、大体聞こえてたけど。困るよな。オレに対しても、色々と言ってきやがってさぁ…」
 「そうなんだ。何て?」
 「『潤ちゃん、恋をしたのねぇ。分かるわ。いつもソワソワしてて、落ち着きがないもの』だとさ。…オレって、そんなに変わった?自分では、いつも通りだと思うけど…。高校の連中も、あれやこれや言ってきやがってさ」
 「そうなんだ。何て?」
 「『潤ちゃん、恋をしたのねぇ。分かるわ。いつもソワソワしてて、落ち着きがないもの』だとさ」
 男子校ですよね!?でも、そうなんだ。オレにも、潤くんの様子が変わったようには思えないけど…。当事者以外からは、分かるもんなのかな。
 「…恋って、何だろう。言った通り、ずっと勉強しかして来なかったからさ。オレって、お前の事が好きなのかなぁ?いっそ、好きじゃなけりゃいいと思う。そしたら、あれこれ考えなくて済むから。だけど、そう思う事がそもそも…」
 「じゅ、潤くん?いつもの君らしくないじゃん?焦んなくていいから、ゆっくり考えて。でも、これだけ分かってほしいな。オレは、君に初めて会った時からずっと…」
 大きな音で、話が遮られた。ちょうど、祭りの花火が始まったのだ…。クソッ、空気読まねぇ花火が!
 「花火…そうだ。オレ、お前に見せたい物があったんだ。片付けはここまででいいから、ちょっと来て」
 そう言って、オレの手を引っ張って駆け出した。そうして、連れて行ってくれた先とは…。銭湯の、屋根の上だった。
 「すげぇ。古い家だから、上に登れたりするんだ。漫画とかで見たけど、実際登ったのって初めてだ…」
 「ここからだと、祭りの花火がよく見えるんだぜ。例によって、高層ビルでちーっとばかし端の方が途切れてるけどな。ところで、お前って漫画とか読むんだ」
 「めっちゃ読むよ。潤くんは?…って、部屋に漫画一冊も無かったよね」
 「あぁ。興味がない訳じゃ、なかったけど…。あのさ。絶対に笑わないで、聞いてくれる?」
 「いいよ。何?」
 「国語の教科書やら問題集で、恋の話って出てくるじゃん…。現代文、古文合わせて。そう言うの読んでて、恋ってこんな感じかなぁって胸ときめかせてた…。あ、今ぜってぇ笑っただろ。はい、この話はここまで!花火に集中な!」
 いやまぁ、笑いはしませんけど。むしろ、めっちゃイメージ通りだとは思った。国語辞典のエッチな単語を探して、ひっそり興奮してそうだなぁとか…。いや、面と向かっては言いませんけどね。殴られるから。
 それにしても、屋根の上から見る花火ってのは絶景だ。特に隣で大好きな人がいて、一緒に見上げている場合は…。



 目と目があった。お互い特に合図する事もなく、何となしに唇を合わせていた。未だに、舌までは入れさせてもらえなかったけど…。
 さっき、空気読まないとか言ってごめん。むしろ、今めっちゃ空気読んでくれてるわ。どうもありがとう、花火。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

漢方薬局「泡影堂」調剤録

珈琲屋
BL
母子家庭苦労人真面目長男(17)× 生活力0放浪癖漢方医(32)の体格差&年の差恋愛(予定)。じりじり片恋。 キヨフミには最近悩みがあった。3歳児と5歳児を抱えての家事と諸々、加えて勉強。父はとうになく、母はいっさい頼りにならず、妹は受験真っ最中だ。この先俺が生き残るには…そうだ、「泡影堂」にいこう。 高校生×漢方医の先生の話をメインに、二人に関わる人々の話を閑話で書いていく予定です。 メイン2章、閑話1章の順で進めていきます。恋愛は非常にゆっくりです。

雪は静かに降りつもる

レエ
BL
満は小学生の時、同じクラスの純に恋した。あまり接点がなかったうえに、純の転校で会えなくなったが、高校で戻ってきてくれた。純は同じ小学校の誰かを探しているようだった。

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

【完結】嘘はBLの始まり

紫紺(紗子)
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。 突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった! 衝撃のBLドラマと現実が同時進行! 俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡ ※番外編を追加しました!(1/3)  4話追加しますのでよろしくお願いします。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

処理中です...