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優しくなれそうな気がするんだ
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ちょいちょい話に上ってくる姉ちゃんだけど、生まれてこの方ずっと病弱だった訳じゃないよ。
同年代の女子よりも、だいぶ小さくて運動は苦手だったけど…。昔はまだ健康っちゃ健康で、体力をつけるため近所のバレエ教室に通ったりしてた。
入院する前は、小説や本よりも漫画をよく読んでたな。コテッコテの、少女漫画ね。ヒロインが、完璧超人のイケメンと恋に落ちるやつ。正直おれの趣味じゃないんだけど、ちょいちょい読まされてたわ。
「恋」って、どんなものだろう。いやその前に「好きになる」って、どんな事だろう。そんなとりとめのない事を、よく口にしていた。
姉ちゃん。おれ、「好き」って何なのかがちょっとだけ分かったような気がする。だから、見守ってて。今その気持ちを大切な相手に伝えるため、おれに勇気を与えてほしいんだ。
みなさん、こんばんは。一ノ瀬蒼12歳、ホモです。もう、誰からも逃げも隠れもしねぇ!
放課後になった。悲しくなるほど綺麗な夕焼け空の下、雪兎が待っていた。約束どおり、飼育小屋の前で…。二人で当番の仕事をしていたのが、何だか遠い昔だったかのような気がする。実際には、ほんの一週間ほど過ぎただけなんだけどな。
そして周囲に、おそらくはクラスメート全員と思われるギャラリーが控えていた。あと、ついでに梢。何だこいつら、どっから話を聞きつけてきた!雪兎はSMSの内容を誰にも打ち明けなかっただろうから、おそらくは勝手に後をつけてきた野次馬どもと思われる。
何だこれ。告白って、こんな状況の中でやるもんだっけ…?結果がどう転んでも、クラス中に知れ渡っちゃうんですけど。もっと裏庭とか、人気の少ない場所を指定すべきだったかな?いや、今更言っても仕方ないか。多分、どっちみちそんなに変わらなかっただろうし。差し当たって今は、いつまでも雪兎を待たせている訳にいかねぇ。
「雪兎。その…ごめんな。急に、こんな所に呼び出したりして。それと、朝は急にキレ出したりして本当にごめん」
おっ。今のは我ながら、少女漫画で見た告白のお手本みたいな切り出しじゃねぇか。自分の趣味じゃないと思ってたが、何でも人生に役立たない物はないんだな。
「うぅん、それは全然気にしてない。ぼくの方こそ、無神経な事してごめんなさい…。えと、それで…」
周囲から、いつまで前置きしてるんださっさと告白しろとの野次が上がる。うるせぇぞ、ギャラリーども!今ちょっと、心の準備をするのに忙しいんだよ。えぇと…。色々と用意してきた言葉があったと思うけど、今ので全部吹っ飛んじまった。仕方ねぇ、ここからはアドリブだ!
「えと、どっから言い出せばいいのか…。いつだったか雪兎、言ってたよな。『恋とか好きになるって事が、分からない』って。正直、おれだって未だによく分からないよ。でも、別に理解する必要もないと思う。雪兎に出会って、まだそんなにも経たないけど色んな経験をして…。自分の中に、これまで無かった感情が次々と湧き上がっていくのを感じる。雪兎と一緒にいるだけで、毎日がとっても楽しい。こんなおれでも、誰かに優しくなれそうな気がするんだ」
「あお君は、元々とっても優しいと思うけど…。でも、それはぼくも同じだよ。あお君といると楽しいし、自分の知らなかった自分が見つけられる気がする」
ギャラリーどもが、「脈アリやん!そのまま、たたみかけろ!」との野次を飛ばす。重ね重ね、うるせぇ奴らだな!言われずとも、ここは押しの一手だ。
「それで、結局何が伝えたいかって言うと…。雪兎の事が、好きです。大好きです。どうかおれと、付き合ってください」
「なんで、敬語になるの…?だけど、告白ってそう言うものかな。はい、もちろんですよ。ぼくでいいのなら、こちらこそお願いします」
周囲から、盛大な歓声が沸き起こった。梢が一人だけ、軽く舌打ちをしていたような気もするけどな。でも次の瞬間には他のギャラリーと一緒になって、「キース!キース!」との野次を飛ばしていた。
告白が成功して喜んだのも、つかの間。今度は一体、何なんだこの状況。どっかの映画で、見たような気もするな。えぇと、これは今キスしないと帰れないやつ…?雪兎は少し戸惑っていたが、そのうち目を閉じて顔を上げ気味にこちらを向いてきた。こ、これはいわゆる一つのキス待ち顔やな?
雪兎にここまでさせといて、自分からキスしなかったら男が廃るってもんだぜ!と思って肩を抱いたが、なにぶんギャラリーが多すぎてなかなか決心がつかない。これ、画像とか動画とか撮影されて拡散しちゃったりしないかな…?母親のW不倫がすでに知れ渡っているので、今更って気もするけどね…。
そんな事を考えて固まっていたら、雪兎の方が焦れたのだろう。向こうから、思い切ったように唇を重ねてきた。ギャラリーが、軽くざわめく。ゆ、雪兎の方からさせるなんて…。嬉しいやら情けないやら、軽く男としてのプライドが傷ついた。
腹立ちまぎれに雪兎の身体を抱き寄せ、今度は思い切りディープなやつを実演してやった。みんな見たかよ、これがキスってもんだぜ。ギャラリーは多いに湧いて、改めて盛大な拍手を打ち鳴らす。
「おめでとう!おめでとう!」
と、声援を送りながら。何だこりゃ。今度は、エ○゛ァの最終回かな?でもみんなに祝福されるってのも、そんなに悪いもんじゃねぇや。
ふと目をやると、飼育小屋のうさぎたちも何だか祝福を送ってくれているように見えた。これは雪兎の能力とかじゃなくて、現実の奴らね。
だけど雪兎に接するうち、おれもうさぎ語が分かるようになってきたのかな?なんてね。
同年代の女子よりも、だいぶ小さくて運動は苦手だったけど…。昔はまだ健康っちゃ健康で、体力をつけるため近所のバレエ教室に通ったりしてた。
入院する前は、小説や本よりも漫画をよく読んでたな。コテッコテの、少女漫画ね。ヒロインが、完璧超人のイケメンと恋に落ちるやつ。正直おれの趣味じゃないんだけど、ちょいちょい読まされてたわ。
「恋」って、どんなものだろう。いやその前に「好きになる」って、どんな事だろう。そんなとりとめのない事を、よく口にしていた。
姉ちゃん。おれ、「好き」って何なのかがちょっとだけ分かったような気がする。だから、見守ってて。今その気持ちを大切な相手に伝えるため、おれに勇気を与えてほしいんだ。
みなさん、こんばんは。一ノ瀬蒼12歳、ホモです。もう、誰からも逃げも隠れもしねぇ!
放課後になった。悲しくなるほど綺麗な夕焼け空の下、雪兎が待っていた。約束どおり、飼育小屋の前で…。二人で当番の仕事をしていたのが、何だか遠い昔だったかのような気がする。実際には、ほんの一週間ほど過ぎただけなんだけどな。
そして周囲に、おそらくはクラスメート全員と思われるギャラリーが控えていた。あと、ついでに梢。何だこいつら、どっから話を聞きつけてきた!雪兎はSMSの内容を誰にも打ち明けなかっただろうから、おそらくは勝手に後をつけてきた野次馬どもと思われる。
何だこれ。告白って、こんな状況の中でやるもんだっけ…?結果がどう転んでも、クラス中に知れ渡っちゃうんですけど。もっと裏庭とか、人気の少ない場所を指定すべきだったかな?いや、今更言っても仕方ないか。多分、どっちみちそんなに変わらなかっただろうし。差し当たって今は、いつまでも雪兎を待たせている訳にいかねぇ。
「雪兎。その…ごめんな。急に、こんな所に呼び出したりして。それと、朝は急にキレ出したりして本当にごめん」
おっ。今のは我ながら、少女漫画で見た告白のお手本みたいな切り出しじゃねぇか。自分の趣味じゃないと思ってたが、何でも人生に役立たない物はないんだな。
「うぅん、それは全然気にしてない。ぼくの方こそ、無神経な事してごめんなさい…。えと、それで…」
周囲から、いつまで前置きしてるんださっさと告白しろとの野次が上がる。うるせぇぞ、ギャラリーども!今ちょっと、心の準備をするのに忙しいんだよ。えぇと…。色々と用意してきた言葉があったと思うけど、今ので全部吹っ飛んじまった。仕方ねぇ、ここからはアドリブだ!
「えと、どっから言い出せばいいのか…。いつだったか雪兎、言ってたよな。『恋とか好きになるって事が、分からない』って。正直、おれだって未だによく分からないよ。でも、別に理解する必要もないと思う。雪兎に出会って、まだそんなにも経たないけど色んな経験をして…。自分の中に、これまで無かった感情が次々と湧き上がっていくのを感じる。雪兎と一緒にいるだけで、毎日がとっても楽しい。こんなおれでも、誰かに優しくなれそうな気がするんだ」
「あお君は、元々とっても優しいと思うけど…。でも、それはぼくも同じだよ。あお君といると楽しいし、自分の知らなかった自分が見つけられる気がする」
ギャラリーどもが、「脈アリやん!そのまま、たたみかけろ!」との野次を飛ばす。重ね重ね、うるせぇ奴らだな!言われずとも、ここは押しの一手だ。
「それで、結局何が伝えたいかって言うと…。雪兎の事が、好きです。大好きです。どうかおれと、付き合ってください」
「なんで、敬語になるの…?だけど、告白ってそう言うものかな。はい、もちろんですよ。ぼくでいいのなら、こちらこそお願いします」
周囲から、盛大な歓声が沸き起こった。梢が一人だけ、軽く舌打ちをしていたような気もするけどな。でも次の瞬間には他のギャラリーと一緒になって、「キース!キース!」との野次を飛ばしていた。
告白が成功して喜んだのも、つかの間。今度は一体、何なんだこの状況。どっかの映画で、見たような気もするな。えぇと、これは今キスしないと帰れないやつ…?雪兎は少し戸惑っていたが、そのうち目を閉じて顔を上げ気味にこちらを向いてきた。こ、これはいわゆる一つのキス待ち顔やな?
雪兎にここまでさせといて、自分からキスしなかったら男が廃るってもんだぜ!と思って肩を抱いたが、なにぶんギャラリーが多すぎてなかなか決心がつかない。これ、画像とか動画とか撮影されて拡散しちゃったりしないかな…?母親のW不倫がすでに知れ渡っているので、今更って気もするけどね…。
そんな事を考えて固まっていたら、雪兎の方が焦れたのだろう。向こうから、思い切ったように唇を重ねてきた。ギャラリーが、軽くざわめく。ゆ、雪兎の方からさせるなんて…。嬉しいやら情けないやら、軽く男としてのプライドが傷ついた。
腹立ちまぎれに雪兎の身体を抱き寄せ、今度は思い切りディープなやつを実演してやった。みんな見たかよ、これがキスってもんだぜ。ギャラリーは多いに湧いて、改めて盛大な拍手を打ち鳴らす。
「おめでとう!おめでとう!」
と、声援を送りながら。何だこりゃ。今度は、エ○゛ァの最終回かな?でもみんなに祝福されるってのも、そんなに悪いもんじゃねぇや。
ふと目をやると、飼育小屋のうさぎたちも何だか祝福を送ってくれているように見えた。これは雪兎の能力とかじゃなくて、現実の奴らね。
だけど雪兎に接するうち、おれもうさぎ語が分かるようになってきたのかな?なんてね。
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