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いつかきっと、形になるよ

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 弁当で、思い出したんだけど…。
 前の学校も今の学校も、お昼は給食だったよ。だから、誰に弁当作ってもらうとか気にする事もなかった。
 だけど東京で、サッカーチームにいた時なんだけ
どさ…。普段の練習の日も試合の日も、どっちも弁当が必要なんだよな。他の奴らは、当然の如く母親に作ってもらってた。
 でもうちの母親、姉ちゃんの看病で大変だったから。金だけもらって、そこら辺のコンビニやスーパーで弁当買ってた。これはまぁ、仕方のない話だよな。全然、それが嫌だった訳じゃない。
 ただある日、スーパーで買った弁当に割り箸がついてなくてさ…。店の人が忘れたとかじゃなくて、レジの近くに置いてたのを取って帰らなきゃいけなかったみたい。でも気づいた時には、後の祭り。もうすぐ練習が始まるんで、もう一回取りに行ってる時間なんてない。
 どうしたかって?仕方がないから、ぜんぶ手で食ったさ。寿司とかも、通は手掴みで食うって言うじゃん。ものすごく情けない気分だったけど、同時に妙に背徳的な快感も味わう事が出来た。
 …あ。今回の前振りは、「本編」と一切の関係がありません。ただこないだの遠足で思い出したエピソードを、みんなに知ってもらいたかったってだけの話。それじゃ今回は日付をまたいで、雪兎の実家である伊勢嶋邸からね。

 みなさん、こんにちは。一ノ瀬蒼、12歳。ホモかどうかは、保留中です。そしてこいつが、エーミール。隣にいるのが、後に大文豪ヘルマン・ヘッセとなる「ぼく」です。
 一体全体、どう言う状況なのかって?おれ自身も理解するのにひと苦労なので、ここは順を追って説明しましょう。
 まずは言ったとおり、本日は土曜日。雪兎の謎を問い詰めるべく、伊勢嶋邸へ押しかけた所だ。学校とそんなに離れてはいないが、むしろ門扉から玄関まで結構な距離があるぞ。冗談抜きで、この広さのせいで遅刻しそうな日もあるんじゃ。中学からは、自転車通学を検討してるって言ってたよ。
 もちろん家自体も、そこらへんの旅館と見間違えるくらいの大きさだ。病院経営とやらで、しこたま儲けてやがるんだろうな。立派すぎて、逆に友達を呼びづらいって言ってた気持ちも分かる。例の梢ですら、未だに招待した事はないってよ。この場にいない奴だけど、ざまぁ!
 お義母さ…間違えた。お母さんの沙都子さんが、これまた美人で気さくな女性だった。これで息子を四人も産んで、50代に足届きそうな年齢だってマ?う、うちの母親だって顔の良さでは負けてないもんね!
 お茶と一緒に手作りとか言うチェリーパイを振る舞ってもらったが、代金取れるレベルで絶品だった。そういや、料理が趣味って話だもんね。うーん、グウの音も出ない。わたし負けましたわ。
 さて、本題だよ。雪兎の召喚する、不思議なうさぎさんについての話だったね。彼の部屋で、実演して見せてもらったよ。まだ頭が理解に追いつかないけど、ざっくり説明するとこんな感じ。
 何らかの文字媒体に念を込めると、文字が光輝くうさぎさんに変身します。これが、第一段階。雪兎はこれを、マテリアルと読んでいるって。マテリアルは、人によってその形が違うらしい。さらっと言ったけど、同じような能力を持った人が他にもいるって事?雪兎に聞いたけど、この辺りははぐらかして答えなかった。
 第二段階。マテリアルたちは、集合しさらに変身して元々の文字を再現した姿になります。先ほど再現して頂いたのは、「少年の日の思い出」よりエーミールと「ぼく」の一場面。そうかそうか。エーミールって、意外と可愛らしい顔だったんだな。てっきり、底意地の悪そうな不細工かと。
 教科書としては中学の国語で出てくる話だけど、二番目だか三番目の兄貴からお古をもらってたらしいよ。おれも亡くなった姉ちゃんが本好きだったから、話としては聞いていた。
 「昔っから、国語のお話とか大好きで…。新しい教科書をもらうと、いつも穴が空くくらいに眺めてた。ある日のこと、文字たちが突然ぐるぐると回り始めるじゃん?そのまま、気がついたら…」
 光るうさぎさんに、変身してたって訳ね。実物?を見てなかったら、到底信じられない話だ。
 マテリアルはちょいちょい出さないと、ふとした拍子に溢れ出るんだって。身体の内側に、溜まり続けていくものなのかな?だから時々、人目を忍んで出しているらしい。何かここだけ切り取ると、エロい話みたいだな。
 マテリアルのうさぎさんもその後の変身した姿も、物理的に現実に影響を及ぼす事は一切出来ない。見た目の賑やかしか、昨日みたいな人探しに役立つくらいだって。
 昨日と言えば、「こずえ」の三文字をあのまま変化させたら梢になっていたのかな?本物だけで十分にやかましいので、これ以上はいらないって話だけどね。雪兎はそれを聞いて、首を横に振った。「物語性」がないので、たぶん無理だってさ。「物語性」の基準がどこまでなのかは、雪兎自身ですら定かではないようだ。
 「ぼくに何でこんな力が備わったのかは、分からない。だけどいつかぼくも、人の心を動かす小説が書いてみたくって…。そのための、下地とか土台みたいなもんだと受け取ってる。恥ずかしい話で、未だに一文字も書けてはいないんだけどね」
 「そうなんだ?でも、書けるよきっと。雪兎なら。おれ、文章とか小説とかは全然分からないけどさぁ…。雪兎が、こんなにも物語が好きってのはよく分かった。好きこそ、ものの上手なれって言うぜ。いつかきっと、形になるよ。その時は、真っ先におれに見せてくれよな」
 「あお君…。うん、分かった。きっとだよ。約束する。構想だけは、色々と出来てるんだよねぇ。例えば、浅草の銭湯で跡継ぎ息子が野球部の男子と恋する話とか…。『秘密の花園』のパロディで、コリン坊ちゃまと園庭ディコンが恋に落ちる話とか。後は、恋愛ゲームの世界に転生して主人公が友人キャラと結ばれる話も捨て難い…」

 「ちょっと待って。書きたい話って、もしかしてBL小説?」
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