転校先で知り合った優等生腐男子と、何でか付き合うようになりました

あきら

文字の大きさ
2 / 21

よく見りゃ、女の子みたいな顔してるしな

しおりを挟む
 「うさぎは寂しいと死んじゃう」って、最初に言い出したのは誰だったんだろうな。たぶん本当に寂しいのはうさぎじゃなくて、そいつ自身だったんだろうと思うけど。

 みなさん、おはようございます。一ノ瀬蒼12歳、ホモじゃないです。挨拶から始めるって形式が、どうしても慣れねぇな。
 激動の転校初日からはや数日、特に何事も起こらず週をまたぎました。それで今日は、朝も早いうちから何をしてるかって?例の「伊勢嶋くん」と一緒に、学校のうさぎ小屋の掃除に来ています…。
 週ごとに、当番が決まってるんだって。今週は出席番号順で、おれたちの番。別にいいけど、学校側が出席番号をダシに面倒なおれの世話を「伊勢嶋くん」に一任している感があってどうにも複雑な気分だ。
 当番自体は、そこまで嫌でもないよ。動物も、嫌いな方ではないしね。むしろ、わりと好き。だけど、動物からはその気持ちに応じて頂けない訳でね…。前の学校でも飼育小屋の当番はあったんだけど、まぁひどい有り様だったよ。うさぎからは超怖がられて逃げられるし、鶏からは超キレられて飛びかかられるし…。何でしょうね。顔に、「動物の敵」だとでも書かれてるんですかね。
 この学校で飼っているのはうさぎだけだったけど、小屋に入った途端すでにビビられた。そして、小屋の片隅に固まって逃げられた。フッ、やっぱりな。おおかた予想していたので、そこまでのダメージではなかったわ。むしろ、掃除がしやすくてラッキーと言うもの…。
 と思っていたら、「伊勢嶋くん」が入った途端にうさぎたちが喜び出した。そして、彼の周りを飛んだり跳ねたりしながら付きまとっている。何なんだろう、この差は。むしろ人間って、ここまでうさぎから好かれるもんなの?名前に「兎」が入ってるから、同類だと勘違いしてるのかな。
 けっきょく彼がエサをやったり構ったりしている間に、おれの方で掃除は済んでしまった。
 「あぁ、ごめんねぇ。あお君に、掃除を任せちゃって。この子たち、嬉しくて仕方ないみたい…」
 「(あお君?)…いいよ、別に。そっちが引き付けててくれたから、すぐに済んだ。『伊勢嶋くん』、めっちゃうさぎに好かれてるんだな」
 「雪兎でいいよ。まぁ、今までにも当番があったからね。それで、好かれちゃったのかな?あお君も、エサをあげてみる?」
 そう言って、抱き上げていたうさぎを近づけてきた。おれはお言葉に甘えて、ニンジンのカケラをやってみようとしたが…。やっぱり怯えた様子で、『雪兎』の腕から離れて逃げてしまった。
 「…やっぱ、駄目だ。嫌われてんかな、おれ」
 「そんなに、おっかなびっくり触っちゃ駄目だよ。この子たちに、怖いのが伝わっちゃう。うさぎって、めっちゃストレスに弱いんだから」
 その話は、有名だからよく知ってた。いやそれよりも、「怖がってる」のはおれの方なのか?「怖がってる」から、相手にも「怖さ」が伝わるのか?
 「うさぎはね、寂しいと死んじゃうんだよ…」
 その話も、有名だ。というか割と最近、一言一句ほぼ同じ言葉を聞いた。例の、W不倫してた母親からだよ。実際にはもう少し強い口調で、ブチ切れながら言ってたけど。ちなみに母親の名誉のために言っとくと、彼女がW不倫してたのはW不倫するに足りる色々な事情があるんだ。性格のキツい人で、息子のおれともしょっちゅう口喧嘩してたけど…。これだけは、声を大にして言っておきたい。
 「…君?あお君?どうかした?」
 ふと気づけば、「雪兎」が心配そうに覗き込んだ。つい色々考えて、意識があっちの方向に飛んでしまっていたらしい。
 「何でもねぇよ。所詮、おれなんかが動物に好かれようなんざ無謀だって話。動物の方からも、性格悪いのがよく分かってんだろ」
 「そんな事ないよ。あお君、口では色々と強い事を言ってるけど…。本当はとっても優しい人だって事を、この子たちもよく知ってる。ほら、お行き」
 雪兎がそう言うと、うさぎたちが突然おれに向かって飛びかかってきた。一瞬襲いかかられでもしたかと思って、鶏小屋の嫌な記憶が蘇ったが…。どうも、そうではなかった。うさぎたちはめっちゃおれの体に寄り添って、顔を擦り付けたりしている。甘えられているようで嬉しいが、ちょっとでも大きく動いたら吹き飛ばしてしまいそうで怖い。何だこの、天国のような地獄のような。
 当の雪兎は、何事もなかったかのように小屋の隅でのほほんと微笑んでいる。何だこいつ、うさぎの言葉でも理解出来るのかな。まぁでも、悪い奴じゃないのはよく分かった。よく見りゃ、女の子みたいな顔してるしな。いや正直、東京の学校も含めて今まで見てきたどの女子よりも可愛い顔をしていると思う。
 …雪兎になら、両親の離婚の理由を打ち明けられるだろうか。いや、W不倫って言葉はすでに聞いてるだろうからその詳細って言うか。…打ち明けらても、いいかな。むしろ、聞いて欲しい。でも、その時期はまだまだ今じゃないと思う。何せ、出会ってまだ一週間も過ぎてない訳だしね。
 
 ところで先程から、雪兎の身体の周りを真っ白に光る幻のようなうさぎさんが跳ね回っているように見えるのは気のせいだろうか。
 マジで、何なのこいつ。白いうさぎさんの化身とか何とか、そう言う存在なの?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

人生はままならない

野埜乃のの
BL
「おまえとは番にならない」 結婚して迎えた初夜。彼はそう僕にそう告げた。 異世界オメガバース ツイノベです

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】マジで婚約破棄される5秒前〜婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ悪役令息は一体どうしろと?〜

明太子
BL
公爵令息ジェーン・アンテノールは初恋の人である婚約者のウィリアム王太子から冷遇されている。 その理由は彼が侯爵令息のリア・グラマシーと恋仲であるため。 ジェーンは婚約者の心が離れていることを寂しく思いながらも卒業パーティーに出席する。 しかし、その場で彼はひょんなことから自身がリアを主人公とした物語(BLゲーム)の悪役だと気付く。 そしてこの後すぐにウィリアムから婚約破棄されることも。 婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ一体どうしろと? シナリオから外れたジェーンの行動は登場人物たちに思わぬ影響を与えていくことに。 ※小説家になろうにも掲載しております。

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

優秀な婚約者が去った後の世界

月樹《つき》
BL
公爵令嬢パトリシアは婚約者である王太子ラファエル様に会った瞬間、前世の記憶を思い出した。そして、ここが前世の自分が読んでいた小説『光溢れる国であなたと…』の世界で、自分は光の聖女と王太子ラファエルの恋を邪魔する悪役令嬢パトリシアだと…。 パトリシアは前世の知識もフル活用し、幼い頃からいつでも逃げ出せるよう腕を磨き、そして準備が整ったところでこちらから婚約破棄を告げ、母国を捨てた…。 このお話は捨てられた後の王太子ラファエルのお話です。

処理中です...