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よく見りゃ、女の子みたいな顔してるしな
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「うさぎは寂しいと死んじゃう」って、最初に言い出したのは誰だったんだろうな。たぶん本当に寂しいのはうさぎじゃなくて、そいつ自身だったんだろうと思うけど。
みなさん、おはようございます。一ノ瀬蒼12歳、ホモじゃないです。挨拶から始めるって形式が、どうしても慣れねぇな。
激動の転校初日からはや数日、特に何事も起こらず週をまたぎました。それで今日は、朝も早いうちから何をしてるかって?例の「伊勢嶋くん」と一緒に、学校のうさぎ小屋の掃除に来ています…。
週ごとに、当番が決まってるんだって。今週は出席番号順で、おれたちの番。別にいいけど、学校側が出席番号をダシに面倒なおれの世話を「伊勢嶋くん」に一任している感があってどうにも複雑な気分だ。
当番自体は、そこまで嫌でもないよ。動物も、嫌いな方ではないしね。むしろ、わりと好き。だけど、動物からはその気持ちに応じて頂けない訳でね…。前の学校でも飼育小屋の当番はあったんだけど、まぁひどい有り様だったよ。うさぎからは超怖がられて逃げられるし、鶏からは超キレられて飛びかかられるし…。何でしょうね。顔に、「動物の敵」だとでも書かれてるんですかね。
この学校で飼っているのはうさぎだけだったけど、小屋に入った途端すでにビビられた。そして、小屋の片隅に固まって逃げられた。フッ、やっぱりな。おおかた予想していたので、そこまでのダメージではなかったわ。むしろ、掃除がしやすくてラッキーと言うもの…。
と思っていたら、「伊勢嶋くん」が入った途端にうさぎたちが喜び出した。そして、彼の周りを飛んだり跳ねたりしながら付きまとっている。何なんだろう、この差は。むしろ人間って、ここまでうさぎから好かれるもんなの?名前に「兎」が入ってるから、同類だと勘違いしてるのかな。
けっきょく彼がエサをやったり構ったりしている間に、おれの方で掃除は済んでしまった。
「あぁ、ごめんねぇ。あお君に、掃除を任せちゃって。この子たち、嬉しくて仕方ないみたい…」
「(あお君?)…いいよ、別に。そっちが引き付けててくれたから、すぐに済んだ。『伊勢嶋くん』、めっちゃうさぎに好かれてるんだな」
「雪兎でいいよ。まぁ、今までにも当番があったからね。それで、好かれちゃったのかな?あお君も、エサをあげてみる?」
そう言って、抱き上げていたうさぎを近づけてきた。おれはお言葉に甘えて、ニンジンのカケラをやってみようとしたが…。やっぱり怯えた様子で、『雪兎』の腕から離れて逃げてしまった。
「…やっぱ、駄目だ。嫌われてんかな、おれ」
「そんなに、おっかなびっくり触っちゃ駄目だよ。この子たちに、怖いのが伝わっちゃう。うさぎって、めっちゃストレスに弱いんだから」
その話は、有名だからよく知ってた。いやそれよりも、「怖がってる」のはおれの方なのか?「怖がってる」から、相手にも「怖さ」が伝わるのか?
「うさぎはね、寂しいと死んじゃうんだよ…」
その話も、有名だ。というか割と最近、一言一句ほぼ同じ言葉を聞いた。例の、W不倫してた母親からだよ。実際にはもう少し強い口調で、ブチ切れながら言ってたけど。ちなみに母親の名誉のために言っとくと、彼女がW不倫してたのはW不倫するに足りる色々な事情があるんだ。性格のキツい人で、息子のおれともしょっちゅう口喧嘩してたけど…。これだけは、声を大にして言っておきたい。
「…君?あお君?どうかした?」
ふと気づけば、「雪兎」が心配そうに覗き込んだ。つい色々考えて、意識があっちの方向に飛んでしまっていたらしい。
「何でもねぇよ。所詮、おれなんかが動物に好かれようなんざ無謀だって話。動物の方からも、性格悪いのがよく分かってんだろ」
「そんな事ないよ。あお君、口では色々と強い事を言ってるけど…。本当はとっても優しい人だって事を、この子たちもよく知ってる。ほら、お行き」
雪兎がそう言うと、うさぎたちが突然おれに向かって飛びかかってきた。一瞬襲いかかられでもしたかと思って、鶏小屋の嫌な記憶が蘇ったが…。どうも、そうではなかった。うさぎたちはめっちゃおれの体に寄り添って、顔を擦り付けたりしている。甘えられているようで嬉しいが、ちょっとでも大きく動いたら吹き飛ばしてしまいそうで怖い。何だこの、天国のような地獄のような。
当の雪兎は、何事もなかったかのように小屋の隅でのほほんと微笑んでいる。何だこいつ、うさぎの言葉でも理解出来るのかな。まぁでも、悪い奴じゃないのはよく分かった。よく見りゃ、女の子みたいな顔してるしな。いや正直、東京の学校も含めて今まで見てきたどの女子よりも可愛い顔をしていると思う。
…雪兎になら、両親の離婚の理由を打ち明けられるだろうか。いや、W不倫って言葉はすでに聞いてるだろうからその詳細って言うか。…打ち明けらても、いいかな。むしろ、聞いて欲しい。でも、その時期はまだまだ今じゃないと思う。何せ、出会ってまだ一週間も過ぎてない訳だしね。
ところで先程から、雪兎の身体の周りを真っ白に光る幻のようなうさぎさんが跳ね回っているように見えるのは気のせいだろうか。
マジで、何なのこいつ。白いうさぎさんの化身とか何とか、そう言う存在なの?
みなさん、おはようございます。一ノ瀬蒼12歳、ホモじゃないです。挨拶から始めるって形式が、どうしても慣れねぇな。
激動の転校初日からはや数日、特に何事も起こらず週をまたぎました。それで今日は、朝も早いうちから何をしてるかって?例の「伊勢嶋くん」と一緒に、学校のうさぎ小屋の掃除に来ています…。
週ごとに、当番が決まってるんだって。今週は出席番号順で、おれたちの番。別にいいけど、学校側が出席番号をダシに面倒なおれの世話を「伊勢嶋くん」に一任している感があってどうにも複雑な気分だ。
当番自体は、そこまで嫌でもないよ。動物も、嫌いな方ではないしね。むしろ、わりと好き。だけど、動物からはその気持ちに応じて頂けない訳でね…。前の学校でも飼育小屋の当番はあったんだけど、まぁひどい有り様だったよ。うさぎからは超怖がられて逃げられるし、鶏からは超キレられて飛びかかられるし…。何でしょうね。顔に、「動物の敵」だとでも書かれてるんですかね。
この学校で飼っているのはうさぎだけだったけど、小屋に入った途端すでにビビられた。そして、小屋の片隅に固まって逃げられた。フッ、やっぱりな。おおかた予想していたので、そこまでのダメージではなかったわ。むしろ、掃除がしやすくてラッキーと言うもの…。
と思っていたら、「伊勢嶋くん」が入った途端にうさぎたちが喜び出した。そして、彼の周りを飛んだり跳ねたりしながら付きまとっている。何なんだろう、この差は。むしろ人間って、ここまでうさぎから好かれるもんなの?名前に「兎」が入ってるから、同類だと勘違いしてるのかな。
けっきょく彼がエサをやったり構ったりしている間に、おれの方で掃除は済んでしまった。
「あぁ、ごめんねぇ。あお君に、掃除を任せちゃって。この子たち、嬉しくて仕方ないみたい…」
「(あお君?)…いいよ、別に。そっちが引き付けててくれたから、すぐに済んだ。『伊勢嶋くん』、めっちゃうさぎに好かれてるんだな」
「雪兎でいいよ。まぁ、今までにも当番があったからね。それで、好かれちゃったのかな?あお君も、エサをあげてみる?」
そう言って、抱き上げていたうさぎを近づけてきた。おれはお言葉に甘えて、ニンジンのカケラをやってみようとしたが…。やっぱり怯えた様子で、『雪兎』の腕から離れて逃げてしまった。
「…やっぱ、駄目だ。嫌われてんかな、おれ」
「そんなに、おっかなびっくり触っちゃ駄目だよ。この子たちに、怖いのが伝わっちゃう。うさぎって、めっちゃストレスに弱いんだから」
その話は、有名だからよく知ってた。いやそれよりも、「怖がってる」のはおれの方なのか?「怖がってる」から、相手にも「怖さ」が伝わるのか?
「うさぎはね、寂しいと死んじゃうんだよ…」
その話も、有名だ。というか割と最近、一言一句ほぼ同じ言葉を聞いた。例の、W不倫してた母親からだよ。実際にはもう少し強い口調で、ブチ切れながら言ってたけど。ちなみに母親の名誉のために言っとくと、彼女がW不倫してたのはW不倫するに足りる色々な事情があるんだ。性格のキツい人で、息子のおれともしょっちゅう口喧嘩してたけど…。これだけは、声を大にして言っておきたい。
「…君?あお君?どうかした?」
ふと気づけば、「雪兎」が心配そうに覗き込んだ。つい色々考えて、意識があっちの方向に飛んでしまっていたらしい。
「何でもねぇよ。所詮、おれなんかが動物に好かれようなんざ無謀だって話。動物の方からも、性格悪いのがよく分かってんだろ」
「そんな事ないよ。あお君、口では色々と強い事を言ってるけど…。本当はとっても優しい人だって事を、この子たちもよく知ってる。ほら、お行き」
雪兎がそう言うと、うさぎたちが突然おれに向かって飛びかかってきた。一瞬襲いかかられでもしたかと思って、鶏小屋の嫌な記憶が蘇ったが…。どうも、そうではなかった。うさぎたちはめっちゃおれの体に寄り添って、顔を擦り付けたりしている。甘えられているようで嬉しいが、ちょっとでも大きく動いたら吹き飛ばしてしまいそうで怖い。何だこの、天国のような地獄のような。
当の雪兎は、何事もなかったかのように小屋の隅でのほほんと微笑んでいる。何だこいつ、うさぎの言葉でも理解出来るのかな。まぁでも、悪い奴じゃないのはよく分かった。よく見りゃ、女の子みたいな顔してるしな。いや正直、東京の学校も含めて今まで見てきたどの女子よりも可愛い顔をしていると思う。
…雪兎になら、両親の離婚の理由を打ち明けられるだろうか。いや、W不倫って言葉はすでに聞いてるだろうからその詳細って言うか。…打ち明けらても、いいかな。むしろ、聞いて欲しい。でも、その時期はまだまだ今じゃないと思う。何せ、出会ってまだ一週間も過ぎてない訳だしね。
ところで先程から、雪兎の身体の周りを真っ白に光る幻のようなうさぎさんが跳ね回っているように見えるのは気のせいだろうか。
マジで、何なのこいつ。白いうさぎさんの化身とか何とか、そう言う存在なの?
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