「復讐の相手」

著恋凛

文字の大きさ
上 下
14 / 35

14話

しおりを挟む
「へぇ?」
驚いたのでついつい変な声が出てしまった。すると、エマはとても悲しそうな表情で、こちらを向き、俺に問いを投げかけるように言葉を放つ。
「失望・・・しました?陸上自衛隊能力部隊を壊滅させようとしているのに無能力者がいたら足手まといですよね?でも、私は師匠と一緒に戦いたい。いざとなったら囮でもなんでも引き受けるので、どうか・・・どうか私をこの組織に置いてください。」
彼女の綺麗なオッドアイからは今にも涙が流れそうになっている。だから、俺は安心させるように優しく、包容するようにして言葉を綴る。
「失望して無ければ、足手まといとも思ってない。それにこの組織から追い出す気もなければ、囮にする気もない。エマ、お前は俺と夕貴にできた初めての仲間だ。そんな大切な人を追い出すはずがないだろ。」
すると、彼女は初めて逢った時のように目を真ん丸にして驚いた表情をする。そして、彼女は立ち上がり、俺へと抱き着いてきた。急だったもので体制を崩し、その場に倒れ込む。それでも彼女は俺を話さない。
「し、師匠。私は一生あなたに着いていきますぅー。」
泣きながら俺の胸に顔を埋め言う。
「それにお前は弱くない。そこら辺の能力者なら持ち前の身体能力と器用に使いこなすその銃剣で勝てるはずだ。戦いにおいて能力とはただのオプションに過ぎない。あれば強いかもしれないが、最強じゃない。無能力者が能力者に勝つのは思いのほか簡単なんだよ。それに俺が能力を得たのは1年と8ヶ月前だ。禁忌の能力は1年と1ヶ月前。人はいつ能力を開花させるか分からない。だから、お前が能力を開花させるのは明日かも知らなければ、一生開花しないかもしれない。たとえ、一生開花しなくても俺はお前を見捨てたりしないよ。」
身体を起こしながらエマの頭を撫でる。
上司に裏切られ、強敵を倒す組織に入ったが、無能力者の自分は約立たずではないかと思い悩んでエマは少し自暴自棄になっていたのかもしれない。自暴自棄、特にエマのような他者に迷惑をかけていないか?という心配や不安系には他者の本心が1番の治療薬だ。だから、俺は思っていることをそのまま伝えてあげた。
「そろそろ戻るか?」
その問いにエマは首を横に振る。
「すみません。もう少しだけこのままでいたいてす。」
だから、俺はエマが泣き止むまで頭を撫で続けた。



数分間、森の中で泣き続けたエマはゆっくりと俺から離れ、笑顔で、
「ありがとうございました、師匠。なんか気持ちがすっきりした気がします!」
そう言うのだった。
「なら、良かったよ。戻ろうか。」
そして俺達は拠点へと戻ったのだが、珍しく俺とエマ以外の全員がリビングに集まっていた。
「何やってるの?」
当たり前のように出た疑問をそのままつたえる。それに答えてくれたのは夕貴だった。
「おかえりなさい。今はこの組織の名前とこれからについて歩希達が帰ってきたら話し合おうって言ってた所だわ。」
組織の名前とこれからのことか・・・
「とりあえず、ここに9人じゃ狭いし、作戦会議室に移動しね?」
そう言うと皆作戦会議室に移る。俺とエマは武器をしまってから。
近未来的なその部屋は黒をベースとして、一定間隔に濃い緑のシマシマ模様が入っていた。
椅子に座り、机に手を置くと金属特有の冷たさがあった。何気これ好き!
「んで、まずはどっちから先に決める?」
「適当でもいい名前からでしょ。」
ホワイトボードをコロコロと転がしながら、夕貴は言う。俺ら全員がホワイトボードを見える位置に止めて、
「さぁ、どんどん案を出して!」
ペンのキャップを開ける。
「最強マジ卍ピエン集団!とかは?」
こんなアホ丸出しの案を出す人なんて1人しかいないよな?皆もうわかってんだろ?それにマジ卍とピエンはもう古い。
「快知、却下。」
笑顔で言う夕貴。これは面白いからでは無く、「次やったら潰すぞ」と、思い知らせているんだ。それでも快知は引くことを知らない。
「超ウルトラスーパーミラクルハイパー団!」
「快知、却下。」
もうなんて言うんだろう。アホの2文字じゃこいつを表せない気がしてきた。それにしてもそろそろ快知以外が案を出さなきゃ、快知の大喜利状態になるぞ。とりあえず、なんでもいい。ひとつ何か名前を・・・・
「DESTROYERS」 
俺は咄嗟に出た名前を言った。DESTROYERS、直訳すると破壊者達だ。まぁ、悪くないよな?
「もうそれで良くね?」
誰かがそう言うと、皆首を縦に振る。そして俺らの組織名はDESTROYERSになった。
「次にこれからのことね。最終地点は決まってるから、それまでにやらなきゃいけないこと。仲間を増やす、武器の入手、私たちの戦闘訓練をするのは最低条件ね。それでなんだけど、この先ずっとペルーで仲間を増やし続けるか、他の国に行くかどっちがいい?」
この選択は2度目だ。1度目はペルーに着いた時にオーストラリアに戻るか。その時はパスポートが無く、断念した。それに今でもパスポートはない。
「俺と夕貴、ハロン、エマの4人はパスポートないけど、どうするんだ?」
「別にパスポートが無きゃ、それを使わないで行けばいいのよ。快知の能力で船を作り出し、行けばパスポートはいらない。いざとなったら偽造すればいい。」
すっかり夕貴は悪に染まったな!パスポートの偽造・・・できなくはないが、やりたくな無いな。
「僕はペルーから離れたいな。別にペルーはいい場所だけど、このままここにいても仲間が増えると思えないし。だから、近くで世界でもトップクラスの軍団を持っているアメリカやカナダに行けば、強い人もいると思うし、人口も多いから仲間になってくれる人がいると思うよ。」
快知、たまにはいい事言うな。実は真面目キャラなのかもしれない。
APOとの最終決戦の時、快知兄との戦闘後、ボロボロ状態でも戦いに行こうとした時も思ったが、快知は実は人一倍仲間思いでいかなる時も状況を把握してるすごいやつなのかもしれないな。
「異論がある人はいる?」
その夕貴の問いに誰も反論しない。だから、俺達はペルーを離れ、アメリカへと行くことになった。まだちゃんとした日程は決まってないけどな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

最近様子のおかしい夫と女の密会現場をおさえてやった

家紋武範
恋愛
 最近夫の行動が怪しく見える。ひょっとしたら浮気ではないかと、出掛ける後をつけてみると、そこには女がいた──。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

処理中です...