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第7章 闇の商会編
アルファ帝国ギルドボルケニア支部マスター バロン・ウィリアムズ
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ラクサス達がフリージアでアムドたちと激戦を繰り広げている頃、ボルケニアでも激戦が行われていた。
「食らいなさい!」
エリスは白牙熊に向けて血の斬撃を繰り出し、熊の巨大な片腕に傷をつける。
「思ったよりも丈夫です!マサムネさん!」
「ふむ…流石に改造されただけあって防御力も上がっているか…」
マサムネが敬愛しているエリザベッタ学園長の分析によればこの熊は改造魔獣らしく、エリスも普段ほど攻撃が通じないようだ。
「心配ありやせんぜ。小技が効かないならここは物量で潰しまさぁ!出でよ!溶岩傀儡!」
バロンは懐に入れた正方形の鋼板を出す。そこには火山街ボルケニアが誇る特殊鍛冶技術で多くの魔法文字が刻印されており、彼が魔力を込めた手でなぞるだけで得意の溶岩ゴーレムを呼び出せる仕組みになっている。
そこに現れたのはバロン自身を核とした熊に並び立つ大きさのマグマの巨人である。
「溶岩鎚!!」
熊に巨大な腕を振り下ろし上から思いっきり物量で押し潰す。周囲に巨大な衝撃が走り、大地が揺れ動く。怪物熊を地面に倒したことで大ダメージを与えている。
「やりやしたか?!」
バロンはゴーレムから頭を出して言う。しかし流石に改造魔獣、ムクムクと起き上がろうとし、周囲に岩が立ち昇る。
「まだやるっていうの?!流石に大ダメージを負ってるでしょ。ここは気絶しておきなさいよ。生物として!」
「恐らく野生動物に必須の恐れと痛みの感情を取り払われているのではないでしょうか。」
「へ?それじゃあありゃ生物兵器じゃねぇですかい!」
エリスとバロンはエリザベッタの解説を聞いて驚きを顔に出す。しかし四天王マサムネは決して表情を変えることはなく一歩前に出る。
「ここは小生に手柄を譲ってもらいたい…怪物退治は小生の得意分野なものでな!」
マサムネはそう唱えると瞬間移動する。
マサムネは影武者であり、影がある場所ならばどこにでも高速で移動できる能力を誇る。マサムネは岩同士の間に出来た影に狙いを付けて移動した。通常こんなところで移動できるものなど居る訳がない。ただマサムネはリッチーとしての高い魔力と長年の戦闘経験を以て可能にしていたのである。
「うがぁぁ!」
「されたくもない改造を施され苦しんだだろう。黄泉の国にて永遠にそして安らかに眠るがよい。そして冥界の主に伝えよ小生はまたそこには行けなかったと…」
「飛影斬!」
マサムネは一瞬で熊の胴体を切り裂いた。鮮やかな断面が空に光る。マサムネは着地するとかつての熊の骸に手を合わせて祈った。
クロムとリンは驚いていた。急に巨大なゴーレムが現れ潰したかと思うと、斬撃が発生し頼っていた怪物熊の胴を二つに切り裂いたのだから。
「ねぇ大丈夫なんでしょうね。相手は思ったよりも強いわよ?」
「大丈夫なんだろうな…マガン。」
二人が振り返った先にいた男、マガンは恐れる顔をせずに言う。
「あの巨大なゴーレムはバロンとか言うアルファ帝国ギルドの物だろ。心配するなよあんなの四天王の皮を被った過去にすがる厨二死に損ない野郎だぜ?周囲にいるのも高飛車吸血鬼。あちらのレベルが知れるぜ。」
「へぇ…あなたやけにこの国の内情に詳しいのね。やっぱり表の顔は商人だから?」
「まぁ商人の端くれとして商売相手のことぐらい調べるのは当然だしね。まぁ今回の場合は来ているメンツに他の強者もいるらしいが…」
マガンは表情を変えずに続ける。
「え?それでまさか密輸がバレて俺らがブタ箱にぶち込まれるって言うのか?」
「まぁそうなる訳だが悲しまなくともいいだろクロム。バロンなんてただのチンピラ崩れなんだぜ?それに仮にそうだとしても俺らの手札は切れた訳じゃない。」
マガンはそう言うとニヤつき、リンにとある箱を渡す。
「どうせ俺らの場所ぐらいすぐバレる。これが最後の切り札だ。作戦はだな…」
クロムは作戦を聞いて驚いたが逆に彼の言うことだからと納得もできた。マガンは自分より長くアトミックファミリーに居て上からの信任も厚い。更にはすぐにキレ散らかす自分と違って教養もあって仮の姿でなくとも純粋な商人としてやっていけたのではないかと思ったほどだ。まぁこのことを質問したところ
「夢はデカくなけりゃつまらねぇだろ?俺は外道だからな。ハッハッハ!」
と返されたが。
「しかし切り札か…お前って本当に狂暴なだけじゃなくて頭キレるよな…俺はバカなもんで羨ましいぜ。」
「ふぅむ…その切り札とやらは何ですかい?」
クロムは言葉が出なかった。後ろからマガンやリンの物ではない声がしたのだから…
「ほぅ驚いた…お前みたいなチンピラ野郎でも俺のいる場所が特定できたんだな。バロン…」
マガンが振り返ると小屋の前には警棒を腕に持ったバロンが立っていた。脇にはエリスもいる。エリスはクロムとマガンをビシッと指さしたうえで警告を発する。
「もう逃がさないわよ!早くお縄につくことね!」
エリスは周囲に吸血コウモリを展開する。吸血鬼一族であるガイアス家が代々飼いならしている魔獣であり、狙った相手を襲撃する凶暴性と主人に従う忠実性から重宝されているものである。
「こんな子供だましが効くかぁ!」
クロムは大量に襲い掛かるコウモリを持っている大槌で薙ぎ払う。この大鎚は特殊性で断面から青炎を出す。コウモリは焼き払われることを恐れ恐慌状態に陥ってしまった。逆にエリスに目くらましになってしまい自由に剣を振るえない。エリスは魔獣を操ることに対してラクサスのことをほんの少しは尊敬していた。
「あぁもう!こういう時だけはあのバカ悪魔の魔獣に対する指揮の上手さを見習いたいわよ。ホントにその点だけはね!」
エリスは頭の中にラクサスを思い浮かべながら無力な自分への怒りに震える。
一方のバロンはマガンと斬り合っていた。マガンは腰に帯びたサーベルで斬りかかり、バロンは特殊警棒で応戦する。
「これはこれはバロン。随分と久しいねぇ!何年ぶりだ?」
「そうだな。まだ足を洗ってなかったんですかい?それに当国にちょっかいを出すなと言った気がしますぜ。」
バロンは警棒を振るってマガンに攻撃を仕掛ける。
「ほぅ。それが昔ボルケニアで一番恐れられた男のセリフとはな!」
「止めてくだせぇ。それは昔俺がヤンチャしてた頃の話でしょうが!」
バロンは今でこそアルファ帝国ギルドの最高幹部の一翼だが最初からアルファ帝国に仕えていたわけではなかった。バロンの生家はボルケニアの小工房で鍛冶仕事を生業としていた。しかしボルケニアで人間の鍛冶職人が働くのは非常に大変なことで大体の仕事を大鬼族が取ってしまった。人間より体躯も大きく力も強い大鬼族は仕事も早く力持ちであり、物資運搬で重宝された。しかしバロンの父は生まれながらの人間の為できる仕事にも限界はある。しかし無理してでも仕事をしなければ家族の食い扶持にも困る。バロンの父が火花で目を焼き失明したのはそんな中だった。
「何だよ。こんな簡単な仕事もできねぇのかよ。」
ある日工房にやって来た冒険者パーティの一人がバロンの父をなじった。そして蹴り飛ばした。
血だまりに倒れる父親を見てバロンはキレた。大鬼族さえいなくなれば…。まだ思慮の浅かった少年にとって社会に対する憎悪は当然のものだっただろう。バロンは棍棒を取って父を侮辱した冒険者を殴り飛ばした。バロンの周囲には同じことに悩む者たちが集まっていった。こうして徐々にバロンは邪の道に堕ちて行くこととなる…
元々戦闘のセンスがあったのだろう。ボルケニアに名を轟かせるには充分であった。
「ボルケニア自警団のバロン様のお通りだァ!」
バロンは暴れまわった。それは相手が盗賊でもそうだった。盗賊は金品や食料を強奪する。バロンにはそれも許せなかった。
「お前らは生きていちゃいけないんだ!死んで償え!俺はバロンだァ!」
バロンの棍棒が盗賊の頭に直撃する。
「痛いなオイ!このマガン様をキレさせるとはお前も運が無いな。」
「うるせぇ下っ端の分際で!」
「今は下っ端。だが?俺は数年後にはファミリーのトップの椅子に座る男だぜ?」
バロンとマガンの激突は一昼夜続いた。激突していたら衛兵が来たので双方退散したのだ。
「バロンさんすげぇや!アンタなら今の魔王様にだって届くんじゃねぇか?」
「そうだな!俺はいつか天下を取ってやる!」
そんな少年の野望はそう長くは続かなかった。
バロンの元に訪問者が現れたのだ。それはスーツを着こなしたがっしりとした体格の初老の男だった。
「貴様がバロンか?吾輩はドリア…魔王軍四天王だ。貴様、魔王軍に入らないか?」
「何だと!誰が魔王軍なんかに入るか!」
バロンは当然断わり棍棒を振るった。結果は惨敗バロンは攻撃を当てることすらできずに地面にうずくまった。
「なんじゃぁ!こんな地面の模様ごときで俺を押さえるなんて卑怯だぞオッサン!」
「全く…このような言葉を将来息子にも言われるのか…恐ろしいぞ…」
ドリアと名乗った男は頭を抱える。
「まぁ良い。吾輩は貴様を殺しに来たのではない。」
「じゃあ何なんだよ!」
ドリアは語った。この街を始めとして最近は悪しき冒険者が多すぎること、そして今隣国で動乱が起こりこの帝国も戦禍に巻き込まれるかもしれないこと、そして最後に大事なことを言った。
「まぁ吾輩はこの帝国で魔術師をしているんだが最近業務過多でな。できれば他の者と分担したいと魔王様に奏上したところ自分で人材を見つけて来いとの仰せでな。貴様、魔術師に興味は無いかね?」
「興味が無いと言ったら?」
「そうすれば‥‥貴様が頷くまで訪れよう。」
「それ実質強制じゃねぇかよ!」
「うるさい行くぞ。」
そうドリアが言うとバロンの意識が突然落ちた。
こうしてバロンはドリアの弟子として兄弟弟子共々地獄の修業をする羽目になったのだ。つまりバロンはラクサスにとって父親の弟子と言うことにあたるのだが、ラクサスはそのことに気付いていない。ドリアは魔王軍の仕事の内容を家にまで持ち帰ることが無く、滅多に家に連れて来ることもなかったからだ。その後治安維持と冒険者の統制を行うために故郷ボルケニアにギルドを設立するというのでそこに派遣されて今に至る。結局バロンの生家は鍛冶屋でこそ無くなったもののバロンが倍以上の収入を入れることになったのであった。
「と言う訳で俺はもう昔の俺じゃないんすよ。ボルケニア太守補佐にしてアルファ帝国ギルドボルケニア支部マスターのバロン・ウィリアムズでさぁ!」
「生意気なァ!」
そう言ってバロンとマガンは激突する。
「食らいなさい!」
エリスは白牙熊に向けて血の斬撃を繰り出し、熊の巨大な片腕に傷をつける。
「思ったよりも丈夫です!マサムネさん!」
「ふむ…流石に改造されただけあって防御力も上がっているか…」
マサムネが敬愛しているエリザベッタ学園長の分析によればこの熊は改造魔獣らしく、エリスも普段ほど攻撃が通じないようだ。
「心配ありやせんぜ。小技が効かないならここは物量で潰しまさぁ!出でよ!溶岩傀儡!」
バロンは懐に入れた正方形の鋼板を出す。そこには火山街ボルケニアが誇る特殊鍛冶技術で多くの魔法文字が刻印されており、彼が魔力を込めた手でなぞるだけで得意の溶岩ゴーレムを呼び出せる仕組みになっている。
そこに現れたのはバロン自身を核とした熊に並び立つ大きさのマグマの巨人である。
「溶岩鎚!!」
熊に巨大な腕を振り下ろし上から思いっきり物量で押し潰す。周囲に巨大な衝撃が走り、大地が揺れ動く。怪物熊を地面に倒したことで大ダメージを与えている。
「やりやしたか?!」
バロンはゴーレムから頭を出して言う。しかし流石に改造魔獣、ムクムクと起き上がろうとし、周囲に岩が立ち昇る。
「まだやるっていうの?!流石に大ダメージを負ってるでしょ。ここは気絶しておきなさいよ。生物として!」
「恐らく野生動物に必須の恐れと痛みの感情を取り払われているのではないでしょうか。」
「へ?それじゃあありゃ生物兵器じゃねぇですかい!」
エリスとバロンはエリザベッタの解説を聞いて驚きを顔に出す。しかし四天王マサムネは決して表情を変えることはなく一歩前に出る。
「ここは小生に手柄を譲ってもらいたい…怪物退治は小生の得意分野なものでな!」
マサムネはそう唱えると瞬間移動する。
マサムネは影武者であり、影がある場所ならばどこにでも高速で移動できる能力を誇る。マサムネは岩同士の間に出来た影に狙いを付けて移動した。通常こんなところで移動できるものなど居る訳がない。ただマサムネはリッチーとしての高い魔力と長年の戦闘経験を以て可能にしていたのである。
「うがぁぁ!」
「されたくもない改造を施され苦しんだだろう。黄泉の国にて永遠にそして安らかに眠るがよい。そして冥界の主に伝えよ小生はまたそこには行けなかったと…」
「飛影斬!」
マサムネは一瞬で熊の胴体を切り裂いた。鮮やかな断面が空に光る。マサムネは着地するとかつての熊の骸に手を合わせて祈った。
クロムとリンは驚いていた。急に巨大なゴーレムが現れ潰したかと思うと、斬撃が発生し頼っていた怪物熊の胴を二つに切り裂いたのだから。
「ねぇ大丈夫なんでしょうね。相手は思ったよりも強いわよ?」
「大丈夫なんだろうな…マガン。」
二人が振り返った先にいた男、マガンは恐れる顔をせずに言う。
「あの巨大なゴーレムはバロンとか言うアルファ帝国ギルドの物だろ。心配するなよあんなの四天王の皮を被った過去にすがる厨二死に損ない野郎だぜ?周囲にいるのも高飛車吸血鬼。あちらのレベルが知れるぜ。」
「へぇ…あなたやけにこの国の内情に詳しいのね。やっぱり表の顔は商人だから?」
「まぁ商人の端くれとして商売相手のことぐらい調べるのは当然だしね。まぁ今回の場合は来ているメンツに他の強者もいるらしいが…」
マガンは表情を変えずに続ける。
「え?それでまさか密輸がバレて俺らがブタ箱にぶち込まれるって言うのか?」
「まぁそうなる訳だが悲しまなくともいいだろクロム。バロンなんてただのチンピラ崩れなんだぜ?それに仮にそうだとしても俺らの手札は切れた訳じゃない。」
マガンはそう言うとニヤつき、リンにとある箱を渡す。
「どうせ俺らの場所ぐらいすぐバレる。これが最後の切り札だ。作戦はだな…」
クロムは作戦を聞いて驚いたが逆に彼の言うことだからと納得もできた。マガンは自分より長くアトミックファミリーに居て上からの信任も厚い。更にはすぐにキレ散らかす自分と違って教養もあって仮の姿でなくとも純粋な商人としてやっていけたのではないかと思ったほどだ。まぁこのことを質問したところ
「夢はデカくなけりゃつまらねぇだろ?俺は外道だからな。ハッハッハ!」
と返されたが。
「しかし切り札か…お前って本当に狂暴なだけじゃなくて頭キレるよな…俺はバカなもんで羨ましいぜ。」
「ふぅむ…その切り札とやらは何ですかい?」
クロムは言葉が出なかった。後ろからマガンやリンの物ではない声がしたのだから…
「ほぅ驚いた…お前みたいなチンピラ野郎でも俺のいる場所が特定できたんだな。バロン…」
マガンが振り返ると小屋の前には警棒を腕に持ったバロンが立っていた。脇にはエリスもいる。エリスはクロムとマガンをビシッと指さしたうえで警告を発する。
「もう逃がさないわよ!早くお縄につくことね!」
エリスは周囲に吸血コウモリを展開する。吸血鬼一族であるガイアス家が代々飼いならしている魔獣であり、狙った相手を襲撃する凶暴性と主人に従う忠実性から重宝されているものである。
「こんな子供だましが効くかぁ!」
クロムは大量に襲い掛かるコウモリを持っている大槌で薙ぎ払う。この大鎚は特殊性で断面から青炎を出す。コウモリは焼き払われることを恐れ恐慌状態に陥ってしまった。逆にエリスに目くらましになってしまい自由に剣を振るえない。エリスは魔獣を操ることに対してラクサスのことをほんの少しは尊敬していた。
「あぁもう!こういう時だけはあのバカ悪魔の魔獣に対する指揮の上手さを見習いたいわよ。ホントにその点だけはね!」
エリスは頭の中にラクサスを思い浮かべながら無力な自分への怒りに震える。
一方のバロンはマガンと斬り合っていた。マガンは腰に帯びたサーベルで斬りかかり、バロンは特殊警棒で応戦する。
「これはこれはバロン。随分と久しいねぇ!何年ぶりだ?」
「そうだな。まだ足を洗ってなかったんですかい?それに当国にちょっかいを出すなと言った気がしますぜ。」
バロンは警棒を振るってマガンに攻撃を仕掛ける。
「ほぅ。それが昔ボルケニアで一番恐れられた男のセリフとはな!」
「止めてくだせぇ。それは昔俺がヤンチャしてた頃の話でしょうが!」
バロンは今でこそアルファ帝国ギルドの最高幹部の一翼だが最初からアルファ帝国に仕えていたわけではなかった。バロンの生家はボルケニアの小工房で鍛冶仕事を生業としていた。しかしボルケニアで人間の鍛冶職人が働くのは非常に大変なことで大体の仕事を大鬼族が取ってしまった。人間より体躯も大きく力も強い大鬼族は仕事も早く力持ちであり、物資運搬で重宝された。しかしバロンの父は生まれながらの人間の為できる仕事にも限界はある。しかし無理してでも仕事をしなければ家族の食い扶持にも困る。バロンの父が火花で目を焼き失明したのはそんな中だった。
「何だよ。こんな簡単な仕事もできねぇのかよ。」
ある日工房にやって来た冒険者パーティの一人がバロンの父をなじった。そして蹴り飛ばした。
血だまりに倒れる父親を見てバロンはキレた。大鬼族さえいなくなれば…。まだ思慮の浅かった少年にとって社会に対する憎悪は当然のものだっただろう。バロンは棍棒を取って父を侮辱した冒険者を殴り飛ばした。バロンの周囲には同じことに悩む者たちが集まっていった。こうして徐々にバロンは邪の道に堕ちて行くこととなる…
元々戦闘のセンスがあったのだろう。ボルケニアに名を轟かせるには充分であった。
「ボルケニア自警団のバロン様のお通りだァ!」
バロンは暴れまわった。それは相手が盗賊でもそうだった。盗賊は金品や食料を強奪する。バロンにはそれも許せなかった。
「お前らは生きていちゃいけないんだ!死んで償え!俺はバロンだァ!」
バロンの棍棒が盗賊の頭に直撃する。
「痛いなオイ!このマガン様をキレさせるとはお前も運が無いな。」
「うるせぇ下っ端の分際で!」
「今は下っ端。だが?俺は数年後にはファミリーのトップの椅子に座る男だぜ?」
バロンとマガンの激突は一昼夜続いた。激突していたら衛兵が来たので双方退散したのだ。
「バロンさんすげぇや!アンタなら今の魔王様にだって届くんじゃねぇか?」
「そうだな!俺はいつか天下を取ってやる!」
そんな少年の野望はそう長くは続かなかった。
バロンの元に訪問者が現れたのだ。それはスーツを着こなしたがっしりとした体格の初老の男だった。
「貴様がバロンか?吾輩はドリア…魔王軍四天王だ。貴様、魔王軍に入らないか?」
「何だと!誰が魔王軍なんかに入るか!」
バロンは当然断わり棍棒を振るった。結果は惨敗バロンは攻撃を当てることすらできずに地面にうずくまった。
「なんじゃぁ!こんな地面の模様ごときで俺を押さえるなんて卑怯だぞオッサン!」
「全く…このような言葉を将来息子にも言われるのか…恐ろしいぞ…」
ドリアと名乗った男は頭を抱える。
「まぁ良い。吾輩は貴様を殺しに来たのではない。」
「じゃあ何なんだよ!」
ドリアは語った。この街を始めとして最近は悪しき冒険者が多すぎること、そして今隣国で動乱が起こりこの帝国も戦禍に巻き込まれるかもしれないこと、そして最後に大事なことを言った。
「まぁ吾輩はこの帝国で魔術師をしているんだが最近業務過多でな。できれば他の者と分担したいと魔王様に奏上したところ自分で人材を見つけて来いとの仰せでな。貴様、魔術師に興味は無いかね?」
「興味が無いと言ったら?」
「そうすれば‥‥貴様が頷くまで訪れよう。」
「それ実質強制じゃねぇかよ!」
「うるさい行くぞ。」
そうドリアが言うとバロンの意識が突然落ちた。
こうしてバロンはドリアの弟子として兄弟弟子共々地獄の修業をする羽目になったのだ。つまりバロンはラクサスにとって父親の弟子と言うことにあたるのだが、ラクサスはそのことに気付いていない。ドリアは魔王軍の仕事の内容を家にまで持ち帰ることが無く、滅多に家に連れて来ることもなかったからだ。その後治安維持と冒険者の統制を行うために故郷ボルケニアにギルドを設立するというのでそこに派遣されて今に至る。結局バロンの生家は鍛冶屋でこそ無くなったもののバロンが倍以上の収入を入れることになったのであった。
「と言う訳で俺はもう昔の俺じゃないんすよ。ボルケニア太守補佐にしてアルファ帝国ギルドボルケニア支部マスターのバロン・ウィリアムズでさぁ!」
「生意気なァ!」
そう言ってバロンとマガンは激突する。
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