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第7章 闇の商会編

失踪の真実と新たな上級悪魔族

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フレイムの街から離れた端の方の暗い倉庫のあたりに不自然に子供たちが集まっている。
ネロが視点を共有したのは洋服屋の息子であった。しかし視点を共有しているからと言って別にネロがその体を自由自在に動かせるわけではない。その上その子供はやたら頭が動くのだ。まるで居眠りをしているかのように…いやさすがに立ったまま寝るどころか目を開けたまま居眠りをするなんて流石に年端の行かない子供でもやらないだろう。明らかに様子がおかしいのは目に見えていた。
目の前にはガラの悪そうな男が床に置かれた鉄骨の上に座っている。その少し横には別の背の高い男が立っており、鉄骨に座るスキンヘッドの男と何やら話をしている。
ネロはその隣に座っている男に視点を移してより鮮明な会話が聞けるようにした。
「しっかしさぁ…こんな上手くいくとは思わなかったぜぇ。この計画がさ。」
「フン、当たり前だろ。一体上がどれだけの期待感もってこの商売を始めたと思ってるんだ。わざわざあの変人の集まりとか言う悪魔族を雇ったんだ。ハナから失敗は許されん。どれだけの金が失われるか分からないからな。それに…」
スキンヘッドの男は手に持った短刀を弄びながら言う。
「ガキどもは自分の身体で歩いてここまで来たんだからな。俺らが街を襲撃して強奪したわけじゃあない。目的も知られまいさ。まさか人身売買が目的とはな。」
まさか魔術で盗聴されているとも思わないでペラペラと極秘情報を話していく男たち。男たちは人身売買をするギャングの一味であった。しかし、これを聞いても子供たちは動こうとはしない。抵抗すらしないのだ。スキンヘッドの男は続ける。
「っと、ここまで言えば人身売買されると知ったガキどもは尻尾巻いて逃げ出すのが定石だろうな。まぁ現実そうではないがな。」
「あぁ人身売買されるなら声の一つでも上げるだろうがこれではな…」
背の高い男がそう言うと倉庫の扉が開いて何者かが入って来る。中にいた盗賊たちは立ち上がって一斉に声をかける。
「ビリーさん!お疲れ様です!」
「おう!ちゃんとガキどもの洗脳は続いてるか?」
軽快な男の声だ。恐らく連中の仲間だろう。背は非常に高くがっしりとした体形である。
顔は大きく髪はリーゼントにサングラスと言った悪の出で立ち、それに特攻服を合わせている。彼の強さを表しているのかあちこちに龍や虎をあしらった刺繍が施されている。それで居て両手に鞘に入れたドスを持って引きずっていた。
「ビリーさん、きちんとガキどもはぐっすりです。」
「そうか。」
ビリーと言われた大男は壁に向かって行く
「もちろん一人も逃がしてねぇな?命拾いしたなァ。もし一人でも逃がしていたら…」
ビリーはスキンヘッドの男の腕を取るとすぐそばの壁にドスを抜き出して突き立てた。
「一人に付きテメェの指が一本ずつ涙の卒業式を迎えることになってたからなァ!」
スキンヘッドの男の背中に冷や汗が流れ、周囲の盗賊たちに緊張感が走る。
「フン。ちゃんとやってればそんな鬼畜なのはしねぇよ。俺は優しいんだよ。」
そもそもビリーと言う男はこんな男だ。荒くれ者の中でも屈指の狂人で今まで敵味方問わず殺戮することに躊躇がない外道だ。盗賊たちはそんな男に震えながら従っている。
「で?あの悪魔族様はどうしたんだよ。」
「は、はい!確かフレイムのガキどもも集めるとかで。」
「ふぅん。上はフリージアとか言うところに住んでたガキだけで商売するとか言ってたのにここまでとはな。流石悪魔取れるものは全部取ろうってことかよ。」
ビリーは苦笑いするのを察したのか向こうから笛の音が聞こえてくる。
「来やがったか…」

フレイムの広場に子供たちが集まっていた。
「ここで何が始まるんだろう?」
「知らねーよ。でも何か面白いことやるらしいぜ。」
「ふ~ん。でも私には関係ないわね。」
「そんなことを言って来てるんじゃねぇか。」
そう口々に喋り出す子供たち。そんな中黄色いTシャツを着ている子供が指をさす。
「あ!来たよ!」
やって来たのは黄色いロープを着たアムドだった。三角の帽子を被っていて道化の格好をしている。そんな男が笛を吹きながら歩いて来るので子供たちはわーっと喜びの声を上げた。
「フッフッフ、少年少女の皆!本日も笛吹きアムドが参りました!まずは一曲。」
そう言ってアムドは笛を吹き始める。見事な音色であった。対象の子どもはおろか大人すらも魅惑するポップな音色が街に響き渡る。その見事さに聞いた子供たちの意識を奪いかけるほどに…
「凄い!ねぇ~!今度はこれ吹いて!」
「バカね!こっちが先よ!」
「は?何時何分何秒地球が何回まわった日に話したのか教えろ!」
子どもたちはあーだこーだ喧嘩をするが笛の根を聞くほどに自然と収まっていった。するとアムドはこう言う。
「さぁ街を散歩しようじゃないか!」
笛を吹きスキップして進むアムドに子供たちは黙ってついて行く。

楽しい音楽に包まれた楽団は街を巡って行く。教会の孤児院を経て、商店街を通っていく。その楽しさにつられたのだろうか、子供たちの数もどんどん増えて行く。そのまま一団は街から外れた場所に向かって行く。そして丁度倉庫街の前でラクサスたちに出くわした。
「アムド?アムドじゃないか!こんな街で何をしてるんだ?」
「ラ、ラクサスさん?!それに周りにいるのはお仲間たちですかい?」
アムドはあくまでも冷静に尋ねる。
「まぁ仲間と言うか同僚と言うか…で?何をしてるんだ。この街にも演奏でもしに来てたのか?」
「まぁそう言うところですな。」
アムドは笑顔で応対する。しかし野生の目は違った。
「ガウ!ガウガウ!」
アムドの足元で3頭の狼が吠え立てる。
「おい!落ち着けよ!この男はお前らの知ってる奴だよ!悪いなまだ躾が不十分みたいで。」
ラクサスは頭を下げるが、横にいたネロが口を挟む。
「いや…僕の見立てだとこのタロウ君たちは別に初対面の奴に吠えてるわけじゃなさそうだぞ?」
そうして屈みサブロウの頭を撫でる。
「ネロたち獣人族は動物系の魔獣の感情の読み取りが巧いことで有名ですものね。それで何と言ってますの?」
「う~ん…この咆え方は慣れない奴に対する怯えの感情というよりも、悪意ある人物を発見した時に主人、つまりラクサスに教えるときの吠え方だね。」
ネロがそう立ち上がって解説する。
「へぃ、そうなんですねぇ。知りませんでしたよ。どこかで泥棒でも湧いてるのかな?」
アムドはそう返事をする。呂律が前より悪くなっている気がする。そして次の瞬間一同を凍り付かせる事件が起きた。
「アムドゥスキアス様?!何してるんでさぁ?」
声をかけたのは眼帯を付けたガラの悪いギャングである。明らかに堅気でないのが見て取れるし、そもそも先まで倉庫の中に居た男であった。
「ア、アムドゥスキアスって何でさぁ…」
その途端ラクサスの腕からサブロウが飛び出てしまい、アムドの帽子を奪ってしまった。
途端に現れる黄色い二本角。こんなのが生えていてかつ隠さなければならない理由はただ一つ。
「悪魔族ですの?」
ローシァは驚愕して声が出ない。アムドはラクサス達を見るとため息をついて。
「ったく…上手くいかねぇなぁ…余計なことを話しやがってよ…」
急に低く声色を変えて話し始めた。途端に身体に変化が現れる。背は少し大きくなり髪色も暗くなった。今まで決して男前ではなかった顔も変化し見る者を魅了する姿となっている。尻からは尾が生え、頭には猛々しい角が現れた。
「悪魔族?!アムド、お前しかも俺と同じ上級悪魔族なのか?」
悪魔族は大きく三つに分けられる。まずは一般的に人と同じ形をとる下級悪魔族、次に搾精することで生きながらえているようなサキュバスやインキュバスのような淫魔種族、そしてラクサスやドリアのような上級悪魔族である。下級悪魔族は普通に街で見かけることができるし、ラクサス達も何回か種類仕事の時などに顔を見たことがある。他の種族と違って知能が高いので文官などを担当していることが多いのだ。淫魔はそれなりの数がおり、顔が整っていて大体夜に侵入して来て魅惑の夢を見せてくるので男性陣にそれなりに人気がある。ただどうやら同族嫌悪をするらしく悪魔族のラクサスの元には残念ながら訪れることはなかった。このことは悪魔族である前に転生前はこの手のことに縁のない男子であったラクサスはとんでもなく悔しかったらしい。
一方の上級悪魔族は世界広しと言えども滅多にお目にかかれない種族である。いや正確に言えばまともにこの世界で生きて行くなら頻繁に会ってはならない生き物である。と言うのも大体上級悪魔族は数が少なく72体しかいないのに引き換えチート級の魔術を使うことができる為1体で小国の命運なら軽く握れるとも言われるほど怪物である。しかもそのくせ知能が非常に高い上にプライドもそれに伴って高いので全く他人の言うことを聞かないし自分以外の生物の命など気にしなくていいと思っている。その為上級悪魔族は人間魔族問わず畏怖の対象であり近づくものなどいない。ラクサスやドリアが魔王軍幹部として働き、その他の人間や魔族たちと仲良く生活しているのは実はとんでもない奇跡なのである。ラクサスはこの男に会った時に魔力を微弱にしか感じなかったがそれも恐らく魔道具か何かで出力を押さえていたのだろう。ラクサスがそれを見逃すことは一生の不覚である。
「まさかあなたが子供たちを誘拐した犯人ですの?!」
ローシァが怒りをにじませながら尋ねるとアムド、いやアムドゥスキアスの高笑いが響く。
「正解だよ。俺は上級悪魔族のアムドゥスキアス!俺が全ての元凶なのさ!」
その高笑いは空まで響いていた。
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