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第6章 ラクサスの牧場生活編

アイエーー!!?ユウシャ!?ユウシャナンデ!?

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ネロは急に通信機が使えなくなったので驚いていた。
「ちょ、ラクサス?ラクサスさん?ドリアさんの倅?」
「どうやら通信機が壊れたようだな。まぁ終わりだ。へっ!」
男のネクロマンサーはそう不気味な笑みを浮かべた。
「終わりなのはお前もだがな。生きて帰れると思うな!」
タイガがサーベルの刃を男の首に添える。
「生きてって…お前らが生きて帰れるかの心配をしたらどうだ?」
「てめぇ!」
「待ちなさいよ。タイガ!今向こうで何が起こっているのか分からなければ、殺したって何の意味もないわよ!」
激高するタイガをラビが後ろから羽交い締めにしてまで抑える。
「ネロさん!通信機が使えないなら自分の能力でやればいいじゃないですか!」
「あ!そっか…忘れてたわ『神の目 神の耳』」
ネロの神の感覚は聴覚にも応用できる。半径5㎞以内の音なら針の落ちる音すら聞き逃さない。ネロは視覚と聴覚を向こうの塔と共有した。

ラクサスは一瞬男の返答が何なのか理解できなかった。
「え?勇者?勇者ってあの魔王倒しに行くっていう?」
男は小さくうなずく。
ラクサスは衝撃を受けすぎて倒れ込んだ。腰の壺からスライムが出て来てクッションのように受け止める。
(いや、バカじゃねぇのか…何で勇者がこっち来てんだよ!確かにうちの主人は魔王様だけど!人様に迷惑かけること何もしてねぇだろあのロリガキ魔王は!)
勇者は覇気があるが気があまりにも強く近づけない。
顔は整っていてその上優男風で、髪は金髪で遊ばせてある。背も高く体には鎧を付けているあたりまさしく英雄と言える立ち振る舞いだった。チビなラクサスとは大違いだ。そして最も目を引くのは両手に持っている大剣。巨大な刃は龍でも木の枝のように切り裂けるだろう。
(おいおい俺にはステージが高すぎんだろ…でも気おされては負けだ。)
ラクサスは首を振って飛び上がると着地してニッコリ笑って言った。
「あの…今うちは勇者の営業は受け付けてないんでお引き取りくださいませ。あとそう言えばそこで寝てるネクロマンサーを何とかしてください。遺体はコッチで処理しますのでね。」
「は?ちょっとアンタ待ちなさいよ…アタシを見捨てるっての?」
女のネクロマンサーは顔を青ざめて言うがラクサスは淡々と。
「だってお前魔力は強いけど俺と近接格闘で勝てねぇだろ?無視だ無視!」
「ちょふざけないで。ゆ、勇者様このアホ悪魔をとっとと」
その瞬間勇者の剣がネクロマンサーの首を打ち取った。
「う、嘘でしょ…」
「うるせぇんだよ…雑魚が。」
首が地面に落ちる。
(き、斬りやがった…身内のことを!こいつ普通の頭じゃあねえ!)
「あのですね…あんまり当国で死体を出さないでいただけるといいんだけどね。処理大変だしさ。」
動揺を隠して飄々と会話を続けていくラクサスに対し勇者は剣を突きつけた。
「その角と尻尾…悪魔族だね。」
「ヒィィィィィ!死ぬわ!いきなり剣を突きつけんなコラ!」
ラクサスは後ろに飛び退いてギラリと勇者に鋭い視線を送る。
「魔王軍に話す価値はないね。」
勇者はそう言うと通信機を踏みつけ壊した。
「一体アンタが何なのかは知らねぇけどもとりあえず俺とまともに話し合う気は無いらしいな。」
「貴様に話す義理はない。どうやら盗聴されているようだがお前の仲間か?粗方向こうの塔から聞いているんだろうが。」
「だからって何だよ!」
「私は女神さまの力を貰って戦っているのでね。自分に駆けられている魔術を見抜くことぐらいは朝飯前なんだ。厄介だからこの術者を消し去るのも選択肢の一つだが…」
「止めろ!」
ラクサスは矛を手に取る。神話でグングニルと名付けられたそれは最初にヴェール戦で使った時よりも手になじむ。

 「ちょ、何で勇者が来てんのさ!誰かなんかしたか?しかも僕の盗聴に気付かれてる…」
全てを盗聴していたネロの顔は興奮して赤くなっている。すぐに後ろの二人が反応する。
「え?そうなんスか?」
「これは困りものですね…」
ネロは笑顔を崩さずに言い放つことには
「行くぞ!勇者と堂々とやり合おうじゃねぇか!」
どうやら勇者の来訪は強者との戦いを好むネロを刺激したらしい。しかし、部下の方はそうはいかない。
「いや…流石に危険すぎるでしょう。アンタ単騎で勇者相手に攻めに行くなんて…太守様に怒られますぜ。」
「バカ野郎め。危険だからって強者のいる戦場に出ないのは戦士としてダメダメだろ!あの太守の問題は…何とかなるやろ。とりあえずドリアさんに連絡しておけばいいだろ。」
ネロはそう言って走って行ってしまった。

「今まで話してよく分かった。お前は本当に勇者なのか疑問符しか残らねぇ。勇者だとしてお前みたいなクズに魔王様を倒させるわけにはいかない…」
「悪魔の身分で言えた事か。じゃあお前の屍をおたくの大将にでも送り付ければいいのか?お前はそれほどの実力者か?」
「なっ。」
言いよどむラクサスに勇者は冷淡に告げる。
「違うだろう?その魔力を見れば分かる。お前は私の足元にも及ばない。それで仮に実力ある方ならこの国のレベル自体が疑わしい。自分の実力すら分からない井の中の愚かな蛙め。」
全て当てられている。ラクサスはまだ絶対あの四天王には敵わないと分かっている。いつかは越えるつもりだがあの化物連中を見れば自分の未熟さなど言われずとも理解できる。
しかし…今ここで虚勢でも貼らないと絶対に重圧に潰される。

「蛙?俺は蛙じゃねぇよ。悪魔族を舐めるのは辞めろ。」
あの男は化物だ。そんなの戦わずともオーラだけで分かるのに虚勢を張ってしまう。
勇者はそんなことを気にする様子もなく大剣を構える。
「悪いけど。私は雑魚に手加減をするようなマネはしない。復讐されてもめんどくさいからな。だから名前も教えない。君には教える価値もないから。」
「手加減なんて…してもらわなくていい!お前が遺言で負け惜しみされても困るからな!」
「じゃあね。雑魚君。」
勇者は大剣を振り上げて瞬間移動する。ラクサスはグングニルを持って翔ける。
そして二人の武器は交錯する。

大剣はラクサスを刺そうとして、血を吹き上げた。
「な、何で…」
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