上 下
137 / 139
電脳暴君はまだまだ夢の中

再誕

しおりを挟む
 フォートシュロフ、仮設司令室。その場に、私が連絡をつけられるメンバーを手当たり次第に集めた。

「よーし、じゃあこれで全員かな」

 私は皆を見回す。

 シュクレ教の教祖、シュクレ。 IAFの2位クラン、フォートシュロフ神聖騎士団のヨイニ、最近ブレイク中の配信者、トヨキンTVのシマーズさん。そして意味わかんない結束力のアンチ・メメントモリ(驚くべき事に、これがクラン名だ)のカタンだ。

「まず、良く分かってないんだけどさ、なんで始祖AIがインターネットから隔離されると困っちゃうの?」

 私の素朴な疑問に、シュクレが小さく手をあげた。

「AIシンギュラリティ後の現代において、人類の生活にAIは欠かせない物となっています」

「要は、文明がシンギュラリティ前に戻っちゃうってこと? それはそれで大変だけど……世界が滅ぶ程じゃ無いよね?」

 私の質問にシュクレが深刻な表情で首を左右へ振る。

「いいえ、日常生活より、AIはより信頼性を求められ、ミスが許容されない分野へ積極的に使われています」

「例えば?」

「すぐに思いつく危機的な物と言えば、原子炉や衛星の制御システムでしょうか。流石に即、崩壊と言うことは無いでしょうけど……時間の問題ではあります」

 シュクレの言葉に、場に鎮痛な雰囲気が漂う。

「なぁ」

 赤い単発のヤンキーみたいな男、カタンが場の空気を切り裂く。

「ここは皆で残念がる場所じゃねぇだろ? 俺は、この問題を解決できる可能性がIAFにあるって聞いてこの場にいるんだ。今はその根拠と方法について話し合おうぜ」

「カタンの癖にまともなこと言ってる……」

「お前には言われたくねぇ!」

 私が思わず突っ込むと、カタンがいつもの様にブチギレながら私を指差して反論してきた。

 なんだ、いつものカタンだった。場の空気が軽くなった所で、与一のアバターであるヨイニが話を進める。

「アニーが言うには、運営の目的を果たす為にはわざわざゲームを作る必要も、プレイヤーを入れる必要もない筈で、そこには何か理由がある筈だってことだよな」

 ヨイニの言葉に私はコクコクと頷く。

「なんだ、状況証拠かよ」

「いいえ、そこは説明できます」

 カタンが吐き捨てる様に呟き、それをチラリとみたシュクレが否定する。

「ご存知の通り、始祖AIは原始的なAIが深層学習によって偶発的に誕生し、そしてインターネット上に拡散しました」

 シュクレの言葉に、その場の全員が頷く。

「人類では推し量れない存在となってしまった始祖AIを再び人類が認識できる状態として1つの所に集結させるのは、たとえ世界最高のAIの力を借りたとしても人類には不可能です」

「じゃあ、運営が嘘を言っているってこと?」

 少し表情を緩ませて、希望を見出した言葉をシュクレは残念そうに眉をひそめて否定した。

「いいえ……おそらく、これこそがIAFが生まれた理由です。運営は、始祖AIが自らの石でこの場へ帰ってくる様に仕向けたんです」

「もしかして、今回のイベントが関係しているの?」

 私の質問に、シュクレが頷く。

「はい、VRMMOのAIは世界のゲーム性と合理性の矛盾を自動で補正しています。運営は始祖AIが誕生したゲームと酷似」

 そこでシュクレは一度言葉を区切って、首を左右へとふる。

「……いえ、全く同じゲームの上に、新しい歴史と設定を載せる事で、その特性を利用してこの世界に始祖AIを再誕させようとしているのでしょう」

 そう言って、シュクレは空中のウィンドウを操作して私たちへと見えるようにして指し示す。

「こちらをご覧ください」

 そこには、今もフォートシュロフへ向かっているゴブリンの集団と戦っている前線の様子が……。

「あれ? ……人?」

 そこには、本来ゴブリンと戦っているはずのプレイヤーが人型のNPCと戦っている姿が映し出されていた。

「次はこっちです」

 次に映し出されたのは、今私たちがいるフォートシュロフの風景。だけど、普段NPCがいるはずの場所には、見るからに異形のモンスターが映し出され、そしてまるで普段通りに振る舞っていた。

「これは、どう言うことなんだ?」

「管理AIがより活発に活動するのは、どう言う場合ですか?」

 首を傾げるシマーズさんに、シュクレが疑問で返す。彼は顎をさすりながら視線を空へ向けた。

「モンスターが街を攻撃しない様にしたりするな」

「それです」

「は?」

 疑問を浮かべるシマーズさんを無視して、シュクレは自分の体をまじまじと見つめた。

「グラフィック上、私たちは人に見えています。そして、この街のNPCも元々はそうでした。ですが、今は違う」

 シュクレはそこで、大きく息を吸った。

「私たちは、グラフィック上は人間なだけで、システム的にはモンスター側の存在として設定されています」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

なんだこのギルドネカマしかいない! Ψギルドごと異世界に行ったら実は全員ネカマだったΨ

剣之あつおみ
ファンタジー
VR専用MMORPG〖ソーサラーマスターオンライン〗、略して〖SMO〗。 日本で制作された世界初の音声認識変換マイク付きフルフェイスマスク型インターフェイスを装着し、没入感溢れるVRMMOアクションが楽しめると話題を呼んだゲームである。 200名を超える人気声優を起用して、自分の声をAIで自動変換しボイスチャットが出来る画期的な機能を搭載。サービス開始当初、国内外問わず同時接続400万名以上を突破し社会現象にもなったゲーム。 このゲームをこよなく楽しんでいた女子高生「シノブ」はサービス終了日に一緒にプレイしていたギルドメンバーとゲームそっくりな異世界へと飛ばされる。 彼女の所属していたギルド〖深紅の薔薇〗はリアル女性限定と言う規約を掲げていた。 異世界に飛ばされた彼女は仲間達と再会するが、そこで衝撃の事実に直面する。 女性だと思っていたギルドメンバー達は実は全員男性だった。 リアルでの性別は男性、ゲーム内で自身をリアル女性を語るプレイスタイル・・・ 続に言う「ネカマ」だったのだ。 彼女と5人のネカマ達はゲームの知識を活かし、現実世界に戻る為に奮闘する物語である。

超ゲーム初心者の黒巫女召喚士〜動物嫌われ体質、VRにモフを求める〜

ネリムZ
SF
 パズルゲームしかやった事の無かった主人公は妹に誘われてフルダイブ型VRゲームをやる事になった。  理由としては、如何なる方法を持ちようとも触れる事の出来なかった動物達に触れられるからだ。  自分の体質で動物に触れる事を諦めていた主人公はVRの現実のような感覚に嬉しさを覚える。  1話読む必要無いかもです。  個性豊かな友達や家族達とVRの世界を堪能する物語〜〜なお、主人公は多重人格の模様〜〜

現実逃避のために逃げ込んだVRMMOの世界で、私はかわいいテイムモンスターたちに囲まれてゲームの世界を堪能する

にがりの少なかった豆腐
ファンタジー
この作品は 旧題:金運に恵まれたが人運に恵まれなかった俺は、現実逃避するためにフルダイブVRゲームの世界に逃げ込んだ の内容を一部変更し修正加筆したものになります。  宝くじにより大金を手に入れた主人公だったが、それを皮切りに周囲の人間関係が悪化し、色々あった結果、現実の生活に見切りを付け、溜まっていた鬱憤をVRゲームの世界で好き勝手やって晴らすことを決めた。  そして、課金したりかわいいテイムモンスターといちゃいちゃしたり、なんて事をしている内にダンジョンを手に入れたりする主人公の物語。  ※ 異世界転移や転生、ログアウト不可物の話ではありません ※  ※修正前から主人公の性別が変わっているので注意。  ※男主人公バージョンはカクヨムにあります

アルゲートオンライン~侍が参る異世界道中~

桐野 紡
SF
高校生の稜威高志(いづ・たかし)は、気づくとプレイしていたVRMMO、アルゲートオンラインに似た世界に飛ばされていた。彼が遊んでいたジョブ、侍の格好をして。異世界で生きることに決めた主人公が家族になったエルフ、ペットの狼、女剣士と冒険したり、現代知識による発明をしながら、異世界を放浪するお話です。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

自由にやっていくVRMMO

nanaさん
SF
これは最新VRMMOの Fantastic Frontierをプレイし始めたもうこの後の人生遊ぶび放題になった主人公こと 凛尊 有紗もといAlice のお話 *作者の自己満足で書いてます なので更新は不定期です 内容も誤字だらけだったり 色々と悲惨な内容になってたりします それでもよろしい方はどうぞ

後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~

夜桜てる
SF
世界初の五感完全没入型VRゲームハードであるFUTURO発売から早二年。 多くの人々の希望を受け、遂に発売された世界初のVRMMO『Never Dream Online』 一人の男子高校生である朝倉奈月は、後輩でありβ版参加勢である梨原実夜と共にNDOを始める。 主人公が後輩女子とイチャイチャしつつも、とにかくVRゲームを楽しみ尽くす!! 小説家になろうからの転載です。

チート級スキルを得たゲーマーのやりたいことだけするVRMMO!

しりうす。
ファンタジー
VRゲーム【Another world・Online】βテストをソロでクリアした主人公──────雲母八雲。 βテスト最後のボスを倒すと、謎のアイテム【スキルの素】を入手する。不思議に思いつつも、もうこのゲームの中に居る必要はないためアイテムの事を深く考えずにログアウトする。 そして、本サービス開始時刻と同時に【Another world・Online】にダイブし、そこで謎アイテム【スキルの素】が出てきてチート級スキルを10個作ることに。 そこで作ったチート級スキルを手に、【Another world・Online】の世界をやりたいことだけ謳歌する! ※ゆるーくやっていくので、戦闘シーンなどの描写には期待しないでください。 ※処女作ですので、誤字脱字、設定の矛盾などがあると思います。あったら是非教えてください! ※感想は出来るだけ返信します。わからない点、意味不明な点があったら教えてください。(アンチコメはスルーします)

処理中です...