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電脳暴君はまだまだ夢の中

防衛作戦

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 フォートシュロフの広間に仮設した司令室で、フォートシュロフ13騎士の面々と地図を見下ろす。

「それで、アニーちゃん。作戦はどうするんだ?」

 シマーズさんが楽しそうに聞いてくる。
 ちなみにもちろん、今は配信中らしい。

「敵軍の編成次第かなー」

 そう言ってヨイニへ視線を向ける。彼女は私の視線に頷くと、明後日の方向へ視線と指を伸ばす。

 多分、そこにチャットウィンドウがあるんだろう。

「大半が武装ゴブリンみたいだね。ゴブリンアーチャー、ゴブリンメイジ、ゴブリンライダーあたりが厄介かな?」

「うーん、それ……本当にゴブリンなのかな?」

「え?」

 私の言葉に、驚いた表情でヨイニが聞き返す。私はその慌てて手を左右へ振りながら訂正した。

「あいや、それは言葉のあやというか、多分、この辺りにいるゴブリンとはステータスが全然違うよねって」

「あー。まぁ、ゲーム的に考えればそうだよね」

 ゴブリンはこの手のゲームにおける定番の雑魚キャラで、この街の周辺にもちらほらいる。

 IAFはステータスの伸びが渋いゲームとは言え、流石に今更、雑魚キャラのイベントは無いだろう。

「シュクレは何かわからない?」

「ふぇ?」

 困った時の大先生、シュクレに声をかけてみる。彼女は意表を突かれたように変な声をこぼした。

「ほら、世界観的に云々カンヌンでウンタラカンタラだから敵の戦力はどうたら的な?」

「えっと、全くわからないです……」

 シュクレは歯切れ悪くそこまで言って、ハッとしたように目を見開いき、今度は首を左右へふった。

「お、分かった?」

「いいえ、分からないのは変わらないです。でもそれは、私が知らないと言うより……存在しない」

 シュクレは心ここにあらずと言った様子で、呟く様に言葉を返した。どうしよう、彼女の言ってることが理解できない。

「ああ」

 困った表情をヨイニへ向けると、彼女が納得の表情と共にシュクレの言葉を補完してくれる。

「純粋に何も知らない訳じゃなくて、この世界に存在しない情報である、という確信はあるってだよね」

「え、あっはい! そうです!」

 ヨイニの言葉にシュクレが目をキラキラさせながらコクコクと頷いた。つまり、世界観や設定に基づいた敵というより、それこそこの瞬間、無理やり誕生させられたモンスターってことか。

「まーイベント用にパッと作ったのかもな」

 そこまでの話を聞いて、シマーズさんが顎に手を当てながら結論を口にする。視聴者へ向けての意味もあるんだろう。

「剛輪禍の武器は持ち込めないのか?」

 前回イベントで、私たちは初めて反対側のサーバーのプレイヤーと対面した。私たち側がシュクレの詠唱革命によって剣と魔法の世界として発展したのとは別に、彼らは魔法の銃を開発していた。

「むーりー。反対側スタートのプレイヤーは反対側の防衛に忙しいだろうし、フォートシュロフ側のプレイヤーが使うにはスキルツリーが違いすぎる」

「あのSF兵器は?」

 前回イベントで、急激に文明レベルが進んだ際に開発した強化外骨格、ティラノフライトとティタノスのことだろう。

「あれ、ゲームでサポートされてるアイテムじゃ無いから普通にあの巨体を運ぶしか無いんだよね」

「あぁ……」

 私の言葉に、ヨイニが額を手で押さえて天を仰ぐ。稼働時間も30分ぐらいだし、到底ここまで持って来られない。

「よーし、整った!」

「マジで!?」

 私の言葉に、ヨイニが驚いた声を上げる。

「うん、とりあえず、敵の兵力は分からないから諦める。だから防衛戦力を二手に分けよう」

 私はそう言って、腕組みをした片腕を軽く外して人差し指を伸ばす。

「敵陣とフォートシュロフの中間地点に防衛拠点仮設して、一当てしてみる。そこで実際に戦ってみて戦力を判断しよう」

 次に、中指を伸ばす。

「フォートシュロフは元々城砦な訳だし、2陣はこれをなるべく補強、利用して1陣の情報を元に対応する」

 シマーズさんが手を上げる。

「1陣のプレイヤーはやられたらどうするんだ?」

「間に合うならフォートシュロフにリスポーン、無理そうならそのまま幻夢境街に行ってもらう」

「なるほど」

 私の回答に、シマーズさんが納得したようにうなずく。名付けて、行き当たりばったり作戦だ。

「一陣の指揮はヨイニに任せて良い?」

「ああ、良いけどシュクレ教を何人か貸してくれないか?」

 拠点作成において、スキルの制約に縛られず魔法が行使できるシュクレ教は大変役にたつ。

「おっけー。こっちでも使うから半分でいーい?」
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