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電脳暴君はまだまだ夢の中

暴君と賢君

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 AIが答えて、視界が暗くなる。次の瞬間には、懐かしいフォートシュロフの街並みが眼前に広がっていた。

 古代ヨーロッパの城砦都市を思わせる巨大な石壁が街全体を囲み、高い塔や広場、そして石畳の道が錯綜さくそうしている。

「アニー!」

 その声が響くと同時に、私は振り返った。

 視線に飛び込んできたのは、鎧を身に纏った壮大そうだいな姿。重厚なカイトシールドを左手に、背中には長い槍を背負っている。

「ヨイニ」

 呼びかけると、私の前まで歩み寄ったヨイニは暖かい視線を私へ向けて口を開いた。

「連絡が取れて良かった」

 ヨイニはそう言って、ほっとした様に表情をほころばせた。中世的な顔立ちの彼女の周囲がそれだけでキラキラした気がする。

 そういう課金アイテムあったっけ?

「やっぱりヨイニ的にはフォートシュロフは守りたい感じ?」

「まぁ、クラン名的になるべくそうしたいとは思ってるけど、単独で動いても難しそうだしそこは要相談かな」

 ヨイニがマスターを務めるクランの名前は'フォートシュロフ神聖騎士団'だ。私より思い入れは強いだろう。

「じゃあ今回はその相談?」

 私の質問に、ヨイニが首を左右へ振る。

「いいや、呼び出し」

「え、誰から?」

「フォートシュロフの賢君、フォートシュロフ・ザルボア国王」

「お、おぉ!」

 ヨイニの言葉に、大袈裟おおげさに驚いてみる。その様子を見て、ヨイニがいぶかしげな視線を送る。

「……どんな人か知ってる?」

「いや全然?」

 ヨイニの質問に、私は即座に答えて首を傾げる。その様子を見て、彼女は力が抜けた様に膝をガクッとした。

「ま、アニーはそうだよね」

「NPCとか割とどうでも良いし」

 ま、仮に興味があったとしても私はカオスシェイプだからそもそも関わりようが無いんだけどね!

 どうだまいったか!

「それで、どうする?」

「面白そうだしとりあえず行こうかな?」

「わかった、他の皆はもう集まってるから一緒に行こう」

 ヨイニはそう言って、私の手を取って歩き出した。

「え、あっちょ……」

 突然のスキンシップに、少し胸がドキリとする。ヨイニは気づく素振りもなく、ズンズンと街中を進んで行った。








 王城の前に広がる広場は、朝の光に照らされて金色に輝いていた。壮大な城門の扉は、彫刻された獅子が守り神のようにそびえ立ち私たちを威圧するように見下ろしている。

「よう、アニーちゃん! ヨイニ!」

 城門の前に、10人のプレイヤーが立っている。そのうちの1人、真っ白な武者鎧のプレイヤーが声をかけてくる。

「シマーズさん、おひさー」

 私はそれに、軽く手を振って答える。シマーズさん、動画系のSNSでそこそこ有名な実況者だ。

「あ、シュクレも!」

 一団に視線を向けると、そこにはシュクレの姿を見つける。彼女も呼ばれていたということだろう。というか、それならさっきのメッセージで教えてくれても良かった気がするんだけど……。

「おはようございます、アニーさん」

 シュクレは私の声にニコリと笑って答える。その表情で、彼女の少しのイタズラと、気遣きづかいを察する。

「というかこのメンバーって……」

 他の9人にも、見覚えがある。私が周囲を見渡していると、シマーズさんが代わりに答えを出した。

「久々のフォートシュロフ13騎士、フルメンバーだな」

 別に、そういう組織があるわけじゃ無いけど。初回イベントでフォートシュロフが陥落しそうになった時、ボスへ特攻した13人のプレイヤーが自然とそう呼ばれる様になった。

 フォートシュロフの王様がこのメンバーを呼ぶって事は、言いたい事はもう大体わかる。

「あーじゃあやっぱり、フォートシュロフを守ってくれって話なのかな?」

「まぁ、そうだろうな」

 私の言葉に、シマーズさんが頷く。

「皆はどうするつもりなの?」

「まぁ、守れるなら守りたいが、利便性を考えれば幻夢境街の方が優先順位は高いな。まぁそこの決断はアニーちゃんに任せるよ」

 シマーズさんの言葉に、皆がうんうんと頷く。

「え、私?」

「この手の話はアニーちゃんが得意だろ? 初回イベントの作戦もアニーちゃんが考えた訳だし」

 不意に任された大任に、少し戸惑う。だけどその信頼が心地よくて、嬉しくも感じた。

 誰かが私に期待してくれるなら、その期待にはなるべく答えたいじゃん?

「……そっか、じゃあ頑張ってみるよ」

 そして、私たちは案内されるままに城門をくぐる。
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