上 下
94 / 139
剛輪禍工業革命-2:工業地帯奪還

余計な話をせずに粛々とモンスターを狩るタイプの筋肉ゴリラ

しおりを挟む
 メカエイプの包囲網を何とか潜り抜け、出発地点の港まで何とか帰ってきた。アニーちゃん特性、HP回復アイテム"激甘ラッシージュース"の効果でHPも全開だ。言うほどラッシー味じゃ無いけど。

「ゴングマンさん! あいつら追ってきてますよ!」

 メンバーの誰かが叫ぶ。

「まぁそりゃそうだよなぁ!」

 このゲームにセーフゾーンは存在しない。逃げて開始地点の戻ってもモンスターの配置がリセットされる訳はなかった。

「どうするんですか?」

「いや、包囲されていないなら普通に何とかなるだろ」

 元々、スタート地点にメカエイプは一匹も居なかった。包囲されている状態から追われる様にスタート地点へ帰ってきたなら、必然的にメカエイプの群れは一方方向から来ることになる。

「後はいつも通りだ! 丁寧にな!」

 そう叫びながら、構えを取る。

 モーションを覚える、隙を探す。行動パターンを把握して、先回りしていく。1つ1つ、有利な要素を積み上げていく。

「ウッキャァアア!」

 数分後には、縦横無尽じゅうおうむじんに薙刀と九環刀を振り回すメカエイプの一匹を叩き潰した。

「よぉし!」

 まだ緊張を解くわけにはいかない。さっと周囲を確認する。ブルーバロンの面々はまだ他のメカエイプと戦っていた。

 一緒に来ていたシュクレ教の人たちはその後方からチビチビと魔法を撃って援護しくれている。1体1で戦っている所は放置で、乱戦状態になっている場所からメカエイプを2体引き離す。






「ゴングマンさんは、どうしてメメントモリに入ったんですか?」

 追ってきたメカエイプを全員返り討ちにして一息ついた頃、ブルーバロンの1人が話しかけてきた。

「あの演説は知っているか?」

「演説?」

 あの日の事を思い出す様に空を見上げる。空には黒く分厚い雲が重くのしかかっていた。

 脳裏には、あの日の彼女の言葉が蘇る。彼女は自分自身をさらけ出し、傍若無人ぼうじゃくぶじんに好き放題やると宣言した。その上で、俺たちにも好きにやろうと言った。

「アニーちゃんはさ、頭おかしいんだよ」

「え、あっはい」

 ブルーバロンの男が"何を今更、当然のことを?"といった表情で首を傾げる。まぁ、その通りだけど、ちょっと笑ってしまう。

「俺は割と力の意味とか使い方とか、色々考えちゃうんだけどさ、アニーちゃんにはそう言うの、何にも無いんだ。ただただ、好きなことを、好きなように、好きなだけやる……力の塊り」

 アニーちゃんは俺と同じ、風間流の技を扱う人間だ。面と向かって戦ったのは1回だけだけど、見ているだけでも伝わってくる物がある。

 彼女が心に抱えている閉塞感や、息苦しさ。誰にも理解されず、本質的には一生、満たされる事の無い欲求。それが先天性の物なのか後天性の物なのかは分からない。

 アニーちゃんはこの世界で最も自由に見えるが、実は最も不自由な存在かもしれない。

「それはちょっとわかります。今の社会は平和で、それはきっと良いこと何ですけど……」

 ブルーバロンの男は言葉を探す用に一度目を伏せ、言葉を区切ってから再び話し始めた。

「ルールに縛られすぎて、見えない壁を感じます。アニーちゃんはその自分の中にある壁をぶっ壊してくれる気がするんです」

「そうだな、その気持ちは俺にも分かるよ。俺は、見てみたくなったんだ」

「アニーちゃんの活躍を?」

「いや、言葉にするのが難しいんだが……闘技場でアニーちゃんと戦って負けて、あの演説を聞いた日、アニーちゃんの持つ力と可能性の行き着く先が見てみたくなった、かな?」

 俺の返事にブルーバロンの男がちょっと笑う。

「ロマンチストですね」

「うるせぇ!」

 俺は男の肩をちょっと照れながら軽くこづいた。

「でもアニーちゃん、最近ちょっと変わってきましたよね」

 俺は目を細めながら尋ねた。

「お、分かるか?」

 俺の強さは、積み上げていく強さだ。

 対して……アニーちゃんの強さは、削っていく強さ。自分自身から勝利に不要な物を剥がしていき、より自分を捨てた方が勝つと言う世界観でいる。これまで、誰にも理解されずに、孤独の中で培われた強さだ。

「今までは付いて来たいなら勝手に付いてくれば? って感じで俺達がどうなっても視界にすら入ってないって感じでしたけど、最近は一応、こっちも気にかけてくれているって言うか」

 その変化は、ある意味でアニーちゃんの強さを捨てる変化なのだろう。だけど、悪い変化では無い気がした。

 戦いを見ていても、今までは好き放題やっているだけだった彼女の中に、何か意味が生まれ始めている気がする。

 俺はブルーバロンの男の言葉に頷いて、ニヤリと笑った。

「見ていてワクワクしないか? あれだけの力が、これからどこへ向かって、何を引き起こすのか」

「俺には見守る事しかできないですけど、俺はアニーちゃんにはずっと楽しそうにこのゲームを遊んでいて欲しいです」

「それは俺だって同じだよ。ま、お互いにできる範囲で支えてやろうじゃ無いか」

 そう言って、俺はブルーバロンの男へ向かって軽く拳を伸ばした。彼はそれをみて笑みを浮かべて、お互いの拳をぶつける。

「よーし! ダンジョンの攻略を再開するぞー!」

「おー!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

なんだこのギルドネカマしかいない! Ψギルドごと異世界に行ったら実は全員ネカマだったΨ

剣之あつおみ
ファンタジー
VR専用MMORPG〖ソーサラーマスターオンライン〗、略して〖SMO〗。 日本で制作された世界初の音声認識変換マイク付きフルフェイスマスク型インターフェイスを装着し、没入感溢れるVRMMOアクションが楽しめると話題を呼んだゲームである。 200名を超える人気声優を起用して、自分の声をAIで自動変換しボイスチャットが出来る画期的な機能を搭載。サービス開始当初、国内外問わず同時接続400万名以上を突破し社会現象にもなったゲーム。 このゲームをこよなく楽しんでいた女子高生「シノブ」はサービス終了日に一緒にプレイしていたギルドメンバーとゲームそっくりな異世界へと飛ばされる。 彼女の所属していたギルド〖深紅の薔薇〗はリアル女性限定と言う規約を掲げていた。 異世界に飛ばされた彼女は仲間達と再会するが、そこで衝撃の事実に直面する。 女性だと思っていたギルドメンバー達は実は全員男性だった。 リアルでの性別は男性、ゲーム内で自身をリアル女性を語るプレイスタイル・・・ 続に言う「ネカマ」だったのだ。 彼女と5人のネカマ達はゲームの知識を活かし、現実世界に戻る為に奮闘する物語である。

現実逃避のために逃げ込んだVRMMOの世界で、私はかわいいテイムモンスターたちに囲まれてゲームの世界を堪能する

にがりの少なかった豆腐
ファンタジー
この作品は 旧題:金運に恵まれたが人運に恵まれなかった俺は、現実逃避するためにフルダイブVRゲームの世界に逃げ込んだ の内容を一部変更し修正加筆したものになります。  宝くじにより大金を手に入れた主人公だったが、それを皮切りに周囲の人間関係が悪化し、色々あった結果、現実の生活に見切りを付け、溜まっていた鬱憤をVRゲームの世界で好き勝手やって晴らすことを決めた。  そして、課金したりかわいいテイムモンスターといちゃいちゃしたり、なんて事をしている内にダンジョンを手に入れたりする主人公の物語。  ※ 異世界転移や転生、ログアウト不可物の話ではありません ※  ※修正前から主人公の性別が変わっているので注意。  ※男主人公バージョンはカクヨムにあります

ゲーミング自殺、16連射アルマゲドン

LW
ファンタジー
ゲーム感覚で世界を滅ぼして回ろう! 最強ゲーマー女子高生による終末系百合ライトノベル。 「今すぐ自殺しなければ! 何でも構わない。今ここで私が最速で死ぬ方法はどれだ?」 自殺癖持ちのプロゲーマー、空水彼方には信条がある。 それは決着したゲームを最速で完全に清算すること。クリアした世界を即滅ぼして即絶命する。 しかも現実とゲームの区別が付いてない戦闘民族系ゲーマーだ。私より強いやつに会いに行く、誰でも殺す、どこでも滅ぼす、いつでも死ぬ。 最強ゲーマー少女という災厄が異世界を巡る旅が始まる。 表紙イラスト:えすけー様(@sk_kun) 表紙ロゴ:コタツラボ様(@musical_0327) #ゲーマゲ

不遇職「罠師」は器用さMAXで無双する

ゆる弥
SF
後輩に勧められて買ってみたVRMMOゲーム、UnknownWorldOnline(通称UWO(ウォー))で通常では選ぶことができないレア職を狙って職業選択でランダムを選択する。 すると、不遇職とされる「罠師」になってしまう。 しかし、探索中足を滑らせて落ちた谷底で宝を発見する。 その宝は器用さをMAXにするバングルであった。 器用さに左右される罠作成を成功させまくってあらゆる罠を作り、モンスターを狩りまくって無双する。 やがて伝説のプレイヤーになる。

ツインクラス・オンライン

秋月愁
SF
兄、愁の書いた、VRMMO系の長編です。私、妹ルゼが編集してブレるとよくないなので、ほぼそのまま書き出します。兄は繊細なので、感想、ご指摘はお手柔らかにお願いします。30話程で終わる予定です。(許可は得ています)どうかよろしくお願いします。

ネオ・アース・テラフォーミング〜MRMMOで釣り好きドワーフの生産奮闘記〜

コアラ太
SF
世界会議で、MR(複合現実)技術を使って、人間が住める惑星を開発する企画が立つ。それに歓喜した頭のおかしい研究・開発者達がこぞって参加し、『Neo Earth Terraforming』という1つのゲームを作り上げた。空気や土壌を最適化する機体を送り込み、ファンタジー世界を投影したRPGをプレイすることにより、自動で浄化してくれる。 世界が待望したゲームを釣り好き男がプレイする。「新種の魚がいると聞いて。」 【火木土】更新。たまに日曜日に追加更新します。 『カクヨム』にも重複投稿しています。

【完結済み】VRゲームで遊んでいたら、謎の微笑み冒険者に捕獲されましたがイロイロおかしいです。<長編>

BBやっこ
SF
会社に、VRゲーム休があってゲームをしていた私。 自身の店でエンチャント付き魔道具の売れ行きもなかなか好調で。なかなか充実しているゲームライフ。 招待イベで魔術士として、冒険者の仕事を受けていた。『ミッションは王族を守れ』 同僚も招待され、大規模なイベントとなっていた。ランダムで配置された場所で敵を倒すお仕事だったのだが? 電脳神、カプセル。精神を異世界へ送るって映画の話ですか?!

沢山寝たい少女のVRMMORPG〜武器と防具は枕とパジャマ?!〜

雪雪ノ雪
ファンタジー
世界初のフルダイブ型のVRゲーム『Second World Online』通称SWO。 剣と魔法の世界で冒険をするVRMMORPGだ。 このゲームの1番の特徴は『ゲーム内での3時間は現実世界の1時間である』というもの。 これを知った少女、明日香 睡月(あすか すいげつ)は 「このゲームをやれば沢山寝れる!!」 と言いこのゲームを始める。 ゲームを始めてすぐ、ある問題点に気づく。 「お金がないと、宿に泊まれない!!ベットで寝れない!!....敷布団でもいいけど」 何とかお金を稼ぐ方法を考えた明日香がとった行動は 「そうだ!!寝ながら戦えばお金も経験値も入って一石三鳥!!」 武器は枕で防具はパジャマ!!少女のVRMMORPGの旅が今始まる!! ..........寝ながら。

処理中です...