上 下
79 / 139
剛輪禍工業革命-1:機関車チェイス

モンスターを撃退するタイプのJK

しおりを挟む
「アトラクトボール!」

 天狗へ向かって照準を合わせる様に右腕を構えて、スキル名を唱える。発声に合わせてスキルが発動した。手の平に小さなスパークを放つ黄色い光球が生成され、天狗が移動する未来の位置へ放たれる。

「ギュエ!」

 光球が天狗に命中すると、体を痙攣させながら私の方へ引っ張られる様に吹き飛ばされてくる。

「キヒヒッ! パイルバンカー!」

 "アトラクトボール"はダメージが無い代わりに、命中した相手をスタンさせて私の方へ引き寄せるスキルだ。

 引き寄せられている天狗へタイミングを合わせて右ストレートを叩き込む。同時に放たれたパイルが彼の頭を叩き潰した。彼はそのまま錐揉み回転をしながら吹き飛ばされ、地面へ激突して糸の切れた人形の様に転がっていく。

「これで最後かな?」

 周囲を見渡すけど、すでに鉄虎や天狗の姿は見受けられない。

「そうみたいですね」

 私の言葉に、シュクレが座ってラースージー弁当を食べながら答えた。今日もシュクレ砲は大活躍だ。

 彼女の編み出した"魔法スキルを取らずに人力で詠唱を唱える事で魔法を発動させる"技術を前提にしたビルドは幻夢境街の魔法使いプレイヤー達にコペルニクス的回転をもたらした。

 その新ビルド体系のパイオニアにして、第一人者である彼女の魔法は大規模な戦闘において比類なき戦力になる。

「他のクランはだいぶ離れちゃいましたね」

 シュクレが目を細める。元々は頑張れば声が届く距離に居た他の蒸気機関車が今は遥か遠く、後方に見えた。

「あれ、距離もそうだけど……なんか速度に差が出てない?」

「イベント情報が更新されていますね。どうやら蒸気機関車の残り耐久値が速度と連動するみたいです」

 シュクレちゃんが半透明なウィンドウを表示して、イベント情報を確認しながら答える。

「そっかー、このまま断続的にモンスターが襲ってくる感じなのかな?」

 移動している蒸気機関車を守りながら戦うって言うのも面白かったけど、同じパターンが続くと流石に飽きてきちゃうな。

 そう思った矢先だった。バコン! と音と共に地面が僅かに揺れるのを感じる。音の方を見ると、湖の中からトンネルが現れる。

「……どうやら、違うみたいですね」

 シュクレが弁当箱をアイテムボックスへしまって答えた。トンネルからは勢いよく別の蒸気機関車が現れる。水面に隠れてよく見えなかったけど、ちゃんと線路もあった。

「状況からみて、実夢境街じつむきょうがいのクランだよね?」

「はい、メメントモリ横に来るって事は、おそらく向こうでも最高ランクのクランです」

 今回はクラン対抗戦であると同時に、幻夢境街と実夢境街のプレイヤー同士の対抗戦でもある。前回イベントの様子から鑑みるに、大規模クランには大規模クランをぶつけてくるだろう。

「シュ」

「*****************!」

「クレ!」

 早い! 私が言い終わるより先に、シュクレが詠唱を始める。いつの間にか立ち上がっていた彼女足元には幾何学的な魔法陣が浮かび上がり、淡い光を放っていた。

 事実上、彼女の専用スキルとなっている"詠唱加速スペル・アクセラレーション"のスキルだ。

「――せよ!」

 シュクレが杖から煮えたぎるマグマの様な球体が放たれる。それは放物線描いて敵対クランの機関車へと飛んでいく。

「あっ」

 シュクレが小さな声を漏らした。

 彼女の放った球体が目標を逸れ、大きく後方へと流れていく。私たちは高速で動く機関車の上に立っている。この状態で何かを放っても撃ち放った瞬間に機関車から置いて行かれてしまう。

「うーん、これは当てにくいね」

 シュクレの放った光球が遥か後方で炸裂する。地響きと共に、天を貫く様な火柱が上がった。その一部は相手の機関車へ擦る様に命中したけれど、ほとんど意味を無していない。

*「アニーちゃん! お返しが来るぞ!」*

 クランチャットが点滅し、再び赤い文字が表示される。今度はゴングマンさんからのメッセージだ。

「へ、何あれ……?」

 敵対クランの機関車の上に、魔法使いと思われるプレイヤーが杖を構えて整列する。そこまでは別に普通なんだけど、なんだか杖の構え方が独特だ。杖を肩で抱える様に、地面へ対して水平に持っている。

「あれじゃまるで、ライフルでも構えてるみたいな……」

 口に出した瞬間……閃光の様に思考が駆け巡り、その可能性を脳が評価する。結果は、だ。

*「しゃがめぇぇえええ!!!」*

 クランチャットで叫びながら、私は機関車の反対側へ飛び降りる。ズババババン! 直後、独特の破裂音と共に車体が大きく揺れた。

*「は? 何、何が起きたんだ?」*

*「おい、何人か落ちて行ったぞ!」*

*「減速してる!」*

 クランチャットは大混乱だ。

「アニーさん、何が起きたんですか?」

 幸運な事に、メメントモリの主砲であるシュクレは被害から免れたらしい。動揺する彼女とクランメンバーへ向けて私は結論を伝える。

*「銃撃じゅうげきされた! あのクラン、このゲームでライフルを開発してる!」*

*「おい、マジかよ……!」*

*「世界観ぶっ壊れるじゃねーか!」*

*「暴君! どうするんだ?」*

 クランメンバーに動揺が走り、皆が次の指示を求める。私は機関車の反対側にヤモリの様にへばり付きながら音声認識でチャットを返す。

*「わからーん! ちょっと考えるからそれまで各自でなんとかしてー!」*

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

なんだこのギルドネカマしかいない! Ψギルドごと異世界に行ったら実は全員ネカマだったΨ

剣之あつおみ
ファンタジー
VR専用MMORPG〖ソーサラーマスターオンライン〗、略して〖SMO〗。 日本で制作された世界初の音声認識変換マイク付きフルフェイスマスク型インターフェイスを装着し、没入感溢れるVRMMOアクションが楽しめると話題を呼んだゲームである。 200名を超える人気声優を起用して、自分の声をAIで自動変換しボイスチャットが出来る画期的な機能を搭載。サービス開始当初、国内外問わず同時接続400万名以上を突破し社会現象にもなったゲーム。 このゲームをこよなく楽しんでいた女子高生「シノブ」はサービス終了日に一緒にプレイしていたギルドメンバーとゲームそっくりな異世界へと飛ばされる。 彼女の所属していたギルド〖深紅の薔薇〗はリアル女性限定と言う規約を掲げていた。 異世界に飛ばされた彼女は仲間達と再会するが、そこで衝撃の事実に直面する。 女性だと思っていたギルドメンバー達は実は全員男性だった。 リアルでの性別は男性、ゲーム内で自身をリアル女性を語るプレイスタイル・・・ 続に言う「ネカマ」だったのだ。 彼女と5人のネカマ達はゲームの知識を活かし、現実世界に戻る為に奮闘する物語である。

現実逃避のために逃げ込んだVRMMOの世界で、私はかわいいテイムモンスターたちに囲まれてゲームの世界を堪能する

にがりの少なかった豆腐
ファンタジー
この作品は 旧題:金運に恵まれたが人運に恵まれなかった俺は、現実逃避するためにフルダイブVRゲームの世界に逃げ込んだ の内容を一部変更し修正加筆したものになります。  宝くじにより大金を手に入れた主人公だったが、それを皮切りに周囲の人間関係が悪化し、色々あった結果、現実の生活に見切りを付け、溜まっていた鬱憤をVRゲームの世界で好き勝手やって晴らすことを決めた。  そして、課金したりかわいいテイムモンスターといちゃいちゃしたり、なんて事をしている内にダンジョンを手に入れたりする主人公の物語。  ※ 異世界転移や転生、ログアウト不可物の話ではありません ※  ※修正前から主人公の性別が変わっているので注意。  ※男主人公バージョンはカクヨムにあります

ゲーミング自殺、16連射アルマゲドン

LW
ファンタジー
ゲーム感覚で世界を滅ぼして回ろう! 最強ゲーマー女子高生による終末系百合ライトノベル。 「今すぐ自殺しなければ! 何でも構わない。今ここで私が最速で死ぬ方法はどれだ?」 自殺癖持ちのプロゲーマー、空水彼方には信条がある。 それは決着したゲームを最速で完全に清算すること。クリアした世界を即滅ぼして即絶命する。 しかも現実とゲームの区別が付いてない戦闘民族系ゲーマーだ。私より強いやつに会いに行く、誰でも殺す、どこでも滅ぼす、いつでも死ぬ。 最強ゲーマー少女という災厄が異世界を巡る旅が始まる。 表紙イラスト:えすけー様(@sk_kun) 表紙ロゴ:コタツラボ様(@musical_0327) #ゲーマゲ

不遇職「罠師」は器用さMAXで無双する

ゆる弥
SF
後輩に勧められて買ってみたVRMMOゲーム、UnknownWorldOnline(通称UWO(ウォー))で通常では選ぶことができないレア職を狙って職業選択でランダムを選択する。 すると、不遇職とされる「罠師」になってしまう。 しかし、探索中足を滑らせて落ちた谷底で宝を発見する。 その宝は器用さをMAXにするバングルであった。 器用さに左右される罠作成を成功させまくってあらゆる罠を作り、モンスターを狩りまくって無双する。 やがて伝説のプレイヤーになる。

ツインクラス・オンライン

秋月愁
SF
兄、愁の書いた、VRMMO系の長編です。私、妹ルゼが編集してブレるとよくないなので、ほぼそのまま書き出します。兄は繊細なので、感想、ご指摘はお手柔らかにお願いします。30話程で終わる予定です。(許可は得ています)どうかよろしくお願いします。

ネオ・アース・テラフォーミング〜MRMMOで釣り好きドワーフの生産奮闘記〜

コアラ太
SF
世界会議で、MR(複合現実)技術を使って、人間が住める惑星を開発する企画が立つ。それに歓喜した頭のおかしい研究・開発者達がこぞって参加し、『Neo Earth Terraforming』という1つのゲームを作り上げた。空気や土壌を最適化する機体を送り込み、ファンタジー世界を投影したRPGをプレイすることにより、自動で浄化してくれる。 世界が待望したゲームを釣り好き男がプレイする。「新種の魚がいると聞いて。」 【火木土】更新。たまに日曜日に追加更新します。 『カクヨム』にも重複投稿しています。

【完結済み】VRゲームで遊んでいたら、謎の微笑み冒険者に捕獲されましたがイロイロおかしいです。<長編>

BBやっこ
SF
会社に、VRゲーム休があってゲームをしていた私。 自身の店でエンチャント付き魔道具の売れ行きもなかなか好調で。なかなか充実しているゲームライフ。 招待イベで魔術士として、冒険者の仕事を受けていた。『ミッションは王族を守れ』 同僚も招待され、大規模なイベントとなっていた。ランダムで配置された場所で敵を倒すお仕事だったのだが? 電脳神、カプセル。精神を異世界へ送るって映画の話ですか?!

沢山寝たい少女のVRMMORPG〜武器と防具は枕とパジャマ?!〜

雪雪ノ雪
ファンタジー
世界初のフルダイブ型のVRゲーム『Second World Online』通称SWO。 剣と魔法の世界で冒険をするVRMMORPGだ。 このゲームの1番の特徴は『ゲーム内での3時間は現実世界の1時間である』というもの。 これを知った少女、明日香 睡月(あすか すいげつ)は 「このゲームをやれば沢山寝れる!!」 と言いこのゲームを始める。 ゲームを始めてすぐ、ある問題点に気づく。 「お金がないと、宿に泊まれない!!ベットで寝れない!!....敷布団でもいいけど」 何とかお金を稼ぐ方法を考えた明日香がとった行動は 「そうだ!!寝ながら戦えばお金も経験値も入って一石三鳥!!」 武器は枕で防具はパジャマ!!少女のVRMMORPGの旅が今始まる!! ..........寝ながら。

処理中です...