上 下
2 / 139
フォートシュウロフ防衛戦

高校で再会するタイプのJK

しおりを挟む
 桜の花びらのい落ちる光景が広がる校庭。その美しい光景には全く興味を示さず、生徒たちのはしゃぎ声を背に、私は無表情で校舎へと足を進める。

「はぁ……」

 なぜだろう。理由ははっきりとは分からない。だけど、心の中で何かが足りないと言う感情が鳴り止まない。

 そんな感情を抱えたまま、私は今日から高校生になった。大多数の人が期待と不安に胸を躍らせるこの日に、私の心はすこぶるブルーだ。

「皆さん初めまして、風間奏音かざまかのんです。よろしくお願いします」

 死んだ魚の様な目をしながら初日のオリエンテーションを終えて、自己紹介という名の公開処刑をなんとか乗り越える。

「ねぇ……あの子ってもしかして"あの"風間かざま家の?」

 自分の席に着くと、同じクラスの女の子がコソコソと話す声が聞こえてくる。そうだよ、私がその風間家だよ……。

「風間家? 何それ?」

「えっ知らない? 日本の裏社会を牛耳ってるらしいよ?」

 私の家は悪の秘密組織か! まぁでも、私の家が世間からそう言う目で見られるのには理由がある。

「え、それってつまり、や……」

「あー違う違う! なんでも昔から政府の諜報機関ちょうほうきかんつかさどってる家系で、今でも政界に対して強い影響力があるとか、直系の子は幼少期から忍術を教え込まれるって噂だよ」

 ちな、私はいくら教えられても習得できなかったよ! 一族の面汚しだね! って言うか今を何世紀だと思ってるんだろうね?
 今時、忍術なんて生きていくのにありの触覚の先ほども役に立たないのにね! 負け惜しみじゃないよ!!

「つまり、何か裏があってわざわざこの学校に進学してきたってこと?」

「普通なら風間家の子供は私立名門校に行くからね、絶対、何かあるよ!」

 何も無いよ!
 
 私も中学までは兄弟と同じ様に名門校に通っていたんだけど……普通に成績が悪すぎて進学できなかった。結果、両親の判断で留年を避ける為に地元の公立高校に入ることとなる。つまりただの落ちこぼれだよ!





 

 あれから地獄の様な時間が過ぎ、ようやく待ちに待った下校時間。私は逃げる様に校舎を後にした。

「はぁ……」

 明日からこんな毎日が続くのかと考えると思わずため息が漏れちゃう。

「おい、奏音かのんか?」

 後ろから呼び止められて振り返る。同じ高校一年生らしきピカピカの制服を身にまとった短髪の男の子が私の方を見つめていた。
 線の細い優しそうな高身長イケメンだけど、まこと遺憾いかんながらまるで身に覚えがない。
 そもそも、中学まで私立に通っていた私に高校で名前を呼び合う様な知り合いはいない。
 面白がって、馬鹿にして気安く話しかけて来たんだろう。落ちぶれた奴、頭が悪い奴にはなにをしても良いとでも思っているんだろうか?

「はい、私が成績悪すぎて私立に落ちた風間奏音かざまかのんです」

「なっ……いや、ほら! 俺だよ俺!」

「誰? 新手のオレオレ詐欺さぎ?」

 あれって対面で成立するやつだっけ?

「本当に忘れちゃったのか……」

 そう言って彼は悲しそうな表情を浮かべる。

「ごめんね。私みたいな落ちこぼれに、貴方みたいにハンサムな知り合いは居ないの」

「ハンサム!? いや、そう言うんじゃなくて! ほら! 小学生の時一緒だった与那覇与一よなはよいちだよ!」

 私のヤケクソみたいな返事に、その男子高校生が驚きながら自分を指さして名乗った。

「えっ!」

 その名前には覚えがある。私が落ちこぼれる前、小学校の頃にとても仲が良かった男の子だ。
 改めて目の前の男の子を観察してみると、なんとなく……そこはかとなく、面影を感じる。

「あー……」

 高校に知り合いが居るのは嬉しいけど、今の私をあまり知られたくは無い。なんとも微妙な返事をしてしまう。

「取り敢えずさ、何処どこかで話さないか? お互いの事とか」

 与一君に連れられて、私達は近くの公園まで移動する。近くのベンチに2人で腰掛けた。

「ここ、覚えてるか?」

「うん。小学生の頃、ココで良く遊んだよね」

「奏音はありの巣にイタズラしてたよな。イタズラって言うかアレはもうジェノサイドって感じだったけど」

 与一君が懐かしそうに笑う。
 彼の視線が上へ伸びて公園の端を見つめる。そこには小学生だった頃の2人が映っている様な気がした。

「それは忘れて……」

 私は恥ずかしくなって視線を逸らした。

「それで、さっきの話はどういうこと? 何があったんだ?」

「えっと、概ねさっき言った通りなんだけど……その、成績がね?」

「……あの奏音が?」

「いや私、普通に小学生の頃から成績悪かったよ?」

 与一君は首を傾げる。
 私は虚空を見上げながら呟いた。

「私もね、頑張ったんだよ? でも、色々な期待とか、よく分からない感情で頭グチャグチャで……両親も、もう何も期待しないってさ」

 この結果に対する両親の腫れ物はれものを扱う様な態度は私の心をマリアナ海溝かいこうより深くえぐり、兄姉けいしからの侮蔑ぶべつの視線は私の心をサハラ砂漠の様な不毛の大地へと変化させた。

 高校での奇異きいの視線は心のサハラ砂漠に核弾頭かくだんとうの如く降り注ぎ、ガラス化現象によって不毛の土地を無駄に飾り立てている。

「奏音……一緒にゲームでもしてみないか?」

 お互いが話し終えて、与一君が言葉を選びながらしてくれた提案に、私は首を左右に振る。

「ダメだよ……私は勉強しなきゃ」

 ただでさえ高校受験に失敗したのに、この学校でも成績が悪かったら洒落にならない。

「無責任に聞こえるだろうけど、今の奏音は余裕が無さそうで……俺なら、そんな状態だったらとても勉強にならないよ」

 与一君の誘いは素直に嬉しい。
 
 本当に私のことを心配してくれているのが伝わってくるし、小学生の頃は彼と良くゲームをして遊んでいた。だけど、この状況でゲームをする事になんとなく罪悪感があって頷けずにいる。

「奏音にとっては不本意だろうけど、俺は奏音と同じ高校に行けて嬉しい。また、友達になりたいんだ。合わなければ辞めてくれて良いから、1回だけ、やって見ないか?」

 今は遊んでいる場合じゃない。
 でも――。

「……分かった、1回だけやって見る」

 気がつけば、こんな返事をしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

なんだこのギルドネカマしかいない! Ψギルドごと異世界に行ったら実は全員ネカマだったΨ

剣之あつおみ
ファンタジー
VR専用MMORPG〖ソーサラーマスターオンライン〗、略して〖SMO〗。 日本で制作された世界初の音声認識変換マイク付きフルフェイスマスク型インターフェイスを装着し、没入感溢れるVRMMOアクションが楽しめると話題を呼んだゲームである。 200名を超える人気声優を起用して、自分の声をAIで自動変換しボイスチャットが出来る画期的な機能を搭載。サービス開始当初、国内外問わず同時接続400万名以上を突破し社会現象にもなったゲーム。 このゲームをこよなく楽しんでいた女子高生「シノブ」はサービス終了日に一緒にプレイしていたギルドメンバーとゲームそっくりな異世界へと飛ばされる。 彼女の所属していたギルド〖深紅の薔薇〗はリアル女性限定と言う規約を掲げていた。 異世界に飛ばされた彼女は仲間達と再会するが、そこで衝撃の事実に直面する。 女性だと思っていたギルドメンバー達は実は全員男性だった。 リアルでの性別は男性、ゲーム内で自身をリアル女性を語るプレイスタイル・・・ 続に言う「ネカマ」だったのだ。 彼女と5人のネカマ達はゲームの知識を活かし、現実世界に戻る為に奮闘する物語である。

現実逃避のために逃げ込んだVRMMOの世界で、私はかわいいテイムモンスターたちに囲まれてゲームの世界を堪能する

にがりの少なかった豆腐
ファンタジー
この作品は 旧題:金運に恵まれたが人運に恵まれなかった俺は、現実逃避するためにフルダイブVRゲームの世界に逃げ込んだ の内容を一部変更し修正加筆したものになります。  宝くじにより大金を手に入れた主人公だったが、それを皮切りに周囲の人間関係が悪化し、色々あった結果、現実の生活に見切りを付け、溜まっていた鬱憤をVRゲームの世界で好き勝手やって晴らすことを決めた。  そして、課金したりかわいいテイムモンスターといちゃいちゃしたり、なんて事をしている内にダンジョンを手に入れたりする主人公の物語。  ※ 異世界転移や転生、ログアウト不可物の話ではありません ※  ※修正前から主人公の性別が変わっているので注意。  ※男主人公バージョンはカクヨムにあります

超ゲーム初心者の黒巫女召喚士〜動物嫌われ体質、VRにモフを求める〜

ネリムZ
SF
 パズルゲームしかやった事の無かった主人公は妹に誘われてフルダイブ型VRゲームをやる事になった。  理由としては、如何なる方法を持ちようとも触れる事の出来なかった動物達に触れられるからだ。  自分の体質で動物に触れる事を諦めていた主人公はVRの現実のような感覚に嬉しさを覚える。  1話読む必要無いかもです。  個性豊かな友達や家族達とVRの世界を堪能する物語〜〜なお、主人公は多重人格の模様〜〜

アルゲートオンライン~侍が参る異世界道中~

桐野 紡
SF
高校生の稜威高志(いづ・たかし)は、気づくとプレイしていたVRMMO、アルゲートオンラインに似た世界に飛ばされていた。彼が遊んでいたジョブ、侍の格好をして。異世界で生きることに決めた主人公が家族になったエルフ、ペットの狼、女剣士と冒険したり、現代知識による発明をしながら、異世界を放浪するお話です。

落ちこぼれ一兵卒が転生してから大活躍

きこうダきこう
ファンタジー
 王国騎士団の一兵卒だった主人公が魔王軍との戦闘中味方の誰かに殺され命を落とした後、神の使いより死ぬべき運命ではなかったと言い渡され、魂は死んだ時のままで再び同じ人生を歩んでいく事となった。  そのため幼少時代トロルによって家族を殺され、村を滅ぼされた出来事を阻止しようと思い、兄貴分的存在の人と父親に話し賢者と呼ばれる人やエルフ族らの助けを借りて襲撃を阻止した。  その後前世と同じく王国騎士団へ入団するための養成学校に入学するも、入学前に賢者の下で修行していた際に知った兄貴分的存在の人と幼馴染みに起こる死の運命を回避させようとしたり、前世で自分を殺したと思われる人物と遭遇したり、自身の運命の人と出会ったりして学校生活を堪能したのだった。  そして無事学校を卒業して騎士団に入団したが、その後も自身の運命を左右させる出来事に遭遇するもそれらを無事に乗り越え、再び魔王軍との決戦の場に赴いたのだった······。

40代(男)アバターで無双する少女

かのよ
SF
同年代の子達と放課後寄り道するよりも、VRMMOでおじさんになってるほうが幸せだ。オープンフィールドの狩りゲーで大剣使いをしているガルドこと佐野みずき。女子高生であることを完璧に隠しながら、親父どもが集まるギルドにいい感じに馴染んでいる…! ひたすらクエストをやりこみ、酒場で仲間と談笑しているおじさんの皮を被った17歳。しかし平穏だった非日常を、唐突なギルドのオフ会とログアウト不可能の文字が破壊する! 序盤はVRMMO+日常系、中盤から転移系の物語に移行していきます。 表紙は茶二三様から頂きました!ありがとうございます!! 校正を加え同人誌版を出しています! https://00kanoyooo.booth.pm/ こちらにて通販しています。 更新は定期日程で毎月4回行います(2・9・17・23日です) 小説家になろうにも「40代(男)アバターで無双するJK」という名前で投稿しています。 この作品はフィクションです。作中における犯罪行為を真似すると犯罪になります。それらを認可・奨励するものではありません。

後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~

夜桜てる
SF
世界初の五感完全没入型VRゲームハードであるFUTURO発売から早二年。 多くの人々の希望を受け、遂に発売された世界初のVRMMO『Never Dream Online』 一人の男子高校生である朝倉奈月は、後輩でありβ版参加勢である梨原実夜と共にNDOを始める。 主人公が後輩女子とイチャイチャしつつも、とにかくVRゲームを楽しみ尽くす!! 小説家になろうからの転載です。

VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

処理中です...