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37.魚は龍になれるんだったか
しおりを挟む「……あった」
登れそうな箇所にアタリをつけて近寄ると、案の定、タルン村の民が使っていたのであろう登り縄の跡を発見する。
普通の街ちかくのダンジョンや森では、採取ポイントなどの穴場は隠すことが多い。
しかしここは街から離れており、かつ隣国からも高い標高の山を越えねばたどり着けない場所にあるからだろう。滝の裏の足場から察するに、タルン村の民しか訪れなかったゆえに、こうした人の跡が残っているに違いない。
ただ、しばらく放置されていたこともあり劣化が見られた。この縄だけを過信して登るのは少々おっかないものがある。
取り出した縄を体に結び、登り縄をつかむ。一、二歩登ったところで、石にも打ち込める魔術のかかった杭を手に、全身に力を込めた。
熱を帯び始めるアミュレット。
それに呼応するように、左手の杭の魔法陣が淡く光りはじめた。
ティアナのギルドで売られていた土の精霊の文様が描かれたそれは、持ち主の魔力を吸って発動する。
「こういう時、魔法がつかえりゃ一発なんだが」
まあ、こうして使いどころが稀にでもあるからある程度魔力があって良かったとも言えるけれども。
ガイン! と派手な音を立てて杭を打ちこむ。
タルン村の縄を傷つけないように、そして滝の氷をなるだけ崩さないようにしながら。
岩に突き立てた杭は深く刺さり、中で返しが開かれる仕組みになっている。
また魔力を通せば返しがなくなり、するりと抜ける便利なヤツだ。遠征のある旅ではよく助けられた。
仕上げにナタの背で数回打ち付けてから、体に巻いた縄の留め具を杭の輪に通した。
もしも、魔法が使えたなら。
このくらいの高低差は風の浮遊魔法や土魔法で難なく登れるのだろう。
崖をよじ登りながら、親戚関係にあった従兄弟の稽古の風景が脳裏によみがえる。
従兄弟は魔法に長けていて、実に見事な剣舞を披露していた。
まあ、純粋な戦闘剣術だけなら一本とった事もあったが。
アイツは教会の騎士団の中でも群を抜いていて、よく比較されたことを覚えている。
神聖魔法を剣にのせるルミナリス家と、これまた教会付属で結界・防護魔法に長けていた実母の家系。
両親のおかげで魔力だけは人より多く持ち合わせて生まれたものの、残念なことにアタシは神聖魔法も、防護魔法どころか通常の生活魔法さえ発動できなかった。
義母と子は成せなかったのだろうか。
母が亡くなる直前に従兄弟を養子に迎え、家督を譲ると宣言した父に、どこぞで野垂れ死ぬことを望まれることになったあの頃は絶望感に苛まれたけれど。
傭兵業のなかで魔道具を知り、何とかやれるようになってからは結果的に自由を得られて良かったかな。と、ようやく思えるようになった。
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あまりに悲観していた自分が馬鹿みたいに思える程度は、すでに時間が癒してくれている。
「魔道具様々ってね。さあて、いきますか」
順調に崖を登り、もうすぐ頂上だ。
全身の力が要るから骨が折れるが、採取の時間も短い分モタモタしてられない。
それからしばらくして、氷草の葉の音を背に受けながら、アタシは滝を登りきった。
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