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34.アイテムボックス

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 まるで、蛇が獲物を飲み込むようだ。

 するすると本を取り込んでいく小さな巾着を見つめながら、そんなことを思う。
 どこで得た既視感なのだろうと常々考えていたが、この短い時間にこれだけたくさんのものを仕舞う機会もなかったため、今の今まで気が付かなかった。猪だか鹿だか、そういった獲物を二、三頭同時に納めるくらいしかなかったものだから。

 昔に大枚をはたいて入手したこのアイテムボックスは、小さいが軽量化の魔法と、時遅れの魔術が付与されている。
 単に体積を減らすことのできるアイテムボックスは、ある程度の冒険者なら手に入りやすい価格でどの街でも売られているが、この仕事を長く続けなければならないだろうと踏んで、小型ながらこれらの魔法が付いている方を選んだ。
 駆け出しの冒険者を経て、女であることを理由に、傭兵団などに属せず単独で仕事を取ると決めたときのことをふと思い出す。

 あれは十代後半にさしかかったころだろうか。
 ソロの女冒険者故か、いろいろなやっかみが非常にうっとおしかった。
 下心を通り越した反吐がでるような誘いや、見下してくる男連中の声かけに辟易していた毎日。
 そういったものにやさぐれてからのだいぶ無謀なスタートだったが、今思えばだいぶ恵まれていたことがよくわかる。
 ティアナはそいつらをギルド出禁にしてくれたし、心配してくれた穴熊の亭主や、馴染みの常連客が、本当にたくさんの助言をくれた。
 武器や防具、そして質のいい店。靴の選び方など多岐にわたるそれらを参考にして、アイテムボックスを一番初めに入手したのだが、あの時の選択は正しかったとつくづく思う。
 これは口の狭さゆえに大きな獲物は仕舞う時間がかかるというデメリットがあるものの、元の素材がいいし刺繍糸も丈夫だ。そのおかげで十数冊ほど本を入れても、あまり負荷は感じない。
 軽量化の魔法陣が銀糸で刺繍されている部分を、革手袋越しにするりと撫でた。

 ここは清貧な村だったのか、門兵に渡せそうな装飾品等はあまり無かったが、神事に用いる水盆にロザリオやロウソク、蝋燭台を見つけてそれらも仕舞っておいた。
 銀で造られているものを残すと、盗賊が入ってきたとき不必要に荒らされてしまう確率があがる。
 熊の襲撃を防げていないことを考えると、ハイエルフが護る村とはいえ常時その恩恵はうけられていないはずだ。おそらく彼と我々人間との時間の感覚が大きくずれているせいだろう。トラブルは未然に防ぐに越したことはない。
 最後の蝋燭台が入ったのを見届けて、アイテムボックスの紐を首に下げ、革鎧内側へとしまい込む。
 旅をするにあたって身軽なことはとても重要だ。
 揺らしても銀器が擦れる音などもしないことに満足してから立ち上がった。

「あらかた拾えたかね。さて、と。まずは沢の近くにでも行こうか」

 遺品の回収ついでに家の中を簡単に片づけて、薬草図鑑にあったそれぞれの群生地へと足を向けた。
 ここは井戸が引かれている村だが、そう遠くない場所に沢もあるらしい。
 そしてそこに氷草と呼ばれる薬草が生えているとのことだ。
 雪下牛蒡や雪林檎の植生地もある程度水がある場所と書かれていたから、運が良ければ時間の短縮につながるかもしれない。
 図鑑には公の学名もあるようだが、呪文のようなそれはこの辺では不要な知識。

 雪の深さをツルハシの柄で測りながら、慎重に道なき道を進んだ。



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