35 / 39
34.アイテムボックス
しおりを挟む
まるで、蛇が獲物を飲み込むようだ。
するすると本を取り込んでいく小さな巾着を見つめながら、そんなことを思う。
どこで得た既視感なのだろうと常々考えていたが、この短い時間にこれだけたくさんのものを仕舞う機会もなかったため、今の今まで気が付かなかった。猪だか鹿だか、そういった獲物を二、三頭同時に納めるくらいしかなかったものだから。
昔に大枚をはたいて入手したこのアイテムボックスは、小さいが軽量化の魔法と、時遅れの魔術が付与されている。
単に体積を減らすことのできるアイテムボックスは、ある程度の冒険者なら手に入りやすい価格でどの街でも売られているが、この仕事を長く続けなければならないだろうと踏んで、小型ながらこれらの魔法が付いている方を選んだ。
駆け出しの冒険者を経て、女であることを理由に、傭兵団などに属せず単独で仕事を取ると決めたときのことをふと思い出す。
あれは十代後半にさしかかったころだろうか。
ソロの女冒険者故か、いろいろなやっかみが非常にうっとおしかった。
下心を通り越した反吐がでるような誘いや、見下してくる男連中の声かけに辟易していた毎日。
そういったものにやさぐれてからのだいぶ無謀なスタートだったが、今思えばだいぶ恵まれていたことがよくわかる。
ティアナはそいつらをギルド出禁にしてくれたし、心配してくれた穴熊の亭主や、馴染みの常連客が、本当にたくさんの助言をくれた。
武器や防具、そして質のいい店。靴の選び方など多岐にわたるそれらを参考にして、アイテムボックスを一番初めに入手したのだが、あの時の選択は正しかったとつくづく思う。
これは口の狭さゆえに大きな獲物は仕舞う時間がかかるというデメリットがあるものの、元の素材がいいし刺繍糸も丈夫だ。そのおかげで十数冊ほど本を入れても、あまり負荷は感じない。
軽量化の魔法陣が銀糸で刺繍されている部分を、革手袋越しにするりと撫でた。
ここは清貧な村だったのか、門兵に渡せそうな装飾品等はあまり無かったが、神事に用いる水盆にロザリオやロウソク、蝋燭台を見つけてそれらも仕舞っておいた。
銀で造られているものを残すと、盗賊が入ってきたとき不必要に荒らされてしまう確率があがる。
熊の襲撃を防げていないことを考えると、ハイエルフが護る村とはいえ常時その恩恵はうけられていないはずだ。おそらく彼と我々人間との時間の感覚が大きくずれているせいだろう。トラブルは未然に防ぐに越したことはない。
最後の蝋燭台が入ったのを見届けて、アイテムボックスの紐を首に下げ、革鎧内側へとしまい込む。
旅をするにあたって身軽なことはとても重要だ。
揺らしても銀器が擦れる音などもしないことに満足してから立ち上がった。
「あらかた拾えたかね。さて、と。まずは沢の近くにでも行こうか」
遺品の回収ついでに家の中を簡単に片づけて、薬草図鑑にあったそれぞれの群生地へと足を向けた。
ここは井戸が引かれている村だが、そう遠くない場所に沢もあるらしい。
そしてそこに氷草と呼ばれる薬草が生えているとのことだ。
雪下牛蒡や雪林檎の植生地もある程度水がある場所と書かれていたから、運が良ければ時間の短縮につながるかもしれない。
図鑑には公の学名もあるようだが、呪文のようなそれはこの辺では不要な知識。
雪の深さをツルハシの柄で測りながら、慎重に道なき道を進んだ。
するすると本を取り込んでいく小さな巾着を見つめながら、そんなことを思う。
どこで得た既視感なのだろうと常々考えていたが、この短い時間にこれだけたくさんのものを仕舞う機会もなかったため、今の今まで気が付かなかった。猪だか鹿だか、そういった獲物を二、三頭同時に納めるくらいしかなかったものだから。
昔に大枚をはたいて入手したこのアイテムボックスは、小さいが軽量化の魔法と、時遅れの魔術が付与されている。
単に体積を減らすことのできるアイテムボックスは、ある程度の冒険者なら手に入りやすい価格でどの街でも売られているが、この仕事を長く続けなければならないだろうと踏んで、小型ながらこれらの魔法が付いている方を選んだ。
駆け出しの冒険者を経て、女であることを理由に、傭兵団などに属せず単独で仕事を取ると決めたときのことをふと思い出す。
あれは十代後半にさしかかったころだろうか。
ソロの女冒険者故か、いろいろなやっかみが非常にうっとおしかった。
下心を通り越した反吐がでるような誘いや、見下してくる男連中の声かけに辟易していた毎日。
そういったものにやさぐれてからのだいぶ無謀なスタートだったが、今思えばだいぶ恵まれていたことがよくわかる。
ティアナはそいつらをギルド出禁にしてくれたし、心配してくれた穴熊の亭主や、馴染みの常連客が、本当にたくさんの助言をくれた。
武器や防具、そして質のいい店。靴の選び方など多岐にわたるそれらを参考にして、アイテムボックスを一番初めに入手したのだが、あの時の選択は正しかったとつくづく思う。
これは口の狭さゆえに大きな獲物は仕舞う時間がかかるというデメリットがあるものの、元の素材がいいし刺繍糸も丈夫だ。そのおかげで十数冊ほど本を入れても、あまり負荷は感じない。
軽量化の魔法陣が銀糸で刺繍されている部分を、革手袋越しにするりと撫でた。
ここは清貧な村だったのか、門兵に渡せそうな装飾品等はあまり無かったが、神事に用いる水盆にロザリオやロウソク、蝋燭台を見つけてそれらも仕舞っておいた。
銀で造られているものを残すと、盗賊が入ってきたとき不必要に荒らされてしまう確率があがる。
熊の襲撃を防げていないことを考えると、ハイエルフが護る村とはいえ常時その恩恵はうけられていないはずだ。おそらく彼と我々人間との時間の感覚が大きくずれているせいだろう。トラブルは未然に防ぐに越したことはない。
最後の蝋燭台が入ったのを見届けて、アイテムボックスの紐を首に下げ、革鎧内側へとしまい込む。
旅をするにあたって身軽なことはとても重要だ。
揺らしても銀器が擦れる音などもしないことに満足してから立ち上がった。
「あらかた拾えたかね。さて、と。まずは沢の近くにでも行こうか」
遺品の回収ついでに家の中を簡単に片づけて、薬草図鑑にあったそれぞれの群生地へと足を向けた。
ここは井戸が引かれている村だが、そう遠くない場所に沢もあるらしい。
そしてそこに氷草と呼ばれる薬草が生えているとのことだ。
雪下牛蒡や雪林檎の植生地もある程度水がある場所と書かれていたから、運が良ければ時間の短縮につながるかもしれない。
図鑑には公の学名もあるようだが、呪文のようなそれはこの辺では不要な知識。
雪の深さをツルハシの柄で測りながら、慎重に道なき道を進んだ。
30
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる