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33.遺されたものへ
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火の後始末を済ませて、村の家の中へ足を踏み入れる。
「お邪魔するよ」
目当ては、先ほど目にした本だ。
いくつかは血液が付着したせいで、劣化が著しく見られなかったが、それ以上崩れないよう丁寧に除けていくと、重なりの下の方には何冊か綺麗なものも見つけることができた。
学習用の簡素な文字の教本、算術の本に、領都でも子らに人気だった物語。
この村は人数が少なくとも、教育がしっかり為されていたらしい。少ない冊数でも広い種類の本が遺されている。
この国に根付いている神話の本などは原始に最も近い部類であろう内容のものまであった。
実家のおかげでいろいろな神話を読んできたが、政治的な側面のせいでこの国で広められている神話は少々王族に都合がよく脚色されているものがほとんどだ。ここまで忠実な内容のものは、協会の外では滅多に見ない。この村のルーツがあのハイエルフだからだろうか。
少々驚いたものの、欲しかった本はこれではない。本棚に残っているものも検分していく。
そうして十数分ほど調べていると、朽ちたドアと本棚の傍ら。雪の積もらない場所に置かれていた鍵付きの引き戸の中にそれはあった。
鍵は壊れてしまっていたのだろう。少々力を込めれば、引っかかりながらも開く事ができた。
この村の特産となる野草、薬草類の特徴がまとめてある、図鑑を模したような本だ。気づけば、重要書類であろう帳簿類と同じ装丁で作られている。
この近くの群生地が暗号化されつつも書かれている。以前どこかで見た文字の形にピンときて、文字列にナイフを添えれば上下が逆転した逆さ文字を読む事ができた。
これのために鍵で保管されていたのかもしれない。
おかげで、目当ての雪林檎や雪下牛蒡、氷草などの生地がわかった。
いくつか同じ内容の本があって、よく見れば、定期的に改訂していたようだ。
この村の主な収益源であったことも関係しているだろうが、開いた一ページ目に書かれた一文がその理由だろう。
「新しい薬効が判明した際にはすぐに追記し、可及的速やかに本書を改訂すること。また年に一度は見直しをすること……か、ずいぶんと几帳面な村長だ」
きっとこの村長こそが、この辺鄙な場所にある村を長く栄えさせた立役者なのだろう。
続くページには一度に全部採りつくさないことや、植物の成長点は残すことなど、森での採取の決め事なんかも書かれている。
記載された植物は特徴を掴みやすいように点と線で描かれているのにも関わらず、植物の瑞々しさを損なわない見事な作品だった。
似た植物や分類が近しい植物同士にはそれぞれ見分け方と部分図も付いていて、情報に富んでいる。王都の図書館でもこれほど精巧な品はお目にかかれないだろう。
そっと表紙を撫でるようにして汚れを払う。
紙の質自体はそこまで古くない。しかし、屋根があっても、しばらく野晒しにされていたからか。床に触れていた部分はもとより、人の手が触れる部分や折れる部分には劣化が見られた。
「……このまま腐らせるのは、勿体なさすぎるね……」
薬草図鑑をぱらぱらとめくり、目当ての部分を読み込む。十分程度そうしていただろうか。しっかりと頭に叩き込んでから、端切れを取り出した。
薬草図鑑の他にも比較的無事な本を見繕って包み、アイテムボックスへと仕舞いながら、街の門に居た衛兵の顔を思い出す。
銀の髪と、緑系の瞳。冷淡そうな顔立ちをしていた。十代後半の男だった。
これらの本は、世に出せばお宝として保管されるだろう。そしてきっと、有用な薬草を求めて土地に調査が入る可能性もある。
故郷が無くなるのも辛いだろうが、それ以上に故郷を荒らされるのはもっと辛かろう。リュシエル様の面影がうっすら残る彼に、戻り次第それとなく聞いてみることにしよう。
「お邪魔するよ」
目当ては、先ほど目にした本だ。
いくつかは血液が付着したせいで、劣化が著しく見られなかったが、それ以上崩れないよう丁寧に除けていくと、重なりの下の方には何冊か綺麗なものも見つけることができた。
学習用の簡素な文字の教本、算術の本に、領都でも子らに人気だった物語。
この村は人数が少なくとも、教育がしっかり為されていたらしい。少ない冊数でも広い種類の本が遺されている。
この国に根付いている神話の本などは原始に最も近い部類であろう内容のものまであった。
実家のおかげでいろいろな神話を読んできたが、政治的な側面のせいでこの国で広められている神話は少々王族に都合がよく脚色されているものがほとんどだ。ここまで忠実な内容のものは、協会の外では滅多に見ない。この村のルーツがあのハイエルフだからだろうか。
少々驚いたものの、欲しかった本はこれではない。本棚に残っているものも検分していく。
そうして十数分ほど調べていると、朽ちたドアと本棚の傍ら。雪の積もらない場所に置かれていた鍵付きの引き戸の中にそれはあった。
鍵は壊れてしまっていたのだろう。少々力を込めれば、引っかかりながらも開く事ができた。
この村の特産となる野草、薬草類の特徴がまとめてある、図鑑を模したような本だ。気づけば、重要書類であろう帳簿類と同じ装丁で作られている。
この近くの群生地が暗号化されつつも書かれている。以前どこかで見た文字の形にピンときて、文字列にナイフを添えれば上下が逆転した逆さ文字を読む事ができた。
これのために鍵で保管されていたのかもしれない。
おかげで、目当ての雪林檎や雪下牛蒡、氷草などの生地がわかった。
いくつか同じ内容の本があって、よく見れば、定期的に改訂していたようだ。
この村の主な収益源であったことも関係しているだろうが、開いた一ページ目に書かれた一文がその理由だろう。
「新しい薬効が判明した際にはすぐに追記し、可及的速やかに本書を改訂すること。また年に一度は見直しをすること……か、ずいぶんと几帳面な村長だ」
きっとこの村長こそが、この辺鄙な場所にある村を長く栄えさせた立役者なのだろう。
続くページには一度に全部採りつくさないことや、植物の成長点は残すことなど、森での採取の決め事なんかも書かれている。
記載された植物は特徴を掴みやすいように点と線で描かれているのにも関わらず、植物の瑞々しさを損なわない見事な作品だった。
似た植物や分類が近しい植物同士にはそれぞれ見分け方と部分図も付いていて、情報に富んでいる。王都の図書館でもこれほど精巧な品はお目にかかれないだろう。
そっと表紙を撫でるようにして汚れを払う。
紙の質自体はそこまで古くない。しかし、屋根があっても、しばらく野晒しにされていたからか。床に触れていた部分はもとより、人の手が触れる部分や折れる部分には劣化が見られた。
「……このまま腐らせるのは、勿体なさすぎるね……」
薬草図鑑をぱらぱらとめくり、目当ての部分を読み込む。十分程度そうしていただろうか。しっかりと頭に叩き込んでから、端切れを取り出した。
薬草図鑑の他にも比較的無事な本を見繕って包み、アイテムボックスへと仕舞いながら、街の門に居た衛兵の顔を思い出す。
銀の髪と、緑系の瞳。冷淡そうな顔立ちをしていた。十代後半の男だった。
これらの本は、世に出せばお宝として保管されるだろう。そしてきっと、有用な薬草を求めて土地に調査が入る可能性もある。
故郷が無くなるのも辛いだろうが、それ以上に故郷を荒らされるのはもっと辛かろう。リュシエル様の面影がうっすら残る彼に、戻り次第それとなく聞いてみることにしよう。
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