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28.旧タルン村

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 針葉樹が連なる森を前に、短い時間立ち止まって準備をする。


 アイテムボックスからナタと雪用のツルハシピッケルを取り出し、ベルトの定位置に据えた。
 ピッケルがどこかにいかないようにする為のロープを手首に巻き、留め具を締める。
 男向けのピッケルは地面から足の付け根くらいまである大物だ。
 若い冒険者たちの間での流行りはもう少し短いものらしいが、雪の深さを測るのにも役立つし、いざとなれば武器にもなるコイツは長いほうが攻撃力が増すので気に入っていた。
 油を塗り込んだ木製の持ち手を数回確かめるように力を込める。

「これでよしと……あとは」

 酒筒スキットルから防寒用の火酒を一口含む。酒精が強く、漬かった薬草の味も癖がありどぎついものだが、魔力を孕んでいるおかげで耐寒性が上がるのだ。
 雪で眠たいときの気付け薬にも良かった。

 ふーっと吐いた息が白く染まる。

「さあて。道中うさぎの一匹でも狩れたらいいんだが」

 飴で固めた木の実を齧り、ピッケルで雪を刺しながら、新雪の積もる獣道へと足を踏み入れた。

 さくり、ずぼり、キュッ。と、雪道独特の音と自分の呼吸音だけが響く。
 時折しゃらしゃらと遠く聞こえるのは、鳴り角を持った鹿の魔物の家族が居るのだろう。
 木が開けた場所を通ると、雪玉が転がった跡だけでなく、割った胡桃の中身のような足跡が線状に残っていた。

「ああ、変わらないね」

 一刻歩いては栄養補給をしつつ、進むこと半日。
 運よく暗くなる前にタルンの村へたどり着くことができた。
 村が生きていたころは二刻もあれば到着できていたのだが、人の通らない雪道では倍ほども時間がかかってしまった。
 手入れのされなくなった防壁の丸太が、雨ざらしの劣化で割れて寂れた空気を増している印象を受ける。

 手袋を外して、生家で身に着けた祈りの印を切った。

「……久しぶりだね。報告に来たよ」

 そのまま村に立ち入る前に黙とうを捧げ、アタシは人の気配のない敷地内へと入った。

 村の中央にある広場で手早く野営の支度にとりかかる。
 井戸は潰されているが、簡易的な屋根があるだけでもありがたい。蝋を引いた厚布とロープで壁を作り、油紙と毛皮を敷く。
 ギルドで買った枝をナイフで削り毛羽立たせ、道中拾ってきた薪で火を熾して、ようやっと人心地ついた。

 獲物をしまうアイテムボックスから、兎を一羽取り出す。
 途中で一角兎を狩ることも叶ったのは僥倖だ。

 森の神に祈りを捧げ、最低限しかしていない下処理に着手しようとして、急ぎ狩弓を構えた。


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