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4.運命が動き出した日

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「フローラ、急患よ」

 とある冬の日、旧エイノワーツ伯爵領の教会は大雪に見舞われていた。
 しっかりした冬支度のおかげで、食の心配もなくまったりと夕食後のお茶を楽しんでいた厨房に緊張感が走る。

「ライラ、状況を教えてくれる?」
「成人男性五名、二人意識がないわ。残り三人は意識はあるけど重症ね」
「人手がいるわね。アメリア、ドロシー! 子どもたちをお願い。モカとララはお湯を沸かしておいてくれる?」
「はい!!」
「付き添いで他に十五人男がいるわ」
「大変。なんかお腹に入れられるもの作っておくわね」
「一応司祭館居住空間への通路閉鎖してきて!」
「他の行ける人は大広間へ!」


 全員がバタバタと動き始める。
 毛布やシーツ、念のため武器を抱えて、あしばやに大部屋に向かうと、久しく見ていなかった沢山の男性の姿があった。

「治療します! 必要な方はどちらに?」
「! こちらです」

 大部屋の中心には、五人が寝かされていた。
 痛みに呻く三名と、微動だにしない二名。それぞれ防寒着や革鎧などは既に脱がされている。
 全員血に濡れているが、白と赤黒いまだらな傷口が共通していた。火による熱傷だろうか。とにかく外傷がひどい。
 吐血が止まらない人や、足の向きがおかしい人、顔が見えない人もいた。

 彼等を運んできた十五名の騎士達も、鎮痛な面持ちをしている。その出立ちから、隣の帝国からの来訪者であることがわかった。

「悪いようにはしません。略奪行為などの不可侵を誓約魔法にて約束してください」
「なっ! 武装解除までしているのだぞ!」
「ダフ! よせ!」

 色めきたったのは一人だけ。それでも声を出しただけで、力に物を言わせることはない。そして他の者はしっかりと口を噤んでいる。

 ある程度信用はできそうだった。

「シスター。どうか、我々をお助けください」

 私をシスターと呼んだ茶髪ブルネットの男性が跪き、こうべを垂れた。
 それに後ろの騎士達も続く。
 焦る表情をしている者もいた。女に頭を下げるとは、などと悔しがる者は居なさそうだ。一刻も早い対処が必要なことをわかっているのだろう。
 しかし、こちらは女子供しか居ないのだ。
 治した途端に好き勝手されるわけにはいかなかった。

 背負ったメイスを両手で前に構え、魔力を纏う。
 カン! と石の床にメイスが触れた瞬間、真っ白な魔力が、魔法陣を描いた。
 真円と、その内側を誓文せいもんが緻密に埋めていく。白い光は時折り揺らいで、まるで貝の内側のように煌めいた。
 両足を踏みしめ丹田から喉へ力を流す感覚で、声に魔力をのせ、問いかける。

「この地の善良な領民たちに、如何なる害を加えることを許しません。不可侵を誓いますか?」

誓文が浮かび上がり、空気がキン! と張った。












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