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3.そうして修道院へ
しおりを挟む男子とは当たり障りなく。女子からのやっかみはあったが、公爵令嬢が気にかけてくれたおかげでおおむね問題なく。
しばらくの間平和に過ごしていたが、一年の終わり。冬ごろから学園生活に暗雲が立ち込めはじめる。
山を国境とする領から、とある連絡が届いた。
嘆願書の形をとったそれには、天気の悪い日が続き、作物が育たなくなったことからはじまり、動物達が棲家を変え、遂には魔物たちが暴れ始めたと書かれていた。
この世界には動物と別に魔物が存在していたが、どれも基本的に警戒心が強いかもしくは穏やかな気性だった。食物連鎖として魔物もしくは自分より弱い動物を食べる事はあっても、よっぽど森深くに入らなければ人を襲う事なんて無かったはずなのに。
同じ方面の寒村から連絡が途絶え、それがひとつやふたつでは無くなったとき。
王都から調査隊が派遣されることになった。
学園からも、その隊に付随する形でチームが組まれ、王子を筆頭に魔導士が数名旅に出る。
そしてその中には、もちろん私もいた。
王子、第二王子、宰相の息子、辺境伯令嬢のシーラ、そして私の五人の隊だ。
国の世継ぎを危険な旅に出すなんてと疑問だったが、このところ勢力を拡大しつつある隣国の帝国との何かしらの兼ね合いがあるらしい。
調査隊と名前の入っている通り、さわりだけでも参加させて名目を果たそうという魂胆だったのだろう。本来は。
旅を続ける途中、妙な魔人に付け狙われ自国の正規軍と逸れた事をきっかけに、やれ伝説の剣を取りに行ったりだとか魔を跳ね返す鎧を取りに行ったりだとか、潜在能力を引き出すための宝玉を取りに行ったりしているうちに一年ほどが過ぎた。
旅の果てに、ことの起こった山に開いた亀裂から魔界へ飛び、そのあわいを閉じることでようやく王国に平和が訪れる。
亀裂を通って今にもドラゴンが出てきそうだったところを成敗したので、全員命があるのが不思議なほどの激闘だった。
ひとつ心残りだったことがある。結果的にドラゴンを倒し魔界へ返したものの、これまでに亀裂から抜けでて山に巣食っていた魔物が、まだ討伐出来ていなかったことだ。
それらが自然淘汰の結果、蠱毒のように強い種ばかりが残り、山の山頂付近や森の奥深くに巣食っていたせいで、それに面する街はどこも疲弊しきっていた。
王都への凱旋後、王太子(になった第一王子)もしくは第二王子の側妃にと望まれたが、鳥肌を隠しながら辞退する。
代わりの褒美として、魔物に滅ぼされた街の領土を賜る事にしたのだ。といっても、商家としての力量しか無いから一時的なものでさらに代官が運営するのだけれど。
いたく感激した国王陛下がだいぶ予算を充ててくださったおかげで、早々に領主館が修繕されることになった。
修繕が完了するには数年かかるとのことなので、同時に造られた魔物の侵攻によって親を亡くした子や、夫を亡くした寡婦達の為の施設で寝起きする事になる。
定期的に封印を確認しつつ、目立たぬようシスターとしてそこで働かせてもらうようになって、約半年。
女子供しかいない、あの女神様にお会いした空間のように穏やかな場所で、皆を守りながら暮らしていた。
シスター!と子供たちに呼ばれるたびにあたたかな気持ちになる。
激闘の一年のせいで、もう貴族も戦闘も、社交や結婚もいいかな。と思い始めていた。
なにより、この世界のキラキラしい男性と私の好きな男性のタイプとがかけ離れすぎていたから。
たとえ結婚できなくても、子どもたちの中から養子を迎えようと、準備を始めた。
彼に出会ったのは、そんな時分だった。
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