13 / 15
13.住処が決まった
しおりを挟む会食翌日の朝、陸軍の運動場から歩いて行ける距離にある社宅?の様な建物に案内してもらった。
竈門と、居間兼寝室が一つになっている、1Kみたいな造りの部屋だ。
トイレは共用だそうでここにはない。お風呂は無く、基本的に清拭で済ますのだと、昨日スルスさんに聞いた。
「わあ! 思ってたより広い! ねえアキラ!」
「う、うん……」
きゃっきゃとはしゃぐヒナに対し、私は歯切れ悪く返事をした。
後ろではそんな私たちの様子を、ライアンさんが少し安堵した顔で見つめている。
まだ婚約者ではないが想いを寄せている人と、急遽一つ屋根のしたで暮らす事になり、私が動揺していると思ったのだろう。
「アキラ、今度いい香油を持ってきてやろう」
ひそひそ声で心から祝福する。と告げて、ライアンさんは私の肩を二度叩いた。
(香油……って、何だろ)
曖昧に笑って、頷く。
それからライアンさんは機嫌良く帰っていった。
今日は荷解きに時間をくれるらしい。
明日、陸軍の補給部隊と顔合わせをするそうだ。
あのとき、クリストファー様がどう調整してくれたのかわからないけれど、狐セバスが会食後に部屋まで荷物を持ってきてくれた。
ご結婚されていたのですね。と、納得の顔で言われたのは、会食前と後に同じ部屋に居たからだろう。
そういう意図で一緒に居たわけではないけれど、結果的にうまいことまとまってラッキーだ。
私と狐セバスが会話している間、隣で疑問符を浮かべながらも黙ってくれていたヒナ。
会食の場であった事をかいつまんで話すと、はじめケラケラと笑っていた。
「え! アイツらの中でうちら結婚してんの? ヤバじゃん」
「ごめん……じゃないと、ヒナ他のこっちの人と勝手に結婚させられそうだったから……」
「は!? なにそれ! こわ!」
すぐにゾゾっとしたのか、二の腕を摩っている。
この世界で戸籍とかがどうなっているのかはわからないけれど、縁もゆかりも無い召喚者達を組み込むのにはいい手段だな。と、思った。
相変わらずこちらの意思を無視してくれるところが癪に触るけれど。
そしてふと、あの場に居なかった他の女の子の召喚者達は大丈夫かな。と、暗い気持ちになった。
「あ~……でもしょうがないよ……それぞれで頑張るしか……」
「うん、ただ、話を聞いちゃったから後味悪くて……」
「だよね……チャンスがあれば、そういう背景教えてあげよ。なんかに役立つかも」
今はそう結論付けるしかない。
二人で若干落ち込んで、でも荷解きをしようと気を取り直した。
ちなみに狐セバスがくれた荷物というのは、この世界に召喚された人全員に渡す新生活応援セットみたいなものだ。
麻袋の中からはシーツ数枚に石鹸がひとつ。手拭いと、茶色味の強い小麦などの少しの食料。それから銀貨が五枚ずつ。
銀貨の価値がイマイチわからないけれど、この家には桶や柄杓、洗濯板となんかの棒、お鍋が大きいのと小さいのとで一つずつ備えられていたから、新生活応援セットと合わせればあまり追加で買う必要は無さそうだ。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界でフローライフを 〜誤って召喚されたんだけど!〜
はくまい
ファンタジー
ひょんなことから異世界へと転生した少女、江西奏は、全く知らない場所で目が覚めた。
目の前には小さなお家と、周囲には森が広がっている。
家の中には一通の手紙。そこにはこの世界を救ってほしいということが書かれていた。
この世界は十人の魔女によって支配されていて、奏は最後に召喚されたのだが、宛先に奏の名前ではなく、別の人の名前が書かれていて……。
「人違いじゃないかー!」
……奏の叫びももう神には届かない。
家の外、柵の向こう側では聞いたこともないような獣の叫ぶ声も響く世界。
戻る手だてもないまま、奏はこの家の中で使えそうなものを探していく。
植物に愛された奏の異世界新生活が、始まろうとしていた。

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ
Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_
【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】
後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。
目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。
そして若返った自分の身体。
美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。
これでワクワクしない方が嘘である。
そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

異世界楽々通販サバイバル
shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。
近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。
そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。
そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。
しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。
「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる