9 / 15
9. 会食会場にて
しおりを挟む会場は思ったよりも人がまばらだった。
と、最初は思っていたのだけれど。
それは間違いで、スルスさんが教えてくれた通り位の低いもの達から先に入場して待っておく慣習らしい。
とどのつまり、私とヒナをはじめ、既にここに集められている召喚者たちは位が低いものと認知されているということだ。
元は平民だから、抵抗感は薄い。
けれど、そちらの都合で拉致しといて雑に扱われるようでは、と色々思うところがあった。
元の世界に比べて文明が遅れているから、無意識のうちに見下してたんだろう。
良くないな。と思いちょっと反省した。本当にちょっとだけだから、ゆるして欲しい。
スルスさんとは違うお仕着せのメイドさんから、従姉妹の結婚式で見たウェルカムドリンクのような感じでゴブレットを受け取る。
赤ワインかな。にしては家で見たものより色が少し薄くて、若干の沈殿物がある。
果肉入りのオレンジジュースみたいな感じで不思議だ。
ちなみにこちらでは私たちくらいの年ではもう飲酒は全く問題ないらしい。農村では大人も子どもも、水分補給と栄養補給をかねてビールを飲むのだそうだ。
ちゃんとアルコールの入ったものを。
「子供も??」とヒナが驚いていたが、私たちの世界でも昔はお水よりお酒の方が普段飲まれていたというから、恐らく同じような理由なのだろう。
長方形の広間の中央に、変なお風呂みたいな噴水みたいなものが置いてある。
バラのような花びらが浮かんでいたけれど、品種交配してないからか高級感というより素朴で可愛い印象を受けた。
白いクロスがかけられた机にいくつかお椀があったから、ここで食事をするのだろう。
刺繍の入った布には、大きな箸置きのようなものが置かれている。お皿かと思えば薄いパンだ。
自分たちの世界の常識との違いに驚き、そしてげんなりした。
これに順応していくのは、思ったより大変そうだ。
高い天井にはシャンデリアが下がっている。今立っているのは一階だけれど、二階の天井の高さくらいはありそうだ。
室内バルコニーと、私たちが通された入り口とは別に扉と降り階段もあった。
壁には分厚く、重そうな臙脂色のカーテン。それから色んなタペストリーがあるからか、調度品はあまり無い。唯一棚に飾られた絵皿は純粋に綺麗だなと思った。そして、使わないんだな。とも。
部屋の隅では音楽隊みたいな人たちがいる。楽器も細かいところは違うけれど、私たちの世界のものと似通っているのはなんだか不思議だ。
空気が揺れて音が響くという原理が一緒だと、そうなってしまうのだろうか。
そうして辺りを観察していると、名前を呼ばれながら高位の貴族達が螺旋階段から入場しはじめる。私はその様子をじっと見つめた。
一応顔を覚えておかなくては。
金髪碧眼がメインの貴族達。七対三くらいの割合で、赤髪や茶髪、黒髪の人達もいた。黒髪でも彫りが深い顔立ちで、真っ黒な瞳は居ない。
そんなふうに傾向をつかんでいると、ついにファンファーレが鳴る。
ファンファーレの一番盛り上がるタイミングをはかっているのだようか。全面にこの国の紋章が入ったマントを引き摺るようにして、王様が入ってきた。横には、王様より若い金髪の女性も居る。
周りの貴族たちがざっと平頭し、召喚された人たちだけが棒立ちになっていた。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説

異世界でフローライフを 〜誤って召喚されたんだけど!〜
はくまい
ファンタジー
ひょんなことから異世界へと転生した少女、江西奏は、全く知らない場所で目が覚めた。
目の前には小さなお家と、周囲には森が広がっている。
家の中には一通の手紙。そこにはこの世界を救ってほしいということが書かれていた。
この世界は十人の魔女によって支配されていて、奏は最後に召喚されたのだが、宛先に奏の名前ではなく、別の人の名前が書かれていて……。
「人違いじゃないかー!」
……奏の叫びももう神には届かない。
家の外、柵の向こう側では聞いたこともないような獣の叫ぶ声も響く世界。
戻る手だてもないまま、奏はこの家の中で使えそうなものを探していく。
植物に愛された奏の異世界新生活が、始まろうとしていた。

異世界楽々通販サバイバル
shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。
近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。
そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。
そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。
しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。
「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

巻き込まれた薬師の日常
白髭
ファンタジー
商人見習いの少年に憑依した薬師の研究・開発日誌です。自分の居場所を見つけたい、認められたい。その心が原動力となり、工夫を凝らしながら商品開発をしていきます。巻き込まれた薬師は、いつの間にか周りを巻き込み、人脈と産業の輪を広げていく。現在3章継続中です。【カクヨムでも掲載しています】レイティングは念の為です。

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す
エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】
転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた!
元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。
相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ!
ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。
お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。
金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
スコップ1つで異世界征服
葦元狐雪
ファンタジー
超健康生活を送っているニートの戸賀勇希の元へ、ある日突然赤い手紙が届く。
その中には、誰も知らないゲームが記録されている謎のUSBメモリ。
怪しいと思いながらも、戸賀勇希は夢中でそのゲームをクリアするが、何者かの手によってPCの中に引き込まれてしまい......
※グロテスクにチェックを入れるのを忘れていました。申し訳ありません。
※クズな主人公が試行錯誤しながら現状を打開していく成長もののストーリーです。
※ヒロインが死ぬ? 大丈夫、死にません。
※矛盾点などがないよう配慮しているつもりですが、もしありましたら申し訳ございません。すぐに修正いたします。

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ
Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_
【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】
後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。
目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。
そして若返った自分の身体。
美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。
これでワクワクしない方が嘘である。
そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる