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7.この世界の不思議
しおりを挟む「おや、ユナ・アサヒナ様もこちらでしたか」
部屋を訪れたのは「セバスチャン」て感じの男だった。顎髭とタイプの違う、神経質そうな雰囲気。向こうがたぬきなら、こちらは狐といったところだろうか。
「極力通されたお部屋で待機していただかなくては困りますな。さて、こちらがご衣装です」
どうぞ。と渡されたのは、草木染めの貫頭衣だった。
キーネックの首元を留めるピンと、腰で結ぶ革紐がついていた。膝丈で、優しいくすんだ緑色をしている。思ったより可愛い。それにレギンスみたいな茶色のボトムを合わせるらしい。
だけれど。
「履き物はこれを」
やたら先がとんがった靴。これはいただけない。
機能性も悪そうだが、みんな履いてるのだろうか。
ヒナが後ろで笑いを堪えてる気配がする。
愛想笑いで受け取りながら、ヒナのも来たら笑ってやろうと思った。
「アサヒナ様のお召し物もお渡しして宜しいか?」
「あっ、ハイ! ありがとうございます」
ヒナは茜色のヘアバンドと、臙脂色のロングワンピースみたいな貫頭衣だった。
腰に巻く生成りのエプロンと、木をくり抜いて彫った木靴も渡される。
「わあ、可愛いですね」
「フッ」
ヒナの賛辞に、狐セバスはやたら鼻につく笑みを浮かべる。
二人して顔を見合わせたが、彼はこほりと空咳を一つして誤魔化した。
「お召し替えがすみましたら、今着られているお召し物をこちらで洗濯しますがいかがですか」
「いえ……自分でやります」
「お忙しい皆さんの手を煩わせては悪いので……」
「……左様ですか」
狐セバスはワガママを言う子どもを見るような目でため息をつく。それから取り繕ったように退出していった。
「なにあれ、やな感じ」
「……なんか服も取られそうだね。仕舞っとく?」
「そうする」
着替えを済ませ、着ていた服もアイテムボックスに仕舞った。
靴は履いてみたけれど、私もヒナも合わなくて断念する。
当たり前だけど、こちらの世界の格好に、お星様がトレードマークの黒いスニーカーは全然合わなかった。
ヒナも月桂樹の冠をモチーフにあしらわれた白地のスニーカーを履いたままにしている。
「見た目だけ変えとこうかな、ヒナのもやるね」
「ありがとう、木靴絶対靴擦れする自信ある」
「よし、完全偽装」
靴を撫でながら唱えてみる。すると、召喚された地下でやった時よりも気持ち楽に変えることが出来た。
ヒナのもさすりさすりして、二人とも先ほど渡された見た目に変える。
私の靴のとんがりは、少し控えめにした。それでもトランプのジョーカーみたいでちょっと恥ずかしい。毎日少しずつ短くしたらバレないだろうか。
ゆくゆくは普通のパンプスみたいにしてやると闘志を燃やしていると、またドアが叩かれた。
「会場のご用意ができましたので、ご案内いたします」
カーティシーで迎えてくれたのは、初めて会うメイドさんだ。
水色の髪に猫目が可愛い。
カラフルな髪色の人を初めて目にして、ヒナと二人固まってしまう。
「申し訳ありません。色付きの身ではございますが、仕事はきちんとさせていただきますので、どうぞご容赦ください」
「カラーズ?」
「綺麗な髪色ですね! 素敵!」
猫目メイドさんはヒナの言葉を聞いて目を見開く。
「綺麗……」
「こら、ヒナ」
「あ、見た目の話を振ってしまってすみません……」
しゅんと頭を下げたヒナに、メイドさんが再起動した。
「い、いいえ。綺麗だとおっしゃっていただけたのは初めてでして……少し、おど…驚いてっ」
「!」
「えっ、やだごめんなさい!! どうしよ、泣かせるつもりなんて無かったんです!!」
はらはらと涙を流すメイドさん。
ヒナが慌てて近寄り、背中を擦っていると余計に止まらないようだった。
私は背中から探る仕草をしつつハンカチを出す。今の私は男の子なので、近寄り過ぎないようにそっとメイドさんに渡した。
百円均一のタオルハンカチだけど、無地だからいけるだろう。
「大丈夫? ごめんなさい」
「いいえ! いいえ。嬉しゅうございました。なんと柔らかい手巾まで……!」
「どうしたんです? 髪の色って、何かあるんですか?」
「私たち、ここの常識的なこと何もわかってないんです……」
メイドさんは涙を拭き、納得がいった様子で語り始める。
「私ども色持ちと呼ばれる者は、過去の大戦で魔法の残渣により色素変異した祖先を持ちます」
そうして聞いたところ、この世界の人の色素は、本来私たちの世界の色合いとほぼ同じものらしい。
金、銀、茶、黒。それぞれのニュアンスは変わるけれど大体この四つに分類出来る体毛だった。
それが過去に起きたスタンピードで魔物と戦い、勝ったものの、あまりの魔法に曝されて彼女の様に変色した人がいたのだとか。
赤やオレンジ、青に緑など。戦場で変色した人に共通点はなく、無作為だったことから「魔物の呪いを受けた者」というレッテルを貼られ、今日まで迫害の憂き目にあっているとのこと。
「我々は魔力が比較的多いので、人の役に立つことで社会に混じることを許されています」
彼女はそう締めくくった。
なんともまあ。
どこも差別ってあるんだな……と、気の毒に思う。
本来なら他のパーラーメイドが担当のこの業務に就くらしいのだが、急な来客は業務調整が出来ないと押し付けられたらしい。
彼女、普段はスカラリーメイドを水魔法でやっているのだとか。
「なんか、色々もやっとする」
上手く言語化出来ない。
魔物退治で勝つ強い人をわざと貶めるような風潮であることもそうだけれど。
(私とヒナ、ちょっと冷遇されてない?)
気のせいかどうか、会場に行けばわかるだろう。
「ちょっと気合い入れて向かった方がいいかも」
「それな~」
「……」
のっけから、やな予感がした。
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