6 / 15
6.スキル
しおりを挟む「とりあえず、しばらくは情報収集しよ」
ヒナの言葉に頷く。
「だね。いかんせん判断がつかない」
「夜は会食って言ってたし、色々聞いてみよ!」
「そうだね。じゃあヒナ、あんたまずは寝れるなら寝なよ。頭回んないと詰む」
ヒナはモソモソとシーツに潜りながら「寝れるかな」とぼやいている。
正直難しいだろうと思うけれど、横になるだけでも多少は違うはずだ。
「おやすみー。ヤバくなったら起こしてね」
ヒナはそう言って目を閉じた。
ふと訪れた静寂に、ゆるゆると肩の力を抜く。
建物から聞こえる木鳴りの音や、部活みたいな軍の男の人たちの声。
ぼんやりとベッドに背をもたれ、見上げた空には太陽が見えた。元の世界と同じ感覚なら、正午を少し過ぎたくらいだろうか。
異世界の太陽も一つらしい。ガラスの窓にはカーテンが無く、夜は外の雨戸みたいな板をおろす造りになっていた。
ヒナの横顔を見ると瞼の下で眼球が動いている。そりゃ眩しいよな。と再度空を見上げた。
「あ、そうだ……」
唐突だがヒナは、よく忘れ物をする。辞書に教科書、それからハンカチ。あとは体育がある日の体育服だとか。だから時々貸せるものは貸したりしていた。
その流れで、私は昨夜荷造りした頭のまま軽く口を開く。
「ヒナ。アイマスクいる?」
「要る~!てか持ってたの?そんなん」
むくりと起き上がったヒナの視線の先、私の手のひらには確かに使い捨てタイプのアイマスクが握られていた。
「は?」
「え? なに、アキラそれどっから出した?」
「わかんない」
「ええ、笑うんだけど」
二人して頭を捻る。先に何か思い当たったのか、ヒナが爛々とした目で身を乗り出してきた。
「ねえアキラ。グミ持ってない?」
「え」
「いいから。グミちょうだい。桃のやつ」
パーで手を出すヒナに、バスの中でもらったグミの味を思い浮かべる。
ぎゅっと頭の中でイメージが固まると、背筋をするりと冷たいものが滑るように手先に集まる感覚がした。
そして同時に、手のひらには元気なピンクのパッケージが握られていた。
「うひい」
「出た! やっぱあれじゃん! アイテムボックス!」
「こっちくる時に仕舞ってたってこと?」
わーい! とグミを口に入れるヒナ。
私は試しに「バックパック」と口に出しながら手をにぎにぎしてみた。
背中のぞわぞわの後、手のひらにバックパックが急に現れる。
重さで手首がやられるところだった。
「あぶな!」
「やーんナイス! もしかして私のも?」
今度は床に手を向けて呼んでみる。
「ボストンバッグ!」
「出たー!! アキラありがとう~!!」
「この背中のぞわぞわに慣れたら、かなり便利かも」
「ぞわぞわすんの?」
「うん、うひょーって感じ」
微かに体を震わせる私をみて、ヒナはしばし思案する。
「アキラ、横になって」
「なに?」
「あれやってみていい? 癒しの術!」
ぽう。とヒナの手のひらが光った。
桜の花吹雪のように、淡い紫色が私をふわりと包む。
「わあ」
「あれ? うちのイメージでは、マッサージ系だと思ったんだけどな」
「気持ちいい、ぽかぽかしてきた」
体感的にはマッサージ受けた時の血の巡りを感じるから、ヒナの言うことはあながち間違いではないと思う。
「個人差あるのかも。ぞわぞわはしなかった」
「他のスキルも試してみる?」
「自分にも使えんのかなこれ」
きゃっきゃとそんな話をしていると、廊下に人の気配がした。
まだ遠い話し声。
ぴたっと二人会話をやめ、息を潜める。
聞き耳を立てていると、顎髭ほどではないけれど偉そうな男の人の声がした。
「いったん仕舞うね」
「うん。お願い」
バックパックとボストンバックを鷲掴み、自分から離さないよう強く念じ握り込む。手のひらに吸い込まれていくような感覚と共に、荷物は部屋から消えた。
「アキラ・タオカ殿、会食用のご衣装をお持ちいたしました」
とんとんとんと三回のノックのあと、すぐに扉が開かれた。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説

異世界でフローライフを 〜誤って召喚されたんだけど!〜
はくまい
ファンタジー
ひょんなことから異世界へと転生した少女、江西奏は、全く知らない場所で目が覚めた。
目の前には小さなお家と、周囲には森が広がっている。
家の中には一通の手紙。そこにはこの世界を救ってほしいということが書かれていた。
この世界は十人の魔女によって支配されていて、奏は最後に召喚されたのだが、宛先に奏の名前ではなく、別の人の名前が書かれていて……。
「人違いじゃないかー!」
……奏の叫びももう神には届かない。
家の外、柵の向こう側では聞いたこともないような獣の叫ぶ声も響く世界。
戻る手だてもないまま、奏はこの家の中で使えそうなものを探していく。
植物に愛された奏の異世界新生活が、始まろうとしていた。

異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。
ファンタスティック小説家
ファンタジー
科学者・伊介天成(いかい てんせい)はある日、自分の勤める巨大企業『イセカイテック』が、転移装置開発プロジェクトの遅延を世間にたいして隠蔽していたことを知る。モルモットですら実験をしてないのに「有人転移成功!」とうそぶいていたのだ。急進的にすすむ異世界開発事業において、優位性を保つために、『イセカイテック』は計画を無理に進めようとしていた。たとえ、試験段階の転移装置にいきなり人間を乗せようとも──。
実験の無謀さを指摘した伊介天成は『イセカイテック』に邪魔者とみなされ、転移装置の実験という名目でこの世界から追放されてしまう。
無茶すぎる転移をさせられ死を覚悟する伊介天成。だが、次に目が覚めた時──彼は剣と魔法の異世界に転生していた。
辺境貴族アルドレア家の長男アーカムとして生まれかわった伊介天成は、異世界での二度目の人生をゼロからスタートさせる。

異世界楽々通販サバイバル
shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。
近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。
そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。
そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。
しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。
「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

巻き込まれた薬師の日常
白髭
ファンタジー
商人見習いの少年に憑依した薬師の研究・開発日誌です。自分の居場所を見つけたい、認められたい。その心が原動力となり、工夫を凝らしながら商品開発をしていきます。巻き込まれた薬師は、いつの間にか周りを巻き込み、人脈と産業の輪を広げていく。現在3章継続中です。【カクヨムでも掲載しています】レイティングは念の為です。

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す
エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】
転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた!
元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。
相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ!
ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。
お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。
金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

男女比1/100の世界で《悪男》は大海を知る
イコ
ファンタジー
男女貞操逆転世界を舞台にして。
《悪男》としてのレッテルを貼られたマクシム・ブラックウッド。
彼は己が運命を嘆きながら、処刑されてしまう。
だが、彼が次に目覚めた時。
そこは十三歳の自分だった。
処刑されたことで、自分の行いを悔い改めて、人生をやり直す。
これは、本物の《悪男》として生きる決意をして女性が多い世界で生きる男の話である。
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる