はじめに手に入れたスキル「偽装」で、性別を変えました

キシマニア

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6.スキル

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「とりあえず、しばらくは情報収集しよ」

 ヒナの言葉に頷く。

「だね。いかんせん判断がつかない」
「夜は会食って言ってたし、色々聞いてみよ!」
「そうだね。じゃあヒナ、あんたまずは寝れるなら寝なよ。頭回んないと詰む」

 ヒナはモソモソとシーツに潜りながら「寝れるかな」とぼやいている。
 正直難しいだろうと思うけれど、横になるだけでも多少は違うはずだ。

「おやすみー。ヤバくなったら起こしてね」

 ヒナはそう言って目を閉じた。

 ふと訪れた静寂に、ゆるゆると肩の力を抜く。

 建物から聞こえる木鳴りの音や、部活みたいな軍の男の人たちの声。
 ぼんやりとベッドに背をもたれ、見上げた空には太陽が見えた。元の世界と同じ感覚なら、正午を少し過ぎたくらいだろうか。
 異世界の太陽も一つらしい。ガラスの窓にはカーテンが無く、夜は外の雨戸みたいな板をおろす造りになっていた。
 ヒナの横顔を見ると瞼の下で眼球が動いている。そりゃ眩しいよな。と再度空を見上げた。

「あ、そうだ……」

 唐突だがヒナは、よく忘れ物をする。辞書に教科書、それからハンカチ。あとは体育がある日の体育服だとか。だから時々貸せるものは貸したりしていた。
 その流れで、私は昨夜荷造りした頭のまま軽く口を開く。

「ヒナ。アイマスクいる?」
「要る~!てか持ってたの?そんなん」

 むくりと起き上がったヒナの視線の先、私の手のひらには確かに使い捨てタイプのアイマスクが握られていた。

「は?」
「え? なに、アキラそれどっから出した?」
「わかんない」
「ええ、笑うんだけど」

 二人して頭を捻る。先に何か思い当たったのか、ヒナが爛々とした目で身を乗り出してきた。

「ねえアキラ。グミ持ってない?」
「え」
「いいから。グミちょうだい。桃のやつ」

 パーで手を出すヒナに、バスの中でもらったグミの味を思い浮かべる。
 ぎゅっと頭の中でイメージが固まると、背筋をするりと冷たいものが滑るように手先に集まる感覚がした。
 そして同時に、手のひらには元気なピンクのパッケージが握られていた。


「うひい」
「出た! やっぱあれじゃん! アイテムボックス!」
「こっちくる時に仕舞ってたってこと?」

 わーい! とグミを口に入れるヒナ。
 私は試しに「バックパック」と口に出しながら手をにぎにぎしてみた。
 背中のぞわぞわの後、手のひらにバックパックが急に現れる。
 重さで手首がやられるところだった。

「あぶな!」
「やーんナイス! もしかして私のも?」

 今度は床に手を向けて呼んでみる。

「ボストンバッグ!」
「出たー!! アキラありがとう~!!」
「この背中のぞわぞわに慣れたら、かなり便利かも」
「ぞわぞわすんの?」
「うん、うひょーって感じ」

 微かに体を震わせる私をみて、ヒナはしばし思案する。

「アキラ、横になって」
「なに?」
「あれやってみていい? 癒しの術!」

 ぽう。とヒナの手のひらが光った。
 桜の花吹雪のように、淡い紫色が私をふわりと包む。

「わあ」
「あれ? うちのイメージでは、マッサージ系だと思ったんだけどな」
「気持ちいい、ぽかぽかしてきた」

 体感的にはマッサージ受けた時の血の巡りを感じるから、ヒナの言うことはあながち間違いではないと思う。

「個人差あるのかも。ぞわぞわはしなかった」
「他のスキルも試してみる?」
「自分にも使えんのかなこれ」

 きゃっきゃとそんな話をしていると、廊下に人の気配がした。
 まだ遠い話し声。
 ぴたっと二人会話をやめ、息を潜める。
 聞き耳を立てていると、顎髭ほどではないけれど偉そうな男の人の声がした。

「いったん仕舞うね」
「うん。お願い」

 バックパックとボストンバックを鷲掴み、自分から離さないよう強く念じ握り込む。手のひらに吸い込まれていくような感覚と共に、荷物は部屋から消えた。

「アキラ・タオカ殿、会食用のご衣装をお持ちいたしました」

 とんとんとんと三回のノックのあと、すぐに扉が開かれた。

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