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5.嘘はついてない
しおりを挟む「お待ちしておりましたぞ! さあ。この水晶に利き手を翳してくだされ」
ささ! と急かす顎髭に、引きっつった笑みを浮かべてから、右手を翳す。
机の上にあるのは、直径二十センチほどの見事な大きさの水晶だ。豪奢な三脚にのっている。どうしても落として割るイメージを浮かべてしまいながら、恐々と触れた。
接しているのは手のひらだけであるはずなのに、利き手全体を氷で撫でられるような感覚がする。
ぞわぞわしていると、透明だったそれが、やがてぼんやりと光を放ち始めた。
優しい緑色の光が、水晶の中心で渦巻くようにまたたいている。光なのに不思議な挙動だ。
スクロールといい、やけにエフェクトが多いから地下なのかな。と、若干逃避しながらそのまま待つ。
私は他の人に比べて比較的早く光が収まった。
顎髭が書記官から「魔力は少なめですね。属性は風です」と評価を聞いている。
顎髭は表情を崩さなかった。が、多少がっかりしたようだった。後ろの王様もこちらには興味なさそうに、勇者達の方へ目を向けている。
書記官が喉に光を纏い、問いかけてきた。彼の魔法は濃い橙のような、赤のような。不思議な色合いをしている。
「では……問います。お名前は?」
「……たおか、あきらです」
「御手に現れている内容を教えてください。職業は何と出ましたか?」
「異世界人、配達人と」
「……ほう。スキルは?」
「怪力、アイテムボックスなどでした」
「なんと! アイテムボックスですか!」
顎髭が割り込んでくる。
「はい、ですが、小と書いてありました」
「ああ……そうですか」
そしてすぐに興味を無くされた。
無関心を意図して狙っているとはいえ、正直イラッとする。
その後、スキルのことを一連聞かれ、手のひらに浮き出ていた分については嘘を言うことなく答えた。スキルの多さに目を見張られたが、魔力量は五段階あるうちの一。
こちらの一般市民と同等とのことだった。
したがって、たくさんあるスキルも乱用は出来ないだろうと残念がっている。
別に君たちの為に使う謂れはないのでは? と思ったが、黙っておいた。
その中でもアイテムボックスの容量については細かく確認をとの事だったので、追ってこの書記官さんが場を用意してくれるらしい。
続いて、ヒナの判定と聞き取りが始まる。
水晶は、アサガオの花のような、淡い紫色に光った。
「おお、珍しい。特殊属性ですね」
「特殊属性」
「ええ、火、水、風、土、光、闇の他の属性の魔力です。分類はまだ未確認のものもあって難しいですが、淡いですが紫色を呈したので、恐らく幻術でしょう。」
「はあ」
「魔力も高いですね。三、もしくは四あるかと推定されます」
「そうですか」
「はい。続いて鑑定結果をご報告ください」
「では問います。お名前は?」
「朝比奈 結奈」
「御手に現れている内容を教えてください。職業は?」
「……異界人、お針子」
ちらりと盗み見る。
問いかけは私と全く同じだ。それが何らかの条件の一つなのだろうか。
偽装された内容を告げるヒナの言葉に、書記官さんの喉元の光は変化なく、首輪を象るように粒子状に舞っていた。
「スキルを教えてください」
「ええと、繕い物、話術、薬品調整」
「薬品調整ですか」
「なんとなく、染め物な気がしています。体の感覚的にはですけれど」
「ポーションなどは作れますか?」
「ポーション? とはなんでしょうか」
「ああ……わかりました。もう大丈夫です」
「ポーションについては、こちらも晶さんと一緒に確認してみましょう。ご回答、ありがとうございました」
にこりと笑みを見せる書記官さん。こちらも会釈して元いた場所あたりに戻る。
全員の結果を収めたのち、顎髭が満足気に頷いた。
「これで全員ですかな。さて、驚きもあってお疲れでしょう。今晩はささやかながら会食を用意致しました。まずはお荷物を預かり、各々の部屋へご案内します。会食の時間までゆったりとお過ごしください。会食の際、それそれの職業にあった役割をお伝えにあがります」
娼婦に対する役割ってなんだろう。モヤっとした。
私たちに対する希望なんかを聞くことなく顎髭は話を進めていく。
手ぶらな私たちには関係ないけれど、荷物を預けるのもなんだか嫌な予感がした。
いくつかのグループに別れて案内される。三.四人乗りの馬車に乗り、森を抜けた。
そうして通された部屋というか建物は、昔の小学校のような木造のカントリーハウスだった。
中は案外広く、部屋数も多い。
一部屋ごとに木のベッドに小さなクローゼット、デスクもある。ちなみにベッドはマットレスとかでは無く、木張りの上に薄い布団を敷くような形だった。
ちゃんとガラスもはまっている窓からは、近くに軍の部隊でもあるのだろう。似たような宿舎がいくつか並んでいるのがみえた。
ヒナとは隣の部屋を与えられる。私たち以外にも他の女の子達もいた。
軍が近いのは、私たちの脱走防止も兼ねているような気がした。気にし過ぎかもしれないけれど。
どうやら、勇者や聖女らとは離されたようだ。
案内人のメイドさんが離れてから、きっかり百二十秒数えて私とヒナは脱力した。
「うわ~」
「ダル~」
二人で私の部屋のベッドに寝転がる。
はあ……と、行き場のないため息が部屋に響いた。
「とりあえず」
「何とかなったね」
「マジ焦った、あとは出たとこ勝負か……」
安堵と、不安と。
相反する感情で気持ち悪い。
「なんでこんなことになっちゃったんだろ」
「うん。確かに家から出たいとは言ってたけどさ、うち」
「絶対こんな形じゃなかったよね」
「うん」
これが夢ならな。そう思うけれど、目を閉じてまた開いても、知らない天井には変わりなく。
「作戦考えなきゃ」
やることは、たくさんたくさんありそうだった。
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