はじめに手に入れたスキル「偽装」で、性別を変えました

12.かりそめの

　がやがやとした周りの喧騒に紛れて聞こえないが、ライアンさんとクリストファー様が顔を寄せて何かを話している。

　勝手に売り込みをしてヒナには申し訳ないが、あの召喚の儀の場所で痛ましい顔をしてくれたライアンさんのいる場所が、この場では安全なように思えたから。
　軍だからきっと、私たちには想像もつかないような大変なことや苦しいことが沢山あると思う。
　それでも、この世界で、私たちの常識と同じように考えてくれる人はきっと多く無い。特に倫理的な部分で。
　だから少しでも良心がありそうなところに居場所を作ったほうがいいと思った。

　元の世界の治安の良さと、無条件に守ってくれた親の有り難みをひしひしと感じながら、二人の答えを待った。

「……アキラ殿」
「はい」
「彼女は、君の婚約者かな？」

　思いもよらない単語が出てきた。

「婚約者……では、ありません」
「ふむ。だが、親しい仲なのだろう？」
「はい」
「よろしい。では、早急に動いた方が良いだろう。女性達がいる場では口にされなかったが、じきに取り合いが始まるぞ」
「取り合い……とは、なんでしょうか」

　私の返答に、ライアンさんもクリストファーさんも少々驚いた表情をする。
　これまでいた世界は自由に恋愛することが出来る場所でした。と告げると、納得したような、理解が追いつかないような不思議な表情をした。

「……わかりやすく言えば、囲い込みだ。……婚姻による」
「！！」

　あの時、ヒナの職業だけじゃなくて、性別まで変えられていたら……！
　青ざめる私を、ライアンさんが痛ましい顔で見ている。
　クリストファー様はそんなライアンさんの表情に、小さくため息をつくと、ゴブレットをあおった。

「君は今、幾つだ？」
「歳……？　あ、っと十七です」
「わかった……少々、話をつけてくる」

　急に年齢を聞かれて、疑問符を浮かべる。クリストファー様はしばし逡巡すると、席を立ち、王の近くに居る顎髭の元へ歩いて行った。

「アキラ殿、大丈夫だ。クリストフ様がなんとかしてくださる。俯くな」
「でも、どうやって……」
「アキラ殿の歳なら、新婚と言ってもおかしくは無い」

　田舎の出であればなおさら、娘が十四かそこらで家長の命により嫁ぐことなどザラにあるのだそう。
　恐らくクリストファー様は、私とヒナを妻帯者として軍に引き抜くつもりらしい。と、ライアンさんは言った。

　無事に生き延びたいだけなのに、嘘に嘘を重ねて、事が大きくなっていく事に慄いていると、クリストファー様がこちらへ戻ってくる。

「今後はアキラと、呼ばせて貰うぞ。ユナ嬢も一緒に、明日から陸軍の宿舎へ移ってくれ。妻帯者向けの物件を案内させよう」

　こうして、私とヒナは陸軍に所属することになった。