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4. エトランゼ/配達人という職業がマシな方なんて
しおりを挟む【名前】田岡 晶 女
【職業】異世界人/配達人
【スキル】
品名確認、梱包、運搬、開封、平衡感覚、怪力、体力強増、長距離走、アイテムボックス小
【ユニークスキル】
完全偽装
「なんで……?」
思ってた異世界での職業と毛色が違って戸惑う。
怪力と体力が強いのは役に立ちそうだけど……。
思うところはあったが、聖女と勇者に続き賢者なるものが出てきたおかげで、こちらはノーマークだ。
目をつけられないことが一番大事。スルッと逃げても「あ、死んだのかな?」って思って捨て置かれるくらいがちょうどいい。
お互いのスキルを把握して生き延びなければ。
「ヒナ、そっちどうだった?」
「……」
「ヒナ?」
「アキラ。やばい」
「見ていい?」
震えるヒナの手のひらには、信じられないことが書いてあった。
【名前】朝比奈 結奈 女
【職業】異世界人/娼婦
【スキル】魅了、話術、化粧、癒しの術、薬品調整
「は?」
「ねえ、どうしよう。やばい。嫌な予感しかない」
ヒナの手をばっと覆い、あたりを見渡す。
よく見れば、何人か青ざめている女子がいた。
これ女子が多いのって、もしかしてわざと? と、そんな考えに行き付いた。平均年齢も考えるとあながち間違いでは無いような気がする。
いよいよこの国の碌でもなさに吐きそうになったところで「ユニークスキル?」とヒナが呟いた。
「ヒナにもある?私には見えなかった」
「ある。衣装替えって書いてある」
「私もある。完全偽装ってやつ。……ちょっと試してみる」
私は頭の中で「完全偽装」と呟いた。
すると一拍おいてから、ちょっとだけ疲労感を感じる。
周りではどんどんと光の玉が光っていって、祭壇の騒めきは最高潮に達していた。
「アキラ……」
「ごめん、一回失敗した」
でも、これで何となく使い方がわかった。
私は再度頭の中で、完全偽装を使用する。
胸に手をあてて、今度は対象を強く固定し、どうなって欲しいのかをしっかりとイメージした。
【スキル】運搬 を 隠す
見れば手のひらにはまだかろうじて緑の光が残っている。
しっかりと確認すると、スキルのうち運搬が消えていた。
「できた」
「! やった、じゃあ」
「うん、ヒナ。そのまま手出してて」
ヒナの手のひらにある「娼婦」という職業を改編する。私は少し考え、完全偽装を念じた。
【職業】娼婦 を お針子 に偽装
ヒナの手のひらで、緑の光が一部ざわざわと動き出す。
職業だけで無く、お針子に変更した途端、スキルも変化した。魅了が繕い物に、癒しの術と化粧が隠れたのだ。
まるで細かい虫が這ったように見えて、二人で苦い顔を見合わせた。
「やば、キモ……」
「アキラありがとう!でも私、裁縫なんて家庭科とかボタンくらいなもんなんだけど」
「十分でしょ、うわこれめっちゃしんどい」
スキルを使うと、体が急に重くなった。マラソンを走り終えたような疲労感。デメリットは、これが蓄積することのようだ。
でも可能な限りやっとこうと思って、私は再度スキルを使用する。
向こうでは、ついに剣聖なる人も現れていた。
【性別】女 を 男 に偽装
体を動かしていないのに、疲労感が増えるのは不思議な感覚だ。しぱしぱする目元をギュッと指で押さえた。
「うえっ」
「アキラ、すごい。あんた男子に見える」
「これが限界かも……うう、あと名前変えたかったのに」
肩で息をする私をヒナが心配そうに見つめている。
「でも制服でバレるかも……ちょっと私も使ってみていい?多分いけそう」
下を見ると、骨ばった膝が見えていた。
確かに、上はジャージだけれど下がスカートのままだ。だいぶ滑稽な格好をしている。
ヒナは「衣装替え」とぽそぽそ呟き、私のスカートを手のひらでひと払いした。
するとまるでCGのように、グレーのプリーツスカートが七分丈のズボンへと見た目を変える。
「布の面積分しか変えれないのか、半端になっちゃった」
「いや、一発で使えるのすごすぎでしょ。声に出すのがいいのかな。あとそれめっちゃ便利かも」
「確かに、うちらの逃げるにはめっちゃ向いてる」
ちょっとした希望が芽生えたところで、顎髭が大きな声を上げた。
「さあ! 他の皆さんはどうでしょうか! ご安心ください。どのような職業が出ても、必要に応じて所属を紹介いたします。何卒嘘の無いようご申告ください」
サラサラと顎髭の両手から淡い光が溢れる。
「ヒナみた?」
「みた。あれなんか魔法? 使ってるよね多分」
「わかんない、けどアイツ胡散臭い」
「お二人とも、鑑定はお済みでしょうか」
大袈裟に肩が跳ねる。ヒソヒソ喋っているうちに、いつの間にか背後に騎士が立っていた。
「あ、ハイ」
「では、あちらへ」
促される先には、怪しげな水晶と書記官らしき人がメモをとっている卓があった。
それを見た後、曖昧に頷きつつ騎士さまの顔を見る。
先ほど同情の視線を送ってくれていた、まあまあ顔の整ったお兄さんだった。
「あの、質問いいですか?」
「……なんだろうか」
「わた……ンンッ。俺たち、いつ帰れるんでしょうか」
「……」
押し黙る騎士さま。
その表情は、悲痛だ。
ああ、やっぱり。
「帰れないんですね……」
「嘘、やだ。もう会えないの、お母さん……うっうっ」
私の苦い顔と、ヒナの嘘泣きに騎士さまは暗い顔をする。
「すまない。手荒なことにはならんと思うが……」
ちらりとヒナを見てまた黙る騎士さま。
その視線に怯えたように、ヒナは私にしがみついた。
「……私の名はライアン。陸軍第一隊にいる。出来ることは少ないが、何かあれば、」
「他! そこの二人もお願いします!」
急かす顎髭。
私とヒナは騎士さまに会釈すると、気落ちしたように卓へと向かった。
背後で口を引き結ぶライアン様。
彼の同情が、いつか何か役に立つかもしれない。と期待しながら。
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