3 / 15
3.とりあえず、騒がず、目立たず
しおりを挟む鼓動は落ち着かないが、段々と目が慣れ、周りが見えてきた。
鍾乳洞を切り開き、白い台座を設置したような地下空間に、等間隔で篝火が焚かれている。
酸素は大丈夫なのこれ。と心配したが、火が一定方向に揺れていることから空気の通りはあるらしい。
ざわざわと周りから囁き声が聞こえる。
この空間に連れてこられたのは、私とヒナだけではなかった。
「やっべえこれ、異世界転移かよ!」
「ラノベみてえ!」
なんて。こんな状況で声高らかに叫ぶ人がいたなら良かったのに。
集められた人達を数えたら二十四名だった。年は十代~二十代の半ばくらい。比率としては、七対三くらいで女性の方が多い。
周りを取り囲む体格のいい騎士達に怯え、そっと辺りを伺っている。
私達は手ぶらだけれど、大きいキャリーやボストンバッグを持っている人もいた。しまったな。鞄どこ行っちゃったんだろう。
あの駐車場には、他の学校のバスも停まっていたから、その人達だろうか。
そして私達のように知り合いと居る人は、ぱっと見て三組しかいない。それぞれ小声でヒソヒソと、アイコンタクトなどで会話している。
そりゃそうだろう。それこそライトノベルのように、急に見知らぬ土地へ召喚されといてテンション上がる奴なんて、メンタルどうかしてると思う。
大人しく話を聞いている私達に満足したのか、国王陛下とやらが鷹揚に頷いて続きを話し始めた。
「お主らはこのクレドイル王国の王宮魔導士が練り上げた最大の召喚魔法によって、今日、こちらへ招かれた」
「は……なに?」
ここから朗々と演説のようなお話が五分ほど続いた。
人好きのする笑顔と、人前に立ち慣れている堂々とした態度で、かつ仰々しく王笏を掲げつつおっしゃるには、食糧難を解決するため、土地の拡大をするから他の種族と戦ってほしい。とのことだ。
「どうか、無辜の民を救ってくだされ」
とか言ってるけど、なに?
つまり?
戦争の駒として他の世界から人拉致ってきたってこと?
「マジか」
ヒナも同じ考えに至ったらしい。
繋いだ手をお互いぎゅっと握りしめた。
背中がじっとりと嫌な汗をかいている。
大抵こういうのって何かを成し遂げるか、また魔力が貯まるとかするまで元の世界には帰れないのが常じゃなかったっけ。
脳内でやばいを連呼しながら辺りを見回すと、全員ではないけれど、周りにいる人達も顔を白くしていた。
変な使命感とか感じてそうな委員長キャラや、ふんわりしたおっとり美人、ガタイの良い社会人とかはちょっと乗り気みたいな危機感のない顔をしている。
考えすぎかも知れないけど、距離置いた方がよさそうだ……。
ちなみに周りを取り囲む異世界人たちの表情を観察すると、王様の周りには普通の顔してる人ばっかりだが、離れたところにはこちらを気の毒そうに見る視線もちらほらと見受けられた。
同じ常識っていうか倫理観を持ってる人も居そうだ。その人達の顔を覚えるためにじっと目に焼き付ける。
すると、うっすらと脳裏に何かが見えた。
「うっ」
驚いて数回瞬きすると、それは消える。
なんだったんだろう。今の。
気味悪がっているうちに、王様の隣に立つ人が何かを騎士と共に配り始めた。
偉そうな顎髭の中年男性が、丸めた紙を手に掲げて説明を始める。
「これは鑑定のスクロールだ。鑑定、と唱えながら両手で破ると各々の手のひらにその結果が表記される。一度認識できれば、頭に入るだろう。では、はじめ!」
はじめ! って言われてもな……。
すっかり嫌悪感が生まれているせいで、一々反抗したい気持ちが芽生える。
トップバッターになるのも嫌できょろきょろしていると「スクロールって何?」とか言いながら、言われた通りにそれを破る人が居た。おっとり美人だ。
「わわっ」
破った瞬間、スクロールは切れ目から淡い緑の光を放ちながら燃えていく。
そして両手で包めるほどの光の玉になって、おっとり美人の眼前で浮かんだ。
「……綺麗」
おっとり美人がそれを手のひらで受け止める。
光はパチンと弾けて、花火の残渣のように光の粉を残して消えた。
「えっと、聖女……?って書いてあります」
「おお!!」
広場が騒めく。
「やったぞ!」と我がことのように喜ぶ顎髭やその周りに褒めちぎられて、おっとり美人は顔を赤くしていた。
王様も嬉しそうにゆっくりと何度も頷いている。
それを皮切りに、数名が続いた。
「アキラ……」
「うん、やる流れだよね、これ」
周りでもうは数ヶ所、光の粉が舞っている。
あまり遅くなっても目立ってしまうだろう。私たちは顔を見合わせると、二人同時に「鑑定」とスクロールを破いた。
光の玉が手に収まり、さらさらと読める見たこと無い文字で私の鑑定結果を知らせてくれたとき、ちょうど委員長(仮)が「勇者だ!」と大きな声をあげ、そちらに視線が集まった。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説

異世界でフローライフを 〜誤って召喚されたんだけど!〜
はくまい
ファンタジー
ひょんなことから異世界へと転生した少女、江西奏は、全く知らない場所で目が覚めた。
目の前には小さなお家と、周囲には森が広がっている。
家の中には一通の手紙。そこにはこの世界を救ってほしいということが書かれていた。
この世界は十人の魔女によって支配されていて、奏は最後に召喚されたのだが、宛先に奏の名前ではなく、別の人の名前が書かれていて……。
「人違いじゃないかー!」
……奏の叫びももう神には届かない。
家の外、柵の向こう側では聞いたこともないような獣の叫ぶ声も響く世界。
戻る手だてもないまま、奏はこの家の中で使えそうなものを探していく。
植物に愛された奏の異世界新生活が、始まろうとしていた。

異世界楽々通販サバイバル
shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。
近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。
そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。
そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。
しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。
「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

巻き込まれた薬師の日常
白髭
ファンタジー
商人見習いの少年に憑依した薬師の研究・開発日誌です。自分の居場所を見つけたい、認められたい。その心が原動力となり、工夫を凝らしながら商品開発をしていきます。巻き込まれた薬師は、いつの間にか周りを巻き込み、人脈と産業の輪を広げていく。現在3章継続中です。【カクヨムでも掲載しています】レイティングは念の為です。

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す
エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】
転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた!
元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。
相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ!
ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。
お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。
金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
スコップ1つで異世界征服
葦元狐雪
ファンタジー
超健康生活を送っているニートの戸賀勇希の元へ、ある日突然赤い手紙が届く。
その中には、誰も知らないゲームが記録されている謎のUSBメモリ。
怪しいと思いながらも、戸賀勇希は夢中でそのゲームをクリアするが、何者かの手によってPCの中に引き込まれてしまい......
※グロテスクにチェックを入れるのを忘れていました。申し訳ありません。
※クズな主人公が試行錯誤しながら現状を打開していく成長もののストーリーです。
※ヒロインが死ぬ? 大丈夫、死にません。
※矛盾点などがないよう配慮しているつもりですが、もしありましたら申し訳ございません。すぐに修正いたします。

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ
Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_
【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】
後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。
目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。
そして若返った自分の身体。
美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。
これでワクワクしない方が嘘である。
そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる