はじめに手に入れたスキル「偽装」で、性別を変えました

キシマニア

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3.とりあえず、騒がず、目立たず

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 鼓動は落ち着かないが、段々と目が慣れ、周りが見えてきた。

 鍾乳洞を切り開き、白い台座を設置したような地下空間に、等間隔で篝火が焚かれている。
 酸素は大丈夫なのこれ。と心配したが、火が一定方向に揺れていることから空気の通りはあるらしい。

 ざわざわと周りから囁き声が聞こえる。
 この空間に連れてこられたのは、私とヒナだけではなかった。

「やっべえこれ、異世界転移かよ!」
「ラノベみてえ!」

 なんて。こんな状況で声高らかに叫ぶ人がいたなら良かったのに。
 集められた人達を数えたら二十四名だった。年は十代~二十代の半ばくらい。比率としては、七対三くらいで女性の方が多い。

 周りを取り囲む体格のいい騎士達に怯え、そっと辺りを伺っている。
 私達は手ぶらだけれど、大きいキャリーやボストンバッグを持っている人もいた。しまったな。鞄どこ行っちゃったんだろう。
 あの駐車場には、他の学校のバスも停まっていたから、その人達だろうか。
 そして私達のように知り合いと居る人は、ぱっと見て三組しかいない。それぞれ小声でヒソヒソと、アイコンタクトなどで会話している。

 そりゃそうだろう。それこそライトノベルのように、急に見知らぬ土地へ召喚されといてテンション上がる奴なんて、メンタルどうかしてると思う。

 大人しく話を聞いている私達に満足したのか、国王陛下とやらが鷹揚に頷いて続きを話し始めた。

「お主らはこのクレドイル王国の王宮魔導士が練り上げた最大の召喚魔法によって、今日、こちらへ招かれた」
「は……なに?」

 ここから朗々と演説のようなお話が五分ほど続いた。
 人好きのする笑顔と、人前に立ち慣れている堂々とした態度で、かつ仰々しく王笏おうしゃくを掲げつつおっしゃるには、食糧難を解決するため、土地の拡大をするから他の種族と戦ってほしい。とのことだ。

「どうか、無辜むこの民を救ってくだされ」

 とか言ってるけど、なに?
 つまり?
 戦争の駒として他の世界から人拉致ってきたってこと?

「マジか」

 ヒナも同じ考えに至ったらしい。
 繋いだ手をお互いぎゅっと握りしめた。

 背中がじっとりと嫌な汗をかいている。
 大抵こういうのって何かを成し遂げるか、また魔力が貯まるとかするまで元の世界には帰れないのが常じゃなかったっけ。

 脳内でやばいを連呼しながら辺りを見回すと、全員ではないけれど、周りにいる人達も顔を白くしていた。

 変な使命感とか感じてそうな委員長キャラや、ふんわりしたおっとり美人、ガタイの良い社会人とかはちょっと乗り気みたいな危機感のない顔をしている。
 考えすぎかも知れないけど、距離置いた方がよさそうだ……。

 ちなみに周りを取り囲む異世界人たちの表情を観察すると、王様の周りには普通の顔してる人ばっかりだが、離れたところにはこちらを気の毒そうに見る視線もちらほらと見受けられた。
 同じ常識っていうか倫理観を持ってる人も居そうだ。その人達の顔を覚えるためにじっと目に焼き付ける。

 すると、うっすらと脳裏に何かが見えた。

「うっ」

 驚いて数回瞬きすると、それは消える。
 なんだったんだろう。今の。
 気味悪がっているうちに、王様の隣に立つ人が何かを騎士と共に配り始めた。
 偉そうな顎髭の中年男性が、丸めた紙を手に掲げて説明を始める。

「これは鑑定のスクロールだ。鑑定、と唱えながら両手で破ると各々の手のひらにその結果が表記される。一度認識できれば、頭に入るだろう。では、はじめ!」

 はじめ! って言われてもな……。
 すっかり嫌悪感が生まれているせいで、一々反抗したい気持ちが芽生える。
 トップバッターになるのも嫌できょろきょろしていると「スクロールって何?」とか言いながら、言われた通りにそれを破る人が居た。おっとり美人だ。

「わわっ」

 破った瞬間、スクロールは切れ目から淡い緑の光を放ちながら燃えていく。
 そして両手で包めるほどの光の玉になって、おっとり美人の眼前で浮かんだ。

「……綺麗」

 おっとり美人がそれを手のひらで受け止める。
 光はパチンと弾けて、花火の残渣ざんさのように光の粉を残して消えた。

「えっと、聖女……?って書いてあります」
「おお!!」

 広場が騒めく。
「やったぞ!」と我がことのように喜ぶ顎髭やその周りに褒めちぎられて、おっとり美人は顔を赤くしていた。
 王様も嬉しそうにゆっくりと何度も頷いている。

 それを皮切りに、数名が続いた。

「アキラ……」
「うん、やる流れだよね、これ」

 周りでもうは数ヶ所、光の粉が舞っている。
 あまり遅くなっても目立ってしまうだろう。私たちは顔を見合わせると、二人同時に「鑑定」とスクロールを破いた。

 光の玉が手に収まり、さらさらと読める見たこと無い文字で私の鑑定結果を知らせてくれたとき、ちょうど委員長(仮)が「勇者だ!」と大きな声をあげ、そちらに視線が集まった。

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