1 / 15
1.旅のはじまり
しおりを挟む「思い出を!」
「たくさんつくった!」
「「「修学旅行!!」」」」
クラスの男子がぎゃあぎゃあはしゃいでいる。
高速道路をひた走るバスの車窓から外を眺めて、私はため息をついた。
山間の木々は所々黄色だったり赤だったりと鮮やかに色付いている。最近生物の授業で見たアカハライモリを何と無く思い出した。
薄い雲に、優しい陽の光。
からりとした天気の、まさしく行楽日和だった。
「アキラ、食べる?」
隣の席から、にゅっとハートの形をした小さなグミが差し出された。
ふわりとただよう合成された桃の香り。
私も好きな味だ。
「ありがとう。もうヒナは大丈夫なの?」
「今さっきまで酔ってたでしょ?」と、聞きながらグミを頬張った。舌の裏がキュンとして、じゅわり唾液が分泌される。
「久々に食べたわこれ」
「マ? 好きだったじゃん、私今回みんなで食べようと思っていろんなお菓子たくさん買ってきた」
「岡センにバレんようにね」
「はあい。あ、カバン空いてんなら少し持って」
「適当入れといていいよ、あ、まって馬鹿。ペットボトル何本も入れるのはやだ」
「バレた」と笑うヒナを軽く小突く。くすくす笑っていると、窓の外が暗くなった。トンネルだ。
黒い窓越しにヒナが大きなあくびをしたのが見えた。
「もうじき着くと思うけど、寝とく?」
「ありがと~。昨日?てか朝?コンビニだったの」
スマートフォンを充電ケーブルに繋いでから、おやすみ~と言いつつ、ヒナはパーカーのフードをかぶって目を閉じた。
猫っ毛のロングヘアがフードから流れている。
しばらくすると胸の上でゆっくり上下し始めたから、あっという間に寝入ったらしい。
日の光を返す艶のいい黒髪に、最近切りすぎたマニッシュショートの私は羨望の眼差しを送った。
最近少し痩せたような気がする、親しい友人。
ヒナは家族との折り合いが悪く、家に居るのも気まずいからとバイトに明け暮れている。
いつもからりと明るく過ごしているが、時々眠たそうにしているから疲れているのだろう。
ちょっとの間だけでも寝させてあげたいな。と、私はジャージを膝にかけた。
「ヒナ、ついたっぽい。起きて」
鹿で有名なお寺近くの駐車場に、バスが到着した。男子達のテンションは最高潮で、ドタバタと外へ飛び出している。
もみくちゃになってしまうのも億劫で、ある程度人が出るまで座って待つ。
今日はこの近くのホテルに泊まるから、荷物を持てよと担任が声を張った。
そのときだった。
「わ!!」
「うおっ」
「やだ、なに??」
ぐらぐらっと、震度四くらいだろうか。
しっかりと揺れを感じるほどの地震でバスが揺れた。車内に残っていた私たちは、揺れがおさまってから外に出る。
外はスマホを確認している同級生や、他の学校の修学旅行者たちでざわついていた。
「おい、全員いるか?」
「岡先生」
「まだバス乗ってるやつはいないな?ちょっと確認してくるから、荷物受け取ったら整列して待っててくれ。頭の上になんかある所には行くなよ」
「はい」「はーい」
担任の岡先生とすれ違うと、バスの中腹あたりで荷物を受け取った。
「ああ、びっくりしたねえ」
「うん。幸先悪いね」
「でも不思議だね、地震速報入ってない」
「山だからかな」と言いながら、ピンクのスマホケースを振る動作をしているヒナ。私もリュックから水色のスマートフォンを取り出した。
電波もあるし電池もある。
エリアが認識されていないのだろうか。
「とりあえず皆んなと合流しよ」
「りょ」
バチン
ヒナは白いボストンバッグを。
私は黒いバックパックを抱えたところで、何かが弾けるような、割れるような音が聞こえた。
「は」
「えっ」
踏み出したはずの一歩は地に着かない。
何となく、それこそほぼ反射でヒナに手を伸ばす。ヒナのボストンバッグを絶対離さないよう握り込んで、浮遊感に目を閉じた。
こうして。
ぬうっと立ち上った黒い影に、私とヒナは飛び込むような形で、囚われてしまった。
「……朝比奈と田岡はまだ来てないのか?」
ざわつく同級生達。
岡先生の声が、駐車場でこだました。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説

異世界でフローライフを 〜誤って召喚されたんだけど!〜
はくまい
ファンタジー
ひょんなことから異世界へと転生した少女、江西奏は、全く知らない場所で目が覚めた。
目の前には小さなお家と、周囲には森が広がっている。
家の中には一通の手紙。そこにはこの世界を救ってほしいということが書かれていた。
この世界は十人の魔女によって支配されていて、奏は最後に召喚されたのだが、宛先に奏の名前ではなく、別の人の名前が書かれていて……。
「人違いじゃないかー!」
……奏の叫びももう神には届かない。
家の外、柵の向こう側では聞いたこともないような獣の叫ぶ声も響く世界。
戻る手だてもないまま、奏はこの家の中で使えそうなものを探していく。
植物に愛された奏の異世界新生活が、始まろうとしていた。

異世界楽々通販サバイバル
shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。
近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。
そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。
そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。
しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。
「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

巻き込まれた薬師の日常
白髭
ファンタジー
商人見習いの少年に憑依した薬師の研究・開発日誌です。自分の居場所を見つけたい、認められたい。その心が原動力となり、工夫を凝らしながら商品開発をしていきます。巻き込まれた薬師は、いつの間にか周りを巻き込み、人脈と産業の輪を広げていく。現在3章継続中です。【カクヨムでも掲載しています】レイティングは念の為です。

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す
エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】
転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた!
元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。
相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ!
ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。
お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。
金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
スコップ1つで異世界征服
葦元狐雪
ファンタジー
超健康生活を送っているニートの戸賀勇希の元へ、ある日突然赤い手紙が届く。
その中には、誰も知らないゲームが記録されている謎のUSBメモリ。
怪しいと思いながらも、戸賀勇希は夢中でそのゲームをクリアするが、何者かの手によってPCの中に引き込まれてしまい......
※グロテスクにチェックを入れるのを忘れていました。申し訳ありません。
※クズな主人公が試行錯誤しながら現状を打開していく成長もののストーリーです。
※ヒロインが死ぬ? 大丈夫、死にません。
※矛盾点などがないよう配慮しているつもりですが、もしありましたら申し訳ございません。すぐに修正いたします。

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ
Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_
【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】
後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。
目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。
そして若返った自分の身体。
美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。
これでワクワクしない方が嘘である。
そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる