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25.貴婦人の面影

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 連れ立って向かった厨房にて、シスターが入れてくれたハーブティーをいただく。

 中庭で育てたと花だと言う赤い色のお茶は非常に酸味が強かった。
 幼少期からの慣れで、色々な味には耐性がある。特に苦味やエグ味、酸味には隊の中でも一番強いのではないだろうか。
 だから暖かいだけで、私にとっては充分に美味しく感じる。
 それでもついガラントにご馳走になったいつかの昼食を思い出してしまって、それに慣れてしまう事の危機感を覚えながら、ひとくち、ふたくちと使い古しのティーカップに口をつけた。


「この酸味も、お砂糖があれば、甘酸っぱくて美味しいのですけれどね」

 そうこぼすシスター。
 ほんの一瞬だが、お茶の水面にどこか遠くを映し見ているような眼差しだった。
 その伏せられたかんばせを、じっと見つめる。
 ちゃんとティーカップの柄を三本指で支える仕草は、やっぱり昔の貴族のものだ。意外に難しいそれを簡単にやってのける手には、貴族の女性にはできることの無い、あかぎれと皺があった。
 子ども達と協力しつつも、それでも色々な家仕事を担う働き者の手だ。
 それらが刻まれることになった彼女の歴史は、一体どんな道を経たのだろう。

「暖かいお茶というだけで充分です。目が覚めます」
「ふふ、そうね。栄養価は高いからよしとしましょう」

 今度来る時にはお茶と砂糖も買ってこよう。と心の中で記帳していると、がやがやと外から声が聞こえた。

「あれは……」


 井戸から水を汲んできたのか、色々な形をしたバケツ片手に、カラフルな髪色をした子ども達が中庭で畑仕事をしている。
 夏の豆の収穫が終わり、秋初めに植えた根菜の手入れや冬に食べられる菜類を新しく植えているようだ。霜に弱い品目にか、破れた麻袋を器用に根元に敷いている子もいる。

「隣町に奉公に行っていた子らも、秋の収穫が終わって、最近戻ってきたんです」

 隣町は山の近くで、斜面に沿って植えられた葡萄と林檎が名産になっている。恐らくそれらの手伝いに駆り出されたのだろう。
 ある程度まとまった金額の稼ぎを、自らの手で得ることができて「みんな、生き生きしてるわ」と、シスターは笑う。

「最近帝国からのお客様がよく訪れるからか、街道が整備されてきていてね。野盗がぐっと減って、馬車の数も増えたの。季節の節目には子ども達も辻馬車に乗れるんですよ。もちろん、街の出入りにお仕事の許可証は要りますけれど」

 騎士様達のおかげね。そう言ってこちらを見つめる。街道の巡回は第六だったか、他の師団の担当なのだと首を振るが、彼女は騎士団全体が機能しているからあやかれる平和だと笑みを崩さない。

「アリアさん、がんばっていらっしゃるのね」
「……いえ、当たり前のことですので」

 段々と照れ臭くなって、私はティーカップを呷ると、シスターに礼を言って中庭に出た。

「その。持ってきたものは粗方仕舞いましたが、あとで確認してくださいね」
「ふふ、ええ。わかりましたよ」

 くすくすと聞こえる彼女の声に見送られる。
 やれやれ、いい年にもなって。と、俯瞰して見る精神面の私が肩をすくめる気配を感じた。
 なんともくすぐったい気持ちだ。
 私はやや駆け足になって、シャベルを取りに納屋へ向かった。

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