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24.孤児院へ
しおりを挟むモンテ商会の後は、肉屋でまとめ売りされていた干し肉の切り落としを買ってスラム街へと入った。
旅人達や傭兵が好む揃った板状の大きさのものよりも、小さいのも細かいのも混じったこちらの方が小さな子達相手には有り難い。
補食として渡すのも裂かなくていいから手間が省けるし、料理に使うのも手軽だ。細か過ぎるものは煮てスープの出汁にもできる。
「アリアさん! 体に悪いから一度に多く食べてはなりません!」
ふいに脳内に響く、少し神経質な声。
下町の肉屋の干し肉は塩っけが強く、与えられた分以上に盗み食いしようとすると、シスターに怒られていた。
いつも品のある発声の彼女。穏やかな人だったが、子どもたちの健康に悪影響のある事柄にはとても厳しかった。久しぶりに会えると思うと、思わず顔から強張りが溶ける。
シスター、それから、兄弟のような後輩のような子どもたち。
みな、元気だろうか。
浮き足だっている気持ちがほどよく落ち着く。
金貨を崩して嵩張る銅貨の革袋を、音が出ないよう懐にしっかりとしまった。
外套の下はただでさえ大荷物なのだから、下手にこの街の住人を刺激しないよう気をつけなければ。
道にゴミが増え、流れる川は汚水が滞りひどい悪臭がした。
ところ狭しと建てられた小屋に、所々にわとりやウズラを飼うための網が張られている様は、柊に編み筒状の巣を作る蜘蛛を彷彿とさせる。
ボロを纏い裸足で駆けていく子ども。
少し空いた場所では端材を焼いて複数の家庭が一緒に煮炊きをしていた。
夜はどうしようもなく治安が悪くなるけれど、明るい時間は多少生活の営みが見られる、私の故郷。
統一感のないゴミゴミとした街並みが、どうしようもなく落ち着くのは、ここで過ごした時間が長いせいだろう。
「ただいま」
ギィ、と音を立てて大聖堂への扉を開ける。
歯抜けの椅子が並ぶ先、かろうじて残った一枚のステンドグラスの窓の前にシスターがいた。
「まあ! おかえりなさい。アリアさん」
「シスター、お久しぶりです」
もう六十は超えているだろうに、相変わらず華のある佳人だ。
腰も曲がっていない。凛とした雰囲気。
回帰した夜にここを訪れているが、あの時は遅い時間だったため、シスターと顔を合わせるのは久しぶりだ。
「お元気そうでなによりです。今日は、差し入れを持ってきました」
「気を遣わせてしまって、申し訳ないわ」
「私が好きでやっていることです。騎士団の同僚が、子ども達への襟巻きを作ってくれたのですよ、どうです? 暖かそうでしょう」
デイジーがくれた襟巻きを一本取り出す。
優しいアイボリーに、胡桃の飾りボタンが付いていた。
「なんて可愛らしい。お上手ね」
「はい。自慢の友人です」
そっと襟巻きを撫でる骨ばった手。
また少し痩せたような気がして、ちくりと胸が痛んだ。
「他にも干し肉や石鹸があります。倉庫に置いてきてもいいですか?」
「ありがとうございます。秋のはじめに採れたハーブがありますから、お茶にしましょう」
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