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10.新しい出会い
しおりを挟む会話の後、二人は「時間になるまでこの部屋で待機」と言って退出していった。
手持ち無沙汰だったので机に置かれた資料に目を通す。パラパラと紙に触れる作業は、無駄に速くなる鼓動を落ち着けるにも丁度良かった。
指先に引っかかる繊維をほとんど感じない。とても質のいい紙に、人数分刷られている資料。
お金があるところにはあるんだなあと感心していると、補佐官が「後で回収するから、折らないでくださいね!」と隣室から顔を出した。
なるほど。と苦笑していると、ちらほら同期と思わしき人たちが集まりだす。
その出立ちから貴族だろうと当たりをつけ、とりあえず会釈した。
「一番のりだと思ったのにな」
「アルバス、お前が寝汚いからだろうが」
「はは、おはよう! 同期だよね、よろしく」
「おはようございます」
「俺はアルバス・フォン・モスタナ」
私は席を立った。彼らと目線を合わせた後、再度頭を下げる。
「……ご丁寧にありがとうございます。アリアです。性はありません」
「やだな、顔上げてよ。同期なんだから」
「お前が馴れ馴れしすぎるんだよ。ガラント・ヅィー・ワイオナだ。よろしく頼む」
やっぱり貴族だった。「お心遣い感謝致します」とにっこり笑って、しらっと席を移動する。前世では、ずっと座ったままだと冷ややかな目線を返された。
まだ判断材料が乏しいから、人となりがわかるまで一般的な対応をしておこう。
襟足にびしびしと視線を感じるが、手元に集中しているふりをした。
資料には、第二師団に特化した配属後の心得が記されていた。王子殿下達に関する事項は記載がない。情報の流出を防ぐためだろう。回収されるとの事なので、覚えられるように繰り返し頭に叩き込む。
入隊試験の為に必死に試験勉強をしたスラムの過去を思い出して、小さく笑った。
教会の奥、シスターに辞書を借りながら、眠い目を擦りこすり机に向かった十四の秋。僅かな稼ぎを得つつ勉強も鍛錬もこなすのは、少々堪えた。
四十代と思われるシスターは元の素性を明かさなかったけれど、きっと元々貴族なのだろう。
小さい頃から読み書きを教えてくれた。そして私が騎士を目指すと決めたときから「貴族と接する機会も出てくるでしょう」と言ってある程度のマナーを教わった。
それは騎士向けではなかったし、少しばかり古いものだったけれど、習っておいて良かったと、今更ながら感謝した。
そうして時間を潰しているうちに席が埋まり、隣には平民の出らしい男が黙って座った。
ちらりと目が合う。
「ベン・カーペンターだ」
「アリア。よろしく」
それで終わりだ。
お互いに平民の出だとわかったらしい。
早々にそれぞれの思う通りに過ごし、こちらのほうが正直なところ気が楽でいいなと、ゆっくり肩を下ろした。
「さて、改めて入団おめでとう。諸君」
私を含め、総勢二十四名の新兵が席に着いていた。
一人一人の顔をしっかりと見つめるダグラス隊長。先ほど中尉と呼ばれていたから、隊長呼びは間違っていたのだな。と、ひとり恥じた。
「私が小隊長のダグラス・フォン・エドモンテだ。ダグラスでいい。しばらく指導官を務める。君たちを六班に分け、昨年度の入団員を指導員として一人ずつ付ける。戦場では互いの命綱になる輩だ。如何なる理由があろうと相手を損なうことは許さん。切磋琢磨し、王国の清廉なる剣となるよう期待する!」
「ハッ!!」
ダグラス中尉の激励に、全員が立ち上がる。
彼の視線は向かなかったけれど、私にも充分配慮してくれていることがわかった。
形だけでなく、心からの敬礼をダグラス中尉へと贈った。
ダグラス中尉の号令でなおると、指導員が六名前に並び、紹介された。
私は六班。指導員はカルロスという平民からの先輩騎士だ。先ほどのアルバスとガラント、それからベンが同班になる。
「お! さっきぶりだね。よろしく」
「モスタナ卿、光栄です」
「呼びにくいでしょ。アルバスでいいよ」
「アルバス様」
「うっ、んん。いいね」
若干頬を赤らめるアルバス。微妙な空気になる前に、ガラントが彼の頭を盛大に叩いた。
「あだっ」
「いいね! じゃない。職場でナンパするな」
「誤解だ!」
「ワイオナ卿」
「俺もガラントでいい。敬語もやめろ。戦場でまどろっこしいのは命取りだろ。そこのでかいのもだ」
「ベン・カーペンターです」
「ベンな。いいか、二人とも普通に話せよ」
並び立つベンを見上げる。ベンも私を見ていた。
「では、遠慮なく」
「ああ」
「よろしく~」
こうして、新しい所属が決まった。
回帰前との差に何度も驚いたが、正直ずっと過ごしやすかった。
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