ドラフト7位で入団して

青海啓輔

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4年目 新しい日々の始まり

第89話 今季初スタメン

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 三田村の任意引退は、球界では驚きをもって受け止められた。 
 つい先日二軍とは言え、完全試合を達成し、年齢もまだ21歳で、同年代はまだ大学4年生だ。 

 静岡オーシャンズからもかなり強く引き留められたようだ。
  だが、三田村の意思は固かった。
  そして9月中旬、三田村の任意引退が告示された。 
 これから大学受験に備えるそうだ。
  三田村は見かけによらず、高校時代はそこそこ勉強が出来たらしく、当面は受験に向け勉強をするらしい。

  僕はというと、まだ一軍に居座っていた。 
 泉州ブラックスは春先の勢いは無くしたものの、クライマックスシリーズ圏内の3位を静岡オーシャンズと激しく争っていた。 
 ここまでプロ入り最高の22試合に出場し、11打数3安打の打率.273、ホームラン1本、打点3、盗塁2。 

 守備はエラーが一つあるものの、守備率は.980。 
 一軍の登録日数も50日を超え、銀行口座にも少し余裕が出ていた。 

 とは言え、トーマス・ローリー選手がレギュラーをガッチリと掴んでいるので、まだスタメン出場は無い。
 たまにトーマスを休ませるために、瀬谷選手がスタメンで出ることがあるが、僕にまではお鉢が回ってこない。
 と彼女に電話で愚痴ったら、その翌日、朝比奈監督より、直々にスタメン出場を告げられた。
 遅ればせながら、今季初スタメンだ。

  相手は駿河オーシャンスタジアムでの静岡オーシャンズ戦。
  古巣相手の一戦だ。 
 相手に取って不足ない。

  静岡オーシャンズの先発は北岡投手。
  挨拶に行った際に「もし、俺から打ったらどうなるかわかっているんだろうな」と言われた。 
 ご飯でもご馳走してくれるんですか?、と聞いたら、「その次の対戦、楽しみにしとけ」と言われた。
  どういう意味だろう。 

 僕の打順は7番セカンド。
  展開にもよるが、進塁打や犠打など色々な役割を求められるだろう。 
 泉州ブラックスの先発は、高卒4年目の杉田投手。
  僕と同じ年にドラフト3位で指名された選手だ。
  二軍で実績を残し、今日プロ初先発を勝ち取った。 僕とは甲子園で対戦経験があり、その時は僕は4打数2安打で3塁打を1本打っていた。 (試合は4対0で、僕らが勝った) 

 杉田投手とは同学年ということもあり、入団以来、何かと親しくしてきた。
  何とか彼のプロ初勝利に貢献したいものだ。 
 初回、泉州ブラックスの攻撃は、1番の岸選手の二塁打を足がかりに、いきなり2点を取った。 僕はネクストバッターズサークルで待っていたが、打順が回ってこなかった。

  その裏、静岡オーシャンズの攻撃は、ショートの新井選手が初球をセンター前ヒット、2番の但馬選手がフルカウントからの四球でいきなりノーアウト一二塁のピンチを迎えた。

 3番は黒沢選手である。 打率.333でリーグの打率ランキングの首位を走っている。 
 そしてツーボールワンストライクからの4球目、鋭い打球が僕の頭上に飛んできた。
  僕は必死にジャンプして、グラブを伸ばした。

  ボールはグラブの先端に当たり、僕の後ろに落ちた。 
 僕は慌てて拾って、一塁に投げた。 間一髪、アウト。 
 これでワンアウト二塁、三塁だ。 
 
 取れなかったのは残念だったが、抜けていれば右中間真っ二つだっただろう。
  実際、杉田投手は右手を上げて、感謝の意を伝えてくれた。 

 次に迎えるのは4番のストラート選手である。 
 ちなみに5番は戸松選手、6番は清水選手、7番は高橋孝司選手と続く。

  黒沢選手の加入により、静岡オーシャンズ打線は、リーグ随一の強力打線となった。
  ストラート選手は初球をライトに打ち上げた。 大きな当たりではあったが、ライトの今中選手の守備範囲であり、難なく抑えた。

  新井選手がタッチアップでホームインし、これで2対1となった。 5番の戸松選手は初球を打って強烈なサードゴロ。
  サードの水谷選手が難なく捌いて、杉田投手は何とかこの回を1失点で切り抜けた。 

 2回の表の攻撃は、7番の僕からだ。
  北岡投手は速球が武器であるが、チェンジアップも得意である。 
 その球速差でバッターを打ち取るスタイルだ。 

 初球、内角胸元への速球。 僕は仰け反ったが、判定はストライク。 
 かってセカンドの位置で見ていたよりも、球の伸びが凄い。 
 手元で浮き上がってくるように見える。

  2球目はチェンジアップ。
  外角に外れた。 

 3球目は真ん中低目へのツーシームか。 僕は真っ直ぐと思って振ったが、ファールになってしまった。 
 これでワンボールツーストライク。追い込まれた。 

 4球目。 外角へのストレート。 ストライクゾーン、ぎりぎりに見えたのでファールで逃げた。 

 カウント変わらず、ワンボールツーストライクからの5球目。 
 内角へのチェンジアップだ。 これもストレートゾーンぎりぎりに入りそうだったので、辛うじてファールで逃げた。
 
  引き続きワンボールツーストライクからの6球目、決め球のストレートが外角に来た。
  僕はバットを横にして出した。 セーフティーバントだ。 うまくサードに転がった。
  相手は警戒しておらず、サードの戸松選手が定位置から猛ダッシュしてきた。
  僕は必死に走った。 一塁を駆け抜けると、ほぼ同時に戸松選手からの送球を一塁の清水選手がファーストミットに納めた。 
 判定は? 審判の判定が出るまで、一瞬間があった。 

 「セーフ」 僕は1塁上で安堵した。 静岡オーシャンズの君津監督がリクエストを申し出たが、ビデオ判定の結果も変わらず、セーフであった。
  よしこれでノーアウト一塁だ。 何とかホームに帰って、杉田投手を少しでも楽にさせたい。
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