58 / 72
第58話 2人の歯痒さ
しおりを挟む
『お前は何者だ』
なんだか久しぶりで新鮮な気分だな。
この街には僕を――僕のスキルを知っている人は多い。だから、改まってスキルのことを驚かれることは久しくなかった。
「あなたには僕のスキルが見えているのですか?」
『いいや。見られるのはステータスや魔法の得意属性のみ。そのどれもが中途半端で、騎士にしては平均以下だ』
直球で言われるとヘコむなぁ。
『しかし、その圧倒的な存在感は“魔の者”にとっては脅威でしかない。それがどうも引っかかる』
なるほど、1人だけ目立ってしまったというわけか。だからリヴァイアサンは僕に声をかけた。
「僕には神から与えられた【普通】というスキルがあるのです。きっと引っかかるのはそれが原因でしょう」
『ふうむ……聞いたこともないスキルだ。魔族《こちら》にもそんなものは居ない』
リヴァイアサンは訝しげに、だが興味深そうに低く唸った。
リヴァイアサンは海の神とも言える絶対的な存在。だから彼に興味を持たれるというのは栄誉でもあり、反対に“目を付けられた”とも考えられるので素直には喜べない。
『貴殿の願いは、帰ってくれ――ということだったか?』
「は、はい……できればそうしていただけると」
『良いだろう。こちらとしても不本意であったからな。だが、貴殿とはまたすぐにでも会うことになろう』
え、マジ?
『それではな』
『じゃあね、不思議な坊や』
『……』
3体はそれぞれ海に帰っていく――と思われたが、今の今まで一言も発さなかった(というか話せないと思っていた)クラーケンが触手を一本上げながらこちらへ視線を向けた。
『王都にも魔人が出た。奴の狙いは国王だ』
「国王……?」
『気張れよ、バルト』
バルトと言ったのか?どうして僕の名前を知っているんだ。
尋ねる前にクラーケンは海の中へと消えて行った。3体が去った後、他の生き残った魔物らも次々へ海中へ消える。しかし、疑問は払拭できぬまま。
◇◇◇◇◇
「クラーケンがそんなことを……」
全ての後始末が終わってから、僕はイザベラ海将の元を訪ねた。団長室には既にキャプテン・セリーナが居て、2人にだけはあの3体とコンタクトを取ったことを話した。
「しかし、鵜呑みにしてしまって良いのでしょうか?」
「例え人を欺く方便だったとしても、王宮に報告するべきだと思います」
国王が狙われている――なんて、事実なら大事だし、その報告を怠ったとなればクビでは済まないだろう。
それに、あのクラーケンはどこか違和感がある。魔物にしろ魔人にしろ、あそこまで人間らしいのは見たことがない。
「あと、リヴァイアサンが僕に会いに来るかもしれません」
「「へ?」」
威厳が微塵も感じられない表情になった2人を見て、不意に笑ってしまった。
「「笑い事じゃなーい!!」」
「す、すみません」
◇◇◇◇◇
テラドラック海岸の魔物が消えてから数時間後、インヒター王国王都、王国憲兵団本部内。
「これは国王の決定である。逆らえば、憲兵団といえども反逆罪となろう」
歯痒い。
今回の一件では、オーム領民や海洋騎士団の損害は無いに等しい。だけど、兵士もこの国の民であり、もっと尊重されるべき存在。それを、「国王の意だから」という理由だけで納得できるわけがない。
「おいおい、また大臣に噛み付いたのか?」
「先輩……だって、こんなのおかしいですよ!」
「まぁ、気持ちも分かるがな。俺たちの仕事は内部の崩壊を内部から防ぐこと。だがそれが通用するのは俺たちより低い連中に限る」
「それでは意味がありません。もしもの事があってからでは……」
友人《バルト》が居るから――でも、それだけじゃない。地方への対応がこれでは、王都での魔人の脅威に太刀打ちできない。
「俯くより仕事だ仕事。騎士団が出払っている今、最も危険なのは囚人が脱獄することだ。ホラ、行くぞ」
地下牢か。
あそこは嫌いだ。
なんだか久しぶりで新鮮な気分だな。
この街には僕を――僕のスキルを知っている人は多い。だから、改まってスキルのことを驚かれることは久しくなかった。
「あなたには僕のスキルが見えているのですか?」
『いいや。見られるのはステータスや魔法の得意属性のみ。そのどれもが中途半端で、騎士にしては平均以下だ』
直球で言われるとヘコむなぁ。
『しかし、その圧倒的な存在感は“魔の者”にとっては脅威でしかない。それがどうも引っかかる』
なるほど、1人だけ目立ってしまったというわけか。だからリヴァイアサンは僕に声をかけた。
「僕には神から与えられた【普通】というスキルがあるのです。きっと引っかかるのはそれが原因でしょう」
『ふうむ……聞いたこともないスキルだ。魔族《こちら》にもそんなものは居ない』
リヴァイアサンは訝しげに、だが興味深そうに低く唸った。
リヴァイアサンは海の神とも言える絶対的な存在。だから彼に興味を持たれるというのは栄誉でもあり、反対に“目を付けられた”とも考えられるので素直には喜べない。
『貴殿の願いは、帰ってくれ――ということだったか?』
「は、はい……できればそうしていただけると」
『良いだろう。こちらとしても不本意であったからな。だが、貴殿とはまたすぐにでも会うことになろう』
え、マジ?
『それではな』
『じゃあね、不思議な坊や』
『……』
3体はそれぞれ海に帰っていく――と思われたが、今の今まで一言も発さなかった(というか話せないと思っていた)クラーケンが触手を一本上げながらこちらへ視線を向けた。
『王都にも魔人が出た。奴の狙いは国王だ』
「国王……?」
『気張れよ、バルト』
バルトと言ったのか?どうして僕の名前を知っているんだ。
尋ねる前にクラーケンは海の中へと消えて行った。3体が去った後、他の生き残った魔物らも次々へ海中へ消える。しかし、疑問は払拭できぬまま。
◇◇◇◇◇
「クラーケンがそんなことを……」
全ての後始末が終わってから、僕はイザベラ海将の元を訪ねた。団長室には既にキャプテン・セリーナが居て、2人にだけはあの3体とコンタクトを取ったことを話した。
「しかし、鵜呑みにしてしまって良いのでしょうか?」
「例え人を欺く方便だったとしても、王宮に報告するべきだと思います」
国王が狙われている――なんて、事実なら大事だし、その報告を怠ったとなればクビでは済まないだろう。
それに、あのクラーケンはどこか違和感がある。魔物にしろ魔人にしろ、あそこまで人間らしいのは見たことがない。
「あと、リヴァイアサンが僕に会いに来るかもしれません」
「「へ?」」
威厳が微塵も感じられない表情になった2人を見て、不意に笑ってしまった。
「「笑い事じゃなーい!!」」
「す、すみません」
◇◇◇◇◇
テラドラック海岸の魔物が消えてから数時間後、インヒター王国王都、王国憲兵団本部内。
「これは国王の決定である。逆らえば、憲兵団といえども反逆罪となろう」
歯痒い。
今回の一件では、オーム領民や海洋騎士団の損害は無いに等しい。だけど、兵士もこの国の民であり、もっと尊重されるべき存在。それを、「国王の意だから」という理由だけで納得できるわけがない。
「おいおい、また大臣に噛み付いたのか?」
「先輩……だって、こんなのおかしいですよ!」
「まぁ、気持ちも分かるがな。俺たちの仕事は内部の崩壊を内部から防ぐこと。だがそれが通用するのは俺たちより低い連中に限る」
「それでは意味がありません。もしもの事があってからでは……」
友人《バルト》が居るから――でも、それだけじゃない。地方への対応がこれでは、王都での魔人の脅威に太刀打ちできない。
「俯くより仕事だ仕事。騎士団が出払っている今、最も危険なのは囚人が脱獄することだ。ホラ、行くぞ」
地下牢か。
あそこは嫌いだ。
10
お気に入りに追加
145
あなたにおすすめの小説


異世界で生きていく。
モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。
素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。
魔法と調合スキルを使って成長していく。
小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。
旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。
3/8申し訳ありません。
章の編集をしました。
あなたが残した世界で
天海月
恋愛
「ロザリア様、あなたは俺が生涯をかけてお守りすると誓いましょう」王女であるロザリアに、そう約束した初恋の騎士アーロンは、ある事件の後、彼女との誓いを破り突然その姿を消してしまう。
八年後、生贄に選ばれてしまったロザリアは、最期に彼に一目会いたいとアーロンを探し、彼と再会を果たすが・・・。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!
お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。
勇者としての役割、与えられた力。
クラスメイトに協力的なお姫様。
しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。
突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。
そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。
なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ!
──王城ごと。
王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された!
そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。
何故元の世界に帰ってきてしまったのか?
そして何故か使えない魔法。
どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。
それを他所に内心あわてている生徒が一人。
それこそが磯貝章だった。
「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」
目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。
幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。
もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。
そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。
当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。
日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。
「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」
──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。
序章まで一挙公開。
翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。
序章 異世界転移【9/2〜】
一章 異世界クラセリア【9/3〜】
二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】
三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】
四章 新生活は異世界で【9/10〜】
五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】
六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】
七章 探索! 並行世界【9/19〜】
95部で第一部完とさせて貰ってます。
※9/24日まで毎日投稿されます。
※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。
おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。
勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。
ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。
転生リンゴは破滅のフラグを退ける
古森真朝
ファンタジー
ある日突然事故死してしまった高校生・千夏。しかし、たまたまその場面を見ていた超お人好しの女神・イズーナに『命の林檎』をもらい、半精霊ティナとして異世界で人生を再スタートさせることになった。
今度こそは平和に長生きして、自分の好きなこといっぱいするんだ! ――と、心に誓ってスローライフを満喫していたのだが。ツノの生えたウサギを見つけたのを皮切りに、それを追ってきたエルフ族、そのエルフと張り合うレンジャー、さらに北の王国で囁かれる妙なウワサと、身の回りではトラブルがひっきりなし。
何とか事態を軟着陸させ、平穏な暮らしを取り戻すべく――ティナの『フラグ粉砕作戦』がスタートする!
※ちょっとだけタイトルを変更しました(元:転生リンゴは破滅フラグを遠ざける)
※更新頑張り中ですが展開はゆっくり目です。のんびり見守っていただければ幸いです^^
※ただいまファンタジー小説大賞エントリー中&だいたい毎日更新中です。ぜひとも応援してやってくださいませ!!

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

元チート大賢者の転生幼女物語
こずえ
ファンタジー
(※不定期更新なので、毎回忘れた頃に更新すると思います。)
とある孤児院で私は暮らしていた。
ある日、いつものように孤児院の畑に水を撒き、孤児院の中で掃除をしていた。
そして、そんないつも通りの日々を過ごすはずだった私は目が覚めると前世の記憶を思い出していた。
「あれ?私って…」
そんな前世で最強だった小さな少女の気ままな冒険のお話である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる