凡夫転生〜異世界行ったらあまりにも普通すぎた件〜

小林一咲

文字の大きさ
上 下
45 / 72

第45話 告白

しおりを挟む
「シャンパンはいかがですか?」

 船内は至って賑やか。そして平和な時間が流れていた。
 長めのスカートを引き摺った御婦人たちは、イケメンピアニストの演奏に夢中で、一方男性たちは短めのスカートの給仕に釘付けである。これも紳士の嗜みといったところか。

「ほら、見てあそこ」
 
 リラ中尉も警戒している素振りを見せることなく楽しんでいた。
 すると突然、船内放送が鳴り響いたかと思うと、魔導放送でアナウンスが行われた。

『この度は、我がピクトグラムにご乗船いただき誠にありがとうございます。皆様、どうぞ最後までごゆるりとお過ごしください。業務連絡、業務連絡、専従乗務員は船外西側エントランスまで集合願います』

 このアナウンスが何を意味したのか、リラ中尉の目つきが一瞬だけ仕事モードになったのを見逃さなかった。

「来たわよ」
「……はい」

 何が来たのか、言わずもがな僕にだって分かる。
 船内放送は西側エントランスと言っていた。これはあらかじめ伝えられた暗号で、「海賊船が付近まで近づいている」というもの。

 これがもし「東側厨房への応援要請」だった場合、海賊と騎士団が戦闘中である証拠。同じように「後方客室でお客さまがお困りです」という放送の場合は、海賊船が予想より多く襲来しているということ。またいくつか暗号があるが、あまりにも細かいのでリラ中尉からは知らされていない。

「まだ私たちには何もすることがないから楽にしていて良いわよ」

 そんなことを言われたって、初めての内偵が始まってすぐに本当に海賊が現れるとは――心の準備は乗船前に済ませていたはずだが、それとこれとはまた違う話だ。

 僕の鼓動は首の裏筋まで聞こえて始めていた。

「対人は初めてだったわね。それほど緊張することもないわ。いつも通りやればいい」
「ひとつ聞いても良いですか?」
「なに?」

 少々躊躇しながら僕が入団する前のことを聞いた。

「何があったんですか? あっ、言いたくなかったら全然……」
「そうね、君には話す必要があるわね」

 彼女はゆっくりと立ち上がり、僕の手を掴むと外へ出た。
 少し肌寒い夜風が心地よく右から左へと流れ、靡いたリラ中尉の茶色の髪が月灯りに照らされている。

「あれは今日と同じように内偵に出ていた時のこと――」

 ある海賊のアジトを把握するため、リラ中尉と他3名の隊員は海賊になりすましてその船に潜入していた。そのアジトがあるとされていた場所、それはオーム領からほど近い洞窟であった。
 その日は魔物が多く、海賊らもその処理で大忙しだったため、正体がバレることはなく内偵は順調に進んでいた。しかし、悲劇は突如として起きる。

「君も覚えているだろう、オームの大災害と呼ばれた最悪の日のことを」
「はい、忘れるはずがありません」

 その時は船に向かって押し寄せる魔物の群れを対処することで精一杯で、陸に向かう魔物には気を配ることができなかったという。
 
 何とか危機を脱したと思われた時、荒れ放題になった港から流れてくる人々とその血液に紛れ、制服を着た者たちの亡骸を何体も見送った。その中に、まだ息のある者がいた。それはオーム領警備隊の制服を着た男で、意識のない同僚を片手に引き上げながら必死に木材の破片にしがみついていたのだ。「助けてくれ、助けて……」と何度も懇願するようにこちらを見上げていたが、海賊たちはその制服を見ると無視を決め込んだ。

「私は騎士として重大な罪を犯したのよ。任務中だから、という理由だけで同胞の助けを拒んでしまった」
「そんな……」
「それが警備隊の隊長と副隊長だったと知ったのは帰還し、報告を終えた後だった」

 僕の頬には既に枯れたはずの涙が伝い、悲しみが肩に乗ったような感覚になる。

「君が来た時、私は団長から警備隊の隊長の弟子であると聞いたわ。私は君にとって敵《かたき》も同然なのよ」

 溢れたのは悲しみか怒りか、あまりの告白に僕は声を失った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮)

土岡太郎
ファンタジー
 自分の先祖の立派な生き方に憧れていた高校生の少女が、ある日子供助けて死んでしまう。 死んだ先で出会った別の世界の女神はなぜか彼女を気に入っていて、自分の世界で立派な女性として活躍ができるようにしてくれるという。ただし、女神は努力してこそ認められるという考え方なので最初から無双できるほどの能力を与えてくれなかった。少女は憧れの先祖のような立派な人になれるように異世界で愉快で頼れる仲間達と頑張る物語。 でも女神のお気に入りなので無双します。 *10/17  第一話から修正と改訂を初めています。よければ、読み直してみてください。 *R-15としていますが、読む人によってはそう感じるかもしないと思いそうしています。  あと少しパロディもあります。  小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様でも投稿しています。 YouTubeで、ゆっくりを使った音読を始めました。 良ければ、視聴してみてください。 【ゆっくり音読自作小説】女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮) https://youtu.be/cWCv2HSzbgU それに伴って、プロローグから修正をはじめました。 ツイッター始めました。 https://twitter.com/tero_oo

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

異世界で生きていく。

モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。 素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。 魔法と調合スキルを使って成長していく。 小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。 旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。 3/8申し訳ありません。 章の編集をしました。

転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?

N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、 生まれる世界が間違っていたって⁇ 自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈ 嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!! そう意気込んで転生したものの、気がついたら……… 大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い! そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!! ーーーーーーーーーーーーーー ※誤字・脱字多いかもしれません💦  (教えて頂けたらめっちゃ助かります…) ※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

賢者の幼馴染との中を引き裂かれた無職の少年、真の力をひた隠し、スローライフ? を楽しみます!

織侍紗(@'ω'@)ん?
ファンタジー
 ルーチェ村に住む少年アインス。幼い頃両親を亡くしたアインスは幼馴染の少女プラムやその家族たちと仲良く過ごしていた。そして今年で十二歳になるアインスはプラムと共に近くの町にある学園へと通うことになる。  そこではまず初めにこの世界に生きる全ての存在が持つ職位というものを調べるのだが、そこでアインスはこの世界に存在するはずのない無職であるということがわかる。またプラムは賢者だということがわかったため、王都の学園へと離れ離れになってしまう。  その夜、アインスは自身に前世があることを思い出す。アインスは前世で嫌な上司に手柄を奪われ、リストラされたあげく無職となって死んだところを、女神のノリと嫌がらせで無職にさせられた転生者だった。  そして妖精と呼ばれる存在より、自身のことを聞かされる。それは、無職と言うのはこの世界に存在しない職位の為、この世界がアインスに気づくことが出来ない。だから、転生者に対しての調整機構が働かない、という状況だった。  アインスは聞き流す程度でしか話を聞いていなかったが、その力は軽く天災級の魔法を繰り出し、時の流れが遅くなってしまうくらいの亜光速で動き回り、貴重な魔導具を呼吸をするように簡単に創り出すことが出来るほどであった。ただ、争いやその力の希少性が公になることを極端に嫌ったアインスは、そのチート過ぎる能力を全力にバレない方向に使うのである。  これはそんな彼が前世の知識と無職の圧倒的な力を使いながら、仲間たちとスローライフを楽しむ物語である。  以前、掲載していた作品をリメイクしての再掲載です。ちょっと書きたくなったのでちまちま書いていきます。

僕だけレベル1~レベルが上がらず無能扱いされた僕はパーティーを追放された。実は神様の不手際だったらしく、お詫びに最強スキルをもらいました~

いとうヒンジ
ファンタジー
 ある日、イチカ・シリルはパーティーを追放された。  理由は、彼のレベルがいつまでたっても「1」のままだったから。  パーティーメンバーで幼馴染でもあるキリスとエレナは、ここぞとばかりにイチカを罵倒し、邪魔者扱いする。  友人だと思っていた幼馴染たちに無能扱いされたイチカは、失意のまま家路についた。  その夜、彼は「カミサマ」を名乗る少女と出会い、自分のレベルが上がらないのはカミサマの所為だったと知る。  カミサマは、自身の不手際のお詫びとしてイチカに最強のスキルを与え、これからは好きに生きるようにと助言した。  キリスたちは力を得たイチカに仲間に戻ってほしいと懇願する。だが、自分の気持ちに従うと決めたイチカは彼らを見捨てて歩き出した。  最強のスキルを手に入れたイチカ・シリルの新しい冒険者人生が、今幕を開ける。

処理中です...