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第40話 脳筋自慢

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「気をつけ、海洋騎士団団長に敬礼!」

 きめ細やかで美しい水色の長髪。胸章には数えきれないほどの勲章が付いており、この女性団長がかなりの実力者であることを証明している。まあ、団長なんだから当たり前と言えばそれまでだが。

「皆――というか、バルト・クラスト新兵」
「は、はいっ!」

 説明しよう。
 この会話の流れでお察しの方もいるかも知れないが、騎士学校から海洋騎士団への入隊は1人だけ、新兵は僕だけなのだ。つまり、あちらの団長さんは僕の目をしっかりと見て僕だけに話しかけている。

「良くぞこの海洋騎士団へ来てくれた。私は海将イザベラ・ブラックプリンスである。
 君がこの海洋騎士団に加わってくれたことを誇りに思う。我々の任務は――」

 ブラックプリンス……?
 それってまさか、警備隊長の?

「以上、新兵の諸君に期待する」

 諸君、諸君ね。

「海洋騎士団団長に敬礼!」

 長い髪を靡かせて団長は降壇した。
 学校を卒業したちはいえ、またこれから1ヶ月は新兵としての訓練が始まる。これは体力や知識を蓄える騎士学校の訓練とは違い、新兵の素養やこれから騎士としてやっていけるかを見極めるものであり、その全てを実戦で行う。騎士学校がゼロ歩目であるなら、僕はようやく第一歩目を踏み出せたわけだ。

「これからよろしくな新兵」
「よろしくお願いします!」

 僕の最初の配属は沿岸防衛隊。先輩兵らによれば、ここはスキル持ちの新兵が必ず通る第一関門であるという。逆にここさえ乗り切ってしまえば、新兵期間が終われば配属が変わるので多少は楽になるらしい。

「じゃあ早速、船に乗ろう。自己紹介なんかは船の上でやればいいからな」

「これが警備艇……」

 船着場に置かれた警備艇。船体は恐ろしくデカく、デザインは高速で移動できるように設計された流線形で、エルドリウムと呼ばれる軽量でありながらも魔力を効率よく伝達する金属で造られている。もちろん動力は魔力だ。船内に設置された魔力コアに魔力を供給することで駆動する。これはどんなに大きな船でも同じで、供給要因が最低1名は乗船しなくてはならない決まりになっている。前世の船に比べたら環境的な反面、若干効率が悪い気がするが――。

「これは最新鋭の船でな、1人の魔力供給で3日も運航できるんだぜ」
「それは、すごいですね!!」

 心からの関心だ。
 
 先輩兵と共に乗船すると、船上には既に他の隊員や上官の姿があった。
 僕の役割は主に戦闘要因で、船を動かすのは別の隊員の役目だ。操縦してみたい気持ちが無いわけではなかったが、仕事量はそこまで多くなさそうで安心した。

「航海士と監視士以外は集合!」

 船が動き出した頃、上官の指示で隊員たちが甲板に集まる。

「これよりバルト新兵との親睦を深めるため、自己紹介コーナーを執り行う」

 真剣な眼差しとは裏腹に、何ともポップなネーミングである。

「私からいこう。この船で1番偉い人、キャプテン・セリーナ・ストームレイヴンである」

 キャプテンは徐にステータスを開くと僕の前に見せつけた。

*****

名前:セリーナ・ストームレイヴン
年齢:32
レベル:85
腕力:60
器用:72
頑丈:68
俊敏:75
魔力:95
知力:88
運:70
スキル【嵐の召喚士】

*****

 この強力なステータスなら自慢したくもなる。でも、それよりも僕が驚いたのは見た目よりもいくつか若いことだ。

「よ、よろしくお願いします!」
「じゃあ、次は俺たちだな」

 総勢16名の乗組員が僕の前に列をなし、自己紹介と言う名のステータス自慢を始めた。

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