凡夫転生〜異世界行ったらあまりにも普通すぎた件〜

小林一咲

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第36話 作戦も何も

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「レディス&ジェントルマン!」

 大会の観客席は熱気に包まれ、各地から集まった人々が声を上げていた。闘技場の中央に立つ僕たちチームは、緊張と興奮が入り混じった気持ちで戦闘の開始を待っていた。
 一回戦の相手は今年の開催国であるアジバロイド共和国の名門、パリィ魔法剣術専門学校だ。巷では優勝候補だとも囁かれているが、この時の僕たちはそんなことを知る由もなかった。

「第一試合、開始!」

 声と共に、先鋒のアレクが前に出る。
 彼は初っ端から繰り出された広範囲魔法を華麗に躱すと、次に相手の学生が魔法を放つコンマ数秒前、アレクの剣が試合を決めた。全てを読み切っていたかのような完璧な勝利に、会場は大盛り上がり。優勝候補と言われていただけに、かの生徒に賭けていた者も多いようで、座布団の代わりに飛ぶのは罵声とブーイングばかりだった。

「続いては次鋒戦だあ!」

 フィンリスが前に出て、相手校も「負けられない」と意気込んで前に出る。だが、結果は同じ。今回も瞬殺に近い形で勝負が決した。

「つ、続いては中堅戦!」

 イシュクルテが前に出る。言わずもがな勝利。

「い、いよいよ大将戦だあ!」

 僕が前に出る。制限時間いっぱいで引き分け。
 
「勝者、インヒター王国騎士学校チーム!」

 なぜこんなにも簡単に勝ててしまうのか。それは、うちには最強の予言者がいるからである。
 大会が始まる1時間ほど前、全員で最終の作戦会議をした際のことだ。

「まず1人目は最初に広範囲の魔法を撃ってくる。避けるには右後方、ちょうど観客席の手前3メートルの所まで逃げて」
「なるほど……」

 こんな調子で出場する皆に助言――いや、ある意味カンニングのようなテコ入れをしたのだ。

「イシュクルテとバルトは負けることはないでしょうから、これで行きますわ」

 なんて言っていたけれど、本当に勝ってしまうなんて。恐ろしや【星の予言者】。
 
 その後も僕たちは順当に勝ち上がり、気づけば舞台は3日目の決勝戦。相手は昨年優勝のシャイン大帝国海軍操練所。魔法、剣術、体術の全てにおいて隙が無く、個々の力を底上げするための策略を練ることにも余念が無い。ここまでの試合も相手を翻弄させるような戦いであった。

「今大会より、決勝戦は時間無制限、勝ち抜きアリとなっています」

「げっ……マジかよ」
「それって私たちに不利なルールじゃありませんこと?!」

「い、いえ、大会の事前告知にも書いてることですし……」

 時間無制限となれば、ボクの大将としての役目は終わったも同然じゃないか。でも、勝ち抜きがアリなのはこちらとしてはラッキーだ。策略がメインの相手方にとって、パワーの差はかなりの痛手となるだろうからな。

「どう? エリシア」
「相手の補欠がきな臭いですわ。私のスキルと同格かそれ以上のスキルを持っているわ」
「エリシア以上って……未来が見えるってこと?」
「詳しいことは分かりかねますわ。彼が戦場に出ないのなら少しは安心できるのですけれど」

 そんなことを言っている間に、出場選手の変更、告知時間となった。

「ひとまずは延長を狙いましょう。勝てるのなら勝っても良いですけど、イシュクルテ以外は無理しないように」

 僕たちは延長までメンバーは変えず、引き分けを狙う作戦になった。
 
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