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第28話 初陣
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「緊急招集、緊急招集だ!」
まだ夜も明けきらぬ頃、眠っていた僕たち学生を目覚めさせたのは、入学試験主席のアレクシオスだった。彼は今晩の寮の見張り“当直”と呼ばれる訓練に割り当てられていて普段は何事もなく終えるはずが、幸か不幸か彼の時に限って緊急事態のようだ。
「一体全体、なんの騒ぎだあ?」
学生のほとんどはまだ目を開けることができていない。前日の訓練での疲れもあるうえに早朝も早朝。それもアレクシオスの慌てようを見ればそうも言っていられない。
「先ほど緊急の魔法通信でライアン先生から報告があった。我々がこれから応援に向かうはずだった区画に魔物が大量発生している、と。それで、騎士団が応援が向かうまでの間の命綱として、我々学生部隊は今すぐに出発する」
「その、大量発生って“どのくらい”なんだ……?」
集まった皆が息を飲む中、誰かが質問をした。
「大災害級らしい」
大災害級。本来、災害級とは数十から数百体の魔物が押し寄せることを意味し、それが大災害ともなると文字通り、災害級の倍以上の魔物が押し寄せてくることを意味している。しかし、これはあくまでも大小、強弱関わらず数えたものであり、大災害級でも「意外と対応が早く終わった」などということはざらにある。
「各員、準備を始めてくれ!」
アレクシオスの一声で、学生たちは顔色を変えた。その目は恐怖ではなく、どこか楽しんでいるようにも感じる。それもそのはず、彼らのほとんどは強力なスキルを持つ選ばれし者たちであり、その初陣がこのように自身の名を売ることができる絶好のチャンスなのだから。もちろん、僕もね。
「ちょっといいか、バルトくん」
自室に戻り、身支度を整えている僕にアレクシオスが神妙な面持ちで訪ねてきた。
「分かっているとは思うが、今回の戦いは厳しいものになるだろう。君の力を大いに借りることになる」
「はい、重々承知しています」
彼は少し笑みを浮かべてから再び真剣な表情になり「君だけが頼りだ」と言って僕の肩を叩いた。
「なんだ、あの人も人間らしいところがあるんだな」
「そ、そうだね……ところでダリオン、君は何をしているんだい?」
「ん? 『腹が減ってはドラゴンも空を飛べぬ』ってね」
同室の親友はどこに保存していたのかもわからない乾パンを、むしゃむしゃと頬張りながら満面の笑みを浮かべていた。
「馬を引ける者は率先して手綱を握れ!」
「剣を忘れるな、殴り合いで勝てる相手じゃねえぞ!」
士気は上々。寮の前には学校の馬小屋から引っ張ってきた毛並みの良い戦友たちがずらりと並ぶ。その中で、一際目立つ毛色の馬がいた。
「お、おい暴れるなよ」
「ブリリリリヒヒヒッ!」
金のたて髪に白い体毛。毛色の違うその馬はソリッヒルと呼ばれ、かなり気性の荒い性格なのだそう。そして僕は、案の定その余った御馬さんに乗るしか無くなってしまった。
「じゃ、任せたぜ!」
「暴れさせるなよお」
逃げるように去っていく飼育当番の生徒たち。
「よ、よろしくなソリッヒル」
「ブリリリリヒヒヒッ!」
「どうどうどう!」
何が気に食わないのかわからない。
この御馬様はこちらの様子を伺っているようにも見えるが――まさか、な。
「ソリッヒルさん……よろしくお願いします」
「……ブヒヒ」
なんとも、プライドの高い御馬様のようだ。
まだ夜も明けきらぬ頃、眠っていた僕たち学生を目覚めさせたのは、入学試験主席のアレクシオスだった。彼は今晩の寮の見張り“当直”と呼ばれる訓練に割り当てられていて普段は何事もなく終えるはずが、幸か不幸か彼の時に限って緊急事態のようだ。
「一体全体、なんの騒ぎだあ?」
学生のほとんどはまだ目を開けることができていない。前日の訓練での疲れもあるうえに早朝も早朝。それもアレクシオスの慌てようを見ればそうも言っていられない。
「先ほど緊急の魔法通信でライアン先生から報告があった。我々がこれから応援に向かうはずだった区画に魔物が大量発生している、と。それで、騎士団が応援が向かうまでの間の命綱として、我々学生部隊は今すぐに出発する」
「その、大量発生って“どのくらい”なんだ……?」
集まった皆が息を飲む中、誰かが質問をした。
「大災害級らしい」
大災害級。本来、災害級とは数十から数百体の魔物が押し寄せることを意味し、それが大災害ともなると文字通り、災害級の倍以上の魔物が押し寄せてくることを意味している。しかし、これはあくまでも大小、強弱関わらず数えたものであり、大災害級でも「意外と対応が早く終わった」などということはざらにある。
「各員、準備を始めてくれ!」
アレクシオスの一声で、学生たちは顔色を変えた。その目は恐怖ではなく、どこか楽しんでいるようにも感じる。それもそのはず、彼らのほとんどは強力なスキルを持つ選ばれし者たちであり、その初陣がこのように自身の名を売ることができる絶好のチャンスなのだから。もちろん、僕もね。
「ちょっといいか、バルトくん」
自室に戻り、身支度を整えている僕にアレクシオスが神妙な面持ちで訪ねてきた。
「分かっているとは思うが、今回の戦いは厳しいものになるだろう。君の力を大いに借りることになる」
「はい、重々承知しています」
彼は少し笑みを浮かべてから再び真剣な表情になり「君だけが頼りだ」と言って僕の肩を叩いた。
「なんだ、あの人も人間らしいところがあるんだな」
「そ、そうだね……ところでダリオン、君は何をしているんだい?」
「ん? 『腹が減ってはドラゴンも空を飛べぬ』ってね」
同室の親友はどこに保存していたのかもわからない乾パンを、むしゃむしゃと頬張りながら満面の笑みを浮かべていた。
「馬を引ける者は率先して手綱を握れ!」
「剣を忘れるな、殴り合いで勝てる相手じゃねえぞ!」
士気は上々。寮の前には学校の馬小屋から引っ張ってきた毛並みの良い戦友たちがずらりと並ぶ。その中で、一際目立つ毛色の馬がいた。
「お、おい暴れるなよ」
「ブリリリリヒヒヒッ!」
金のたて髪に白い体毛。毛色の違うその馬はソリッヒルと呼ばれ、かなり気性の荒い性格なのだそう。そして僕は、案の定その余った御馬さんに乗るしか無くなってしまった。
「じゃ、任せたぜ!」
「暴れさせるなよお」
逃げるように去っていく飼育当番の生徒たち。
「よ、よろしくなソリッヒル」
「ブリリリリヒヒヒッ!」
「どうどうどう!」
何が気に食わないのかわからない。
この御馬様はこちらの様子を伺っているようにも見えるが――まさか、な。
「ソリッヒルさん……よろしくお願いします」
「……ブヒヒ」
なんとも、プライドの高い御馬様のようだ。
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